恋愛に不器用な料理人と出戻りの幼馴染
春風秋雄
幼馴染の保奈美が立派なブリを持ってきた
厨房で洗い物をしていると、お隣さんの保奈美がいきなりやってきた。
「真也、悪いけどこのブリ捌いてもらえないかな?」
見ると立派なブリを持っていた。
「いいけど、今日の夕飯で食べるのか?」
「そのつもりだけど、忙しい?」
時計を見るとまだ17時になっていなかった。
「大丈夫だ。刺身にするのか?」
「片身だけ刺身にして、残りの片身は真也の家で食べてよ」
「うちがもらっていいのか?」
「うん。おばさんには話してあるから」
「保奈美のところは4人だろ?片身を全部刺身にしたら多すぎないか?照り焼き用に4枚切っておこうか?」
「そうしてくれたら助かる」
「アラはどうする?冷凍しておけばいつでもブリ大根が作れるよ」
「じゃあ、アラも半分こにしようよ」
「わかった。じゃあ、6時に取りに来て」
「悪いね。お願いね」
保奈美はそう言って厨房を出て行った。
俺の名前は芹澤真也。37歳の独身だ。今は実家の軽食喫茶を手伝っている。4年前までは東京の有名料理店で板前をしていた。自分で言うのも何だが、腕は良かった。将来は自分の店を持つのが夢だった。ところが、5年前に店が終わって自分のマンションに帰る途中で、居眠り運転の車に跳ねられてしまった。命に別状はなかったが、事故の後遺症で左足が不自由になってしまった。料理をするのに足は関係ないと思ったが、長時間立っていられなくなった。働いていた料亭は仕込みの時間からお客が引けるまで、5時間くらいは立ちっぱなしで忙しく動き回るので、仕事を続けていくのは無理だった。まさか俺だけ座って作業をするわけにもいかず、店を辞めることにした。これからどうしようかと思っていたところ、親父がしばらく実家の店を手伝えと言ってきたので、実家に帰ることにした。それまで実家の喫茶店は、スパゲッティやサンドウィッチを出す程度の軽食しか扱っていなかったが、俺のために刺身定食や天ぷら定食などもメニューに入れてくれた。もう包丁は置こうと俺は思っていたが、親父が店を流行らすためだというので、仕方なく引き受けることにした。親父は俺のために厨房に高さ調節ができる椅子を置いてくれた。しかし、喫茶店で出す定食なんか数がしれている。鯛やブリを1本買ってくることはない。短冊で仕入れて、それを切るだけだ。天ぷらも野菜が中心で、エビを少し仕入れて捌くだけなので、料亭で培った腕を振るうほどのことはない。
高坂保奈美は幼馴染だ。俺と同い年で、子供の頃は家が隣同士ということでよく遊んだ。中学校までは同じ学校へ通っていたが、高校は別々になり、高校を卒業すると俺は東京の調理専門学校へ行ってそのまま料亭に就職したので、何年も会っていなかった。俺が親父の店を手伝うために帰ってくると、保奈美は変わらずお隣の実家にいた。聞くと一度嫁いだが姑と折り合いが合わず離婚して出戻ったということだった。
俺が帰って来た時、保奈美はうちの店に閉店間際に来て、そのまま居座って根掘り葉掘り俺のことを聞いてきた。最初は他愛のない話だったが、聞きたかったことは料理人の道は諦めたのかということを聞きたかったようだ。ひょっとしたらうちの両親から頼まれたのかもしれない。
「料理人としてやっていきたいのは山々だが、やはりこの足では無理だよ。どこも雇ってくれない。それに包丁を握る機会が減れば腕が鈍っていくし、まあ諦めるしかないよな」
俺がそう答えると、保奈美は「そうか」と言って帰って行った。
それから保奈美は時々「鯛」や「ブリ」を1本持ってきて捌いてと言って来る。最初は俺を便利に使おうとしているのかと思ったが、ひょっとしたら俺の腕が鈍らないように定期的に包丁を使わせようとしているのではないかと思えてきた。この程度ではどうしようもないのにと思いながらも、やはり包丁を握るのは楽しい。俺はその好意に甘えて魚を捌かせてもらっている。
