八.恩讐の果て③
数日後、役員室に呼ばれた。
勿論、二代目以外、僕を呼ぶ役員などいない。二代目のオフィスはフロアの角を四角く区切って作られたもので、壁二面が窓になっている。
機能的なデスクが片側の窓際に置かれ、テーブルを囲んでソファーが置かれている。オフィスに顔を出すと、新庄さんがいた。
「よう。シモベ君」と新庄さんが手を上げた。
「どうも」
「事後報告に来た」と新庄さんが言う。
「油を売りに来ただけだ。事後報告たって、目新しい事実は無かっただろう? まあ、折角だから、君にも聞いてもらおうと思って呼んだんだ」
「まあ、ほぼ、お前の予想通りだったけどな」
「予想じゃない。推理だ」
「妙な勘だろう?」
「そうとも言える」
長い付き合いだ。二人、仲が良いのか悪いのか。
「麻薬のことは、テレビで大々的に報道されているから、その辺は省略する」
大学内で不正薬物が売買されていたことが明らかとなり、招知大学は上へ下への大騒ぎとなっている。大学の理事長が引責辞任をすることになりそうだ。その辺、説明されても、そう興味が無かった。
「事件のことだが、筒井が全てを話してくれた。あいつ、事件の真相に気がついていたようだ。しかも、五代院が企んだアリバイ・トリックを完成させたのが、あいつだった。五代院はブレーカーを落として、停電を偽装したが、翌朝、そのことに気がついたくせに、黙っていた。その上、こっそり、ブレーカーを元に戻しておいた。道理で停電について、いくら電力会社に問い合わせても、分からなかった訳だ。屋敷内で何らかのトラブルがあったのだろうという答えしか得られなかった」
二代目の推理通りだ。
「それで、頼んでおいた件は調べてくれたのか?」
「ああ、あれか。何でまた、気になったんだ?結果を知って、ぞっとしたよ。知らなければ良かった」
何だろう? 二代目は新庄さんに何を調べてもらったのだ?
「結果を教えてくれ」
「長崎の祖先についての話だったよな。長崎の両親に会って、話を聞いてきた。確かに、母方の祖母の実家が奥多摩にあったそうだ。祖母の代には都内に出て来ていたということだ」
「それで?」
「獄門丸こと、門倉清浄だったよな。祖母の叔父が会社を幾つも興した実業家だったそうだ。祖母の実家は小作農で酷く貧しくて、幼い頃に地主の家に奉公に出され、地獄だか何とか、ひどい名前で呼ばれてこき使われていた。明治の御一新後、地主の家を出て、大成功したが、若くして亡くなった。生きていれば、うちは大金持ちだったのにと、祖母がよく愚痴っていたと長崎の母親から聞いた」
「長崎は門倉清浄の血を引いていた訳だ」
「恐らくな」
どういうことだ? 長崎君が獄門丸の子孫だった?
「屋敷で子孫を殺された獄門丸が、五代院を階段から突き落とした訳だ。獄門丸にしてみれば、またか⁉ っていう気持ちだっただろうな」
「止めろ。そんな訳ないだろう」
「じゃあ、何故、五代院は転落の直前、よせ、止めろって言ったんだ? 襲って来た獄門丸に抵抗して言ったんじゃないか?」
「バカバカしい」
「はは。そうであったとしても、獄門丸を逮捕できないものな」
「当たり前だ。そんなこと言い出すと、周りから気がふれたのかと思われちまう」
「さあ、忙しいんだ。用事が済んだのなら、とっとと帰ってくれ」
「頼んでおきながら失礼なやつだな」
「サンキュー。手柄は全部、君にやるよ」
「言われなくて、俺のものだ」
新庄さんは「シモベ君、君も、こんなやつの下で働くなんて、大変だな」と僕に声をかけると、「じゃあな」と手を振って部屋を出て行った。
「二代目、どういうことです?」
僕も背筋がぞっとしてしまった。二代目に尋ねると、「どうもこうも、今、聞いた通りだ」と素っ気なく答えた。
「髑髏屋敷には獄門丸の怨念が住み着いていて、一連の事件の真犯人だったということですか?」
二代目が穏やかな表情で言った。「タマショー君。獄門丸、いや、門倉清浄はね。愛に生きた男だよ。あの屋敷で高子さんと穏やかに暮らしている。それを邪魔するから、祟られてしまうのさ」
了
髑髏屋敷の獄門丸 西季幽司 @yuji_nishiki
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