十二花月のセツナ
詩一
春
第00話 【花来雪那】曲げられた戦い
僕の目には、白刃が花札を切り裂こうとしているように見えた。
振り被られた刀の切っ先には、蛍光灯の白色をすべて集まっている。刀を持つ男の瞳が無機質さを保ったままギラッと
試合は終盤。
父さんが取った札には【菊に
父さんが座布団に座ったまま首だけをこちらに向けた。
額には汗を滲ませている。
「
父さんは意味深なことを口走る。どういうわけか胸が騒いだ。
「本当に大事なことは、戦いのあとになにを得て、なにを失うかだ」
父さんは固い頬を無理矢理つつき割るように口角を上げた。それが今の父さんにできる精一杯の笑顔なのだろう。そんな作り笑顔、見たことがなかった。胸のざわめきは温度を落として、心臓は一塊の氷となり、指先の感覚はなくなった。
父さんは【芒に月】を場札の【芒のカス】に叩き付ける。パーンと乾いた音が畳の上を走り天井に舞い上がった。続いて山札から〔カス札〕を引いて場に置いた。取った二つの札を自陣にいれる。
父さんが勝ちの権利を得た。このまま終われば——
「こいこい」
冬。外では雪が静かに降りていた。白刃に捻じ曲げられた戦いを白い静寂が包み込んでいく。
こうして僕は父さんを奪われた。桜柄の羽織を着た赤髪の少年——
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