俺は足が不自由なので基本的に配膳はしないようにしている。お客様に気を使わせてしまうからだ。定食を作ったらお袋か親父が客席まで運ぶ。しかも元々喫茶店なので、和定食の注文はそれほど多くはない。スパゲッティやサンドウィッチは親父やお袋が作るので、この店で俺の出る幕はそれほど多くない。この店における俺の貢献度はかなり低いと思う。だから賄いは俺が作るようにした。店が始まる前の朝食だけはお袋が作るが、昼食も夕食も俺が作っている。親父は少ないながらも俺に給料を出してくれた。俺はそのお金で洋食の料理本を買った。和食だけではなく洋食も作れるようになればお店に貢献できるのではないかと思ったのだ。本で勉強した料理を食卓に並べ、親父にその感想を聞くということを繰り返した。
「真也、洋食もいいけど、私はあんたの作った和食が食べたいよ」
お袋がそう言うと、親父もそれに同意する。
「店のために洋食を勉強してくれているのはありがたいが、やはり真也の和食は絶品だから、俺もお前の作った和食を食べたい」
親父はそう言いながらも俺が作った洋食を「旨い」と言って完食する。親父の言葉を聞いて、この店では俺の居場所はないのかもしれないと思った。
店の定休日の日曜に、保奈美がいきなり来た。
「真也、買い物に行きたいのだけど、車出してくれる?」
右足は普通に動くので、運転は出来る。東京から持って帰った車をたまに乗りまわしているのを保奈美は知っているので、度々俺を運転手として使う。スーパーに着くと、俺はいつも車で待っているのだが、その日は保奈美が「魚を見てほしい」というので、ついて行くことになった。カートを押しながら俺はゆっくり歩く。鮮魚コーナーに来て俺は驚いた。このスーパーは魚が新鮮だということで有名らしいが、その種類の多さは、ちょっとした市場だった。久しぶりに新鮮な魚の数々を前にして、俺の心は踊った。それが顔に出たのだろう。
「やっぱり魚を前にすると興奮する?」
保奈美がからかうように言った。
「そうだね。それで、今日は何を買うの?」
「それを真也に決めてもらおうと思って来てもらったの。今日はうちの高坂家と真也のところの芹澤家で一緒に夕食を食べることにしているから、その料理を真也に任せようということになったの」
「そんなの俺聞いてないよ」
「だから今伝えているじゃない。だから、真也が料理したい魚を選んで」
真ダラがあるのを見て、鍋にしても良いかなと思ったが、せっかくだからちゃんとした料理にしてみたいと思った。頭の中でお品書きを思い浮かべる。咄嗟に“春のおもてなし”にしようと考えた。鮮魚は鯛を1尾、甘鯛を1尾、それに桜エビとアサリを買った。青果コーナーに戻り、木の芽(山椒の若芽)と筍、そして天ぷら用にタラの芽とこごみを買った。他の野菜は家にある物で大丈夫だろう。精肉コーナーに行き、和牛のヒレ肉を買って買い物を終了した。お金は両家が出し合ったようで、保奈美がすべて支払った。
家に帰った俺は、早速仕込みを始める。時計はまだ2時過ぎだったが、筍とアサリの下ごしらえに時間がかかるので、ちょうど良い時間だった。アサリの砂抜きをするため塩水に浸して冷蔵庫に保管する。そのあと筍のアク抜きをする。時間があまりないので、料亭ではあまりやらないやり方だが、筍を適当な大きさに切って、米ぬかではなく、重曹を使ってアク抜きをする。鍋を火にかけてから、俺はお品書きを書いた。
前菜 浅蜊・筍・菜の花の酢味噌和え
御椀 筍と甘鯛 うす葛仕立て
御造り 鯛と桜エビ
焼物 鯛の木の芽焼き
合肴 牛肉と野菜の煮込み 共地餡
揚物 桜エビのかき揚げ 春の山菜天ぷら
食事 浅蜊御飯
夜になり、皆でうちの店で食べることにした。テーブルをくっつけて皆で座れるようにし、配膳を保奈美に手伝ってもらった。家庭で食べるので会席のように順番に出すわけではなく、前菜から御造りまで一緒に出し、食べ終わった頃に焼物と合肴を出し、そして最後に揚物と食事を出すといった形にした。
皆「美味しい」と言って喜んでくれた。
「真也ちゃん、美味しいよ。こんな腕を持っているのにもったいないね。もう一度料理の道に進んだらどうだい?」
