第4話

 翌日、私は話しに聞いた未亡人の家へと向かった。とにかく見てみたかった、というのが正直な気持ちだ。


 その家は村のはずれにあったけれど、ひときわ綺麗な家だった。白い外壁に手入れの行き届いた花壇、木製の扉は綺麗なブルーに塗られていた――まるでの“特別な場所”のようだった。


 村の家々は質素で素朴なのに、ここだけは妙に洗練されている。まるで、ここにだけ、心を尽くしているお金を使っているみたいに。


 私は木陰に身を潜めながら、そっと様子を見守った。


 庭では、金髪の女性が幼い男の子と一緒に花の球根を植えていた。女性は若く、かわいらしい顔立ちで、なによりその表情が――幸せそうに輝いていた。


 男の子の方も、きっと5歳くらいだろうか。無邪気な笑顔でスコップを握り、母親の真似をしながら土を掘っている。


 「今日もパパ、早く帰ってきてくれるかな?」

 「ええ、ジョンが良い子にしてたら、きっとね」


 “パパ”という言葉が耳に入った瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。


 ――……まさか、アレグランのこと?。


 昼を少し回ったばかりだというのに、一人の男が家の前に姿を現した。

 私は思わず息を呑んだ。


 アレグランだった。


 騎士の制服に身を包んだ彼は、満面の笑みを浮かべながらふたりに駆け寄っていった。

 まるで、戦場から無事に帰還した父親が、迷いなく“家族のもと”へ帰ってきた――そんな感動の再会を見せつけられているようだった。


 「夕方まで待てなかったよ。昼を食べたら、また戻らなきゃだけどね」


 アレグランは男の子の頭をやさしく撫でた。まるで、本当の親子のようだ。


 私は遠くから、その姿をじっと見つめていた。

 見知らぬ男の子の笑顔。彼に撫でられて誇らしげに微笑む姿。

 そしてアレグランは、隣にいた金髪の女性の腰に自然と腕を回し、柔らかな声で言った。


 「カリーナ。君のシチューが食べたいな。あれが一番、疲れが取れる」


 ――……カリーナ。

 この女性が、噂の“未亡人”ね。


 あぁ、どうしてなの? どうして他人の子どもに、あんなにも優しい目を向けられるの?

 私は、あなたの妻なのに。

 それなのに――あの優しさを私に注いでくれた日は、いったい、いつが最後だったのだろう。


 やっぱり、私に子どもができないからだろうか?

 “女”として、足りていないと感じさせてしまったから?


 けれど気づけば、夫と顔を合わせるのは、ひと月のうちほんの数日だけになっている。

 夜、同じ寝台に身を横たえても、互いに背を向けたまま、言葉ひとつ交わさない――そんな日々が当たり前になっていた。


 そんな状態で、子どもを授かるなんて、どう考えても無理がある。

 それでも私は、アレグランを待ち、信じようとしていたのに。


 あの家の扉の奥で、アレグランが“家族”と過ごしていると思った瞬間、全身の力が抜けて、吐き気すら覚えた。


 でも――その吐き気は、夫の裏切りに気づいたからじゃなくて……

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