保奈美のお父さんがそう言ってくれた。
「そうしたいのは山々ですが、この足では雇ってくれるところはありませんから」
「そうかあ、じゃあ自分の店を持つしかないね」
「そんなお金はありませんよ。それにこの足では一人で回すのは無理なので、優秀な助手が必要ですし、私なんかのところに来てくれる腕のある職人はいませんよ」
これは高坂のおじさんに言っているのと同時に、自分自身に言って聞かせている言葉だった。
おじさんは俺の言葉に「そうかあ」と言ってとても残念そうな顔をしてくれた。親父とお袋は何も言わず寂しそうにしている。保奈美だけは何も言わず黙々と料理を食べていた。
次の日曜日に保奈美がドライブしようと誘ってきた。
「ドライブって、どこへ行くんだよ?」
「今日は私が運転するから、行き先は任せて」
保奈美はお父さんから借りた車の運転席に座った。
保奈美が連れて行ってくれたところは海だった。海を見るのは久しぶりだ。砂浜に出て二人で並んで座る。
「真也はどうして結婚してないの?」
いきなりそんな質問かよ。
「あのまま料亭で働いていたら、料亭のお嬢さんと結婚していたと思う。そういう話が女将さんからきていた。その話があったときは、お嬢さんはまだ大学生で、あと3年か4年経ってからという話だった。それで俺が事故にあったものだから、その話自体も消えてしまったけどね」
「じゃあ、事故さえなければ今頃はお嬢さんと結婚していたんだ。お嬢さんのこと、好きだったの?」
「好きとか嫌いとかじゃなかった。あまり話したこともなかったし。年も離れていたしね」
「綺麗な人だった?」
「美人とまではいかないけど、十人並みじゃないかな」
「そのお嬢さんと結婚したかった?」
「お嬢さんは一人娘だったから、お嬢さんと結婚すれば俺が後継ぎになれるわけだし、そういう意味では結婚したいと思ったけど、この足になってしまっては、お嬢さんと結婚しても意味ないからね」
「そうかぁ、真也は恋愛よりも仕事をとるタイプかぁ」
「というか、俺女性と付き合った経験がないんだ。東京へ行ってからは料理一筋だったし、恋愛というものがよくわからないんだよ」
「ひょっとして真也、その年になって女性経験がないの?」
「そんなわけないだろ。特定な相手がいなかったというだけで、それなりに経験はあるよ。それより保奈美は離婚して結構経っているんだろ?再婚はしないのか?」
「再婚はしたいと思っているよ。でも、長男はもう懲り懲り。姑とうまくやっていく自信ないもの。そうすると、相手がいないんだよね。今の時代次男って少ないじゃない?いたとしても、この年になるとみんな結婚しているし」
保奈美は嫁ぎ先で相当辛い思いをしたのだろうな。
「それより、真也は、条件さえ整えばもう一度料理人としてやっていきたいという気持ちはあるの?」
「そりゃあ気持ちはあるけど、なかなか条件は整わないだろうな」
「そうだね。でも、この前の料理は、本当に美味しかった。もったいないよ。あれだけの腕があるのに」
保奈美がしみじみと言ってくれた。自分が作った料理を心の底から美味しいと言ってもらえる。料理人としてこれ以上の喜びはない。
「そうだ、この前のお礼をしなければ」
お礼なんかいいよと言いかけたとき、いきなり保奈美が俺の唇をふさいだ。俺は驚いてしばらくじっとされるがままだった。唇を離した保奈美がニコッと笑って言った。
「久しぶりにこんなことした」
保奈美は翌週も日曜日に俺をドライブに誘ってきた。
「なあ、この前のキスは何だったの?」
俺はこの1週間考えていたことを聞いた。
「だから、料理のお礼だって言ったじゃない」
「お礼にあんなことするか?」
「お金の方がよかった?」
「そういうことを言っているんじゃないよ」
「私、真也のことずっと好きだったんだよ」
「嘘だろ?」
「本当だよ。子供の頃から好きだった。でも真也は東京へ行ってしまって、初恋ってやっぱり叶わないものなんだなと思った。でも、いきなり真也が東京から帰ってきて、昔の気持ちが蘇ってきて胸がキュンってなって嬉しかった。でも、夢だった料理人をあきらめて帰ってきたと聞いて、どう接していいのかわからなかった。とにかく色々理由をつけて真也に話しかけたかった」
「それで魚を捌いてとか頼んできたのか?」
「うん。話しかける口実が、それくらいしか思いつかなかったから」
「そんなの、いくらでも話しかければいいじゃないか。俺はてっきり料理の腕が落ちないように、たまには包丁を握れと、保奈美がわざわざ魚を持ってきてくれているのかと思っていた」
「そうか、そういう効果もあったのか」
「ひょっとして、あの魚、全部保奈美がお金を出していたのか?」
「そうだよ」
「なんだ、そうだったのか。半分うちで食べろとかいうから、親父かお袋が半分出していると思っていた」
「おばさんは全然気にせず、ありがとうって言って、素直にもらっていたよ」
お袋はそういうやつだ。
「今までの魚、値の張る魚ばかりだったけど、けっこうお金使っただろ?」
「そうね、それなりに使ったけど、私意外とお金あるから」
「そうなんだ」
「ねえ、真也が私のことどう思っているかはわからないけど、今から行くところ、黙って付き合ってくれる?」
「どこへ行くんだよ?」
保奈美は答えない。その代わり目の前にホテルの看板が見えてきた。
「ひょっとしてあそこに入るのか?」
「責任取ってなんて言わないから。この前キスしたら、もう気持ちを抑えられなくなった」
そのあと、俺はどういうふうに返事をしたのか覚えていない。気が付いたときは、ホテルのベッドの上で夢中になって保奈美を抱いていた。
「俺、中学の時まで保奈美のこと好きだったんだと思う」
「本当?それからは?」
「高校が離れてしまってから、会うこともほとんどなくなったから、いつの間にか遠い存在になってしまったかな」
「そうかあ、やっぱり同じ高校へ行っておけば良かったかな」
「保奈美は県下でもトップクラスの高校へ行くくらい頭が良かったのだから、俺が行った低レベルの高校へ行くと言っても、おじさん、おばさんは許してくれなかっただろ?」
「そうなんだよね。それで、今は私のことどう思っているの?」
「どうって言われても、もともと俺は恋愛には疎いって言っただろ?こっちに帰ってきてからも保奈美のことは幼馴染としか思っていなかったから」
「そうだよね。気にしなくていいよ。私がしたくてここに連れ込んだんだから」
「気にしなくてもいいと言われても気にするよ」
「じゃあ、これに懲りずに、またドライブに付き合って」
「それはぜんぜん構わないけど」
「よかった」
保奈美は心底安心したように言った。
保奈美は毎週日曜日になると俺をドライブに連れ出した。海へ行ったり、公園へ行ったりしたが、決まって最後はホテルに入った。俺は徐々に保奈美が可愛く思えてきた。毎週日曜日が来るのが楽しみになっていた。それに伴って、俺は仕事にも力を入れるようになった。俺が担当する定食の食材は自分で仕入れるようにした。刺身も冊を買うのではなく、残ったら家族で食べればよいと、小ぶりな魚を買って捌くようにした。天ぷらも季節に合わせて食材を選び、毎日“本日の定食メニュー”を張り出すようにした。添え物の小鉢にも工夫をした。すると、次第に俺の定食を注文してくれる人が増えてきた。口コミでここの定食は美味しいと広まっているようだ。スパゲッティやサンドウィッチよりも単価が高いので、店の売上にも貢献できていると実感できた。
保奈美との付き合いが半年ほど経った日曜日、その日のドライブはいつもとコースが異なって、繁華街に向かって車を走らせていた。
「今日は真也に見せたいものがあるの」
「見せたいもの?」
保奈美は繁華街の駐車場に車を駐め、徒歩で俺を連れていく。そして、1軒の店の前で立ち止まった。料理店のようだが、閉店しているようだ。
「真也、ここで和食のお店をやらない?」
俺は保奈美が何を言っているのかわからなかった。
「この店、大将が高齢で営業できなくなって、先月で閉店したの。多少改装はしなければいけないけど、立地もいいし、前の店も結構流行っていたみたいだから、客足がつくんじゃないかと思うの。どう?やってみない?」
「やってみないったって、そんなお金ないよ」
「お金は私が出すから大丈夫」
「お店を出すのにいくらかかるか知っている?改装費でかなり要るだろうし、板場の設備に食器類や備品なども含めて、かなりの金額が必要なんだよ」
「それなりに調べたからわかっているよ。それくらいのお金は私が出せるから」
「それ、保奈美が一生懸命働いて貯めたお金だろ?そんなの使えないよ」
「残念ながら、私が働いて貯めたお金ではないの。離婚するときに別れた旦那からせしめた慰謝料。姑と折り合いが悪かったというのは本当だけど、離婚の原因は旦那の浮気なの。裁判にすると言ったら、向こうは結構な資産家で、そんなこと世間に知れたら体裁が悪いって向こうの両親が慰謝料の金額を提示してきたんだけど、そんな金額では応じられないと言ったら、最終的にすごい金額を言ってきたの」
保奈美はその金額を小声で言った。それを聞いて俺は驚いた。
「でも、いざそんなお金をもらっても使い道ないし、自分で商売する才覚もないし、とりあえず銀行に寝かせておいたの」
「でも、そんなお金を俺が使わせてもらうわけには・・・」
「真也だから使ってもらいたいの。私にとっては所詮あぶく銭だから」
「しかし、お金の問題は別にして、以前にも言ったけど、俺一人では無理だよ。店を回せない」
「配膳や雑用は私が手伝う。板さんは、この店で働いていた人がまだ次の職に就いていないそうだから、声をかけてみるつもり」
確かに、この店の広さであれば、何人も板前は必要ない。ある程度できる人がもう一人いれば十分だ。それなら何とかなるかもしれない。
「わかった。ただし、保奈美がお金を出して、お店も手伝ってくれるというのなら、保奈美にもうひとつ頼みがある」
「何?」
「俺の嫁さんになってくれ」
保奈美は目を見開いて驚いた。
「知っての通り俺は長男だ。以前、保奈美は長男との結婚は無理だと言っていた。だから結婚の話はしないでおこうとずっと思っていた。でも、こういう状況になれば話は別だ。だから、長男である俺と、結婚してくれないか」
「ばかだなぁ。長男が嫌だと言ったのは姑とうまくやっていく自信がないからと言ったでしょ?私と真也のお母さんは、とても仲が良いよ。だから、そんな心配は必要ない」
「本当か?じゃあ、俺と結婚してくれるのか?」
「もちろん」
「わかった、じゃあ早速両家の親たちに話をしなければいけないな。びっくりするだろうな」
「知っているよ」
「何を?」
「私と真也が結婚するだろうということ」
「何で知ってるの?」
「私が話したもの」
「何をどこまで?」
「毎週日曜日にデートしているって」
「まさかホテルに行っているってことまで言ってないだろうね?」
「さすがにうちのお父さんには言えないけど、お母さんも真也のお母さんも知っているよ」
「うそ?」
「初めてホテルへ行った日にお母さんにバレたの。女の勘ってすごいね。それで正直に話したの。そしたらお母さんは、すぐに真也のお母さんに話したみたい」
そうだったのか。
「だから、この店を見つけてきたのも、うちのお母さん。この店で真也が料理人に復活してくれたらいいねって、みんなで話していたの」
「そうだったんだ」
「ちなみに、真也がプロポーズしてくれなかったら、私から言うつもりだった。お金を出す条件は、私と結婚することって」
「よかった。保奈美に言われる前に俺から言えて」
「うん、嬉しかった」
俺は思わず人目も気にせず保奈美を抱きしめた。
帰りの車の中で保奈美が聞いてきた。
「どうする?いつものホテルへ行く?」
「行きたいけど、親たちに行ってきたのがバレるかな?」
「いいじゃないバレても。もう私たちは夫婦になるんだから」
保奈美はそう言ってホテルへ向かってアクセルを踏んだ。
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