四.似た者同士②

「さて、始めようか。ハチ・・・じゃなかった新庄君」

「さあ、集まってくれ!」と新庄さんが言うと、部屋中に散らばっていたサークルのメンバーが三々五々、座っていた席に戻って来た。

「さあ、お前の出番だ。しっかり成果を出してくれよ」と新庄さんからプレッシャーをかけられた。

「じゃあ、初めに松野君。君が長崎君を嫌っている訳を教えてもらえませんか?」

「な、何を――」と松野君が絶句する。

「長崎君のことが好きだったのですか?」

「好きだ嫌いだって、女子高生じゃあるまいし。別にあいつのことなんて、何とも思っちゃあいないよ。好きも嫌いもない。言えるのは、生意気なやつだったってことくらいかな」

「サークルで知り合ったのですか?」

「そうだよ。俺は入学して暫くぶらぶらしていたからな。入部したのは六月頃だった。俺が入部した時には長崎も五代院もいたよ。長崎と初めて会った時、思った。こいつ、死んだ目をしてやがるってね。まあ、でも、下級生の頃は一緒にわいわいやっていただけだから、五代院より付き合い易かったんだけどね」

「下級生の頃は長崎君と仲が良かった?」

「ああ。何時も冗談ばかり言っていて、面白いやつだったんだ。あいつが言うには、高校の時はグレていて、悪い仲間と付き合っていたらしい。でも、まあ、高校の時、悪かったってのは、皆、言うことだけどな」

「そうですね」

「でも、あいつの場合は、結構、本当のことだったみたいだ。不良グループの中で唯一、成績が良かったらしいから、大学に進学できたって言っていた。実際、あいつの高校時代のダチで新聞沙汰になっているやつがいたからね」

「新聞沙汰ですか?」

「ほら、高速道路であおり運転して、人を死なせたやつ、あれ、あいつの高校時代のダチだよ」

 似たような話は枚挙にいとまがない。正直、どの事件が分からなかった。

「大学に入ってからは、悪い仲間と縁が切れた訳ですね」

「どうかな? しょっちゅう、講義をサボっていた。日中は商店街のパチンコ屋に入り浸っていたよ。パチンコ屋に行くと、いつも、あいつがいた。何度か並んで打った。サークルだけは出て来ていたけど、パチンコが出ている時は遅刻して来ていた。でも、まあ、パチンコで勝つと、飯を奢ってくれたから、あいつの遅刻は大歓迎だった。とにかく、破天荒で面白いやつだった」

「破天荒とは、誰も成しえなかったことを行うという意味です。型破りと言った方が良いでしょう」

「そう? じゃあ、型破りなやつだった」

「それが、ある時から急に変わったということですね」

「えっ! うん、まあ・・・」と言葉を濁す。

「どう変わったのですか?」

「うん・・・だから、生意気なやつだって」

「尊大になって行った訳ですね。では、五代院君は? 彼はどんな人でしたか?」

「五代院? 小うるさいやつだったよ」

「小うるさい?」

「あいつとは大学に入った時に下宿が一緒になってね。一年生はあいつしかいなかったので、直ぐに仲良くなった。この愛好会に入ったのも、あいつに勧められたからだ。もともとドセキなんかに興味は無かったんだけど、どうせ暇だろうって、あいつが言うから、暇で悪いかって入部してやった」

 ドセキ? ああ、土石という意味か。地質愛好会って、言っては悪いが、かなりオタクだ。

「五代院君は何故、地質愛好会に入部したのですか?」

「高校の先輩が部長をやっていて、誘われたらしい。家が近所で子供の頃から遊んでもらっていたので、断れなかったって言っていた。まあ、オタク気質だったから、入部してからは地質に夢中になっていた。ダウジングって知っているかい?」

 松野君が二代目に尋ねた。ダウジング? 聞いたことが無かった。二代目が分かり易く解説してくれた。「ああ、あれでしょう。両手でL字の針金を持って歩いて、それが反応した場所の地下に何かが埋まっているという探索方法のひとつですね。科学的な根拠がないことから、オカルトじみたい扱いを受けていますが、古代から水脈や地下資源の探索に使われていたことが分かっています。人が持って生まれた潜在能力を引き出す手法なのかもしれませんね」

 そう言われるとテレビ番組で見た記憶があった。

「五代院はダウジングに凝っていた。埋蔵金だとか、金鉱脈とか、何時か世紀の大発見をしてみせるって張り切っていた。一攫千金、大金持ちになりたいってのが、あいつの夢だったみたいだ」

「一攫千金ですか。それは誰もが憧れる夢でしょうね」

「何時かは現実を思い知らされる。要は子供だってことだよ」

「ほう~随分、現実的なのですね。五代院君と仲が良かったようですね」

「まあ、それなりに上手くやって来たと思う。友達かって聞かれれば、友達だって答える。死んじまったなんて、信じられない。あんた、犯人を見つけに来たんだろう? だったら、犯人を捕まえてくれ」

「長崎君についても、それくらい素直にしゃべってもらえれば助かるんですけどね」と言うと、二代目は右手を顔の前でひらひらさせると、「長崎君とは・・・そうか・・・金・・・ですか。金銭的なトラブルを抱えていたのではありませんか?」と言った。

「えっ⁉」と松野君が驚いた顔をする。

 出たよ。あの不思議な力だ。新庄さんの顔を見ると、驚いている様子だったので、二人の間に金銭トラブルがあったことを事前に把握していなかったようだ。

「ん⁉ 長崎君はお金持ちだったようですね。実家が裕福なのですか?」

「普通のサラリーマン家庭だよ」

「じゃあ、何故、彼はお金を持っていたのですか?」と言った後で、二代目は「おや?」と皆の顔を見回すと、「皆さんも彼がお金を持っていたことを知っていたのですね。それも、どうやってお金を手に入れていたのかについても」と言った。

 サークルメンバーは一様に二代目から視線を逸らした。頼むから自分に聞かないでくれということだろう。

「まあ、その辺、追々分かってくるでしょう。松野君、あなたは長崎君からお金を借りていた。しかも、結構な額の借金があった。返済を迫られてトラブルになっていた。違いますか?」

「別に返せなんて言われていない!」と松野君が発言したものだから、彼が長崎君から借金をしていたことがバレてしまった。

「ほう~では何故、トラブルになっていたのですか?」

「それは・・・」と松野君が言葉に詰まる。

「臣従ですか?」

「しんじゅう?」

 心中だと思った。

「絶対服従と言えば分かりますか?」

「うぐっ・・・」松野君が妙な悲鳴を上げた。図星のようだ。沈黙の後、松野君が叫ぶ。「金を借りているからと言って、人格を否定される覚えはない。そうだろう? 金を持っているからって、そんなに偉いのか!」

 随分、嫌な思いをしていたようだ。

「友人同士でのお金の貸し借りは止めた方が良いですよ。関係が対等でなくなってしまうことがあります。お金を貸した側は施した気分になって、借りた側は返さなければならないという意識が働いてしまいますからね。貸した側が優位に立ってしまう」

「仕方ないだろう! 車で事故っちまって、金が必要だったんだ」と松野君は言う。

 車が大好きな松野君は高校を卒業すると直ぐに免許を取った。大学生になると、アルバイトに精を出し、足りない分は親に泣きついて中古車を買った。「運転に自信があったものだから、つい油断してしまった」らしい。長崎君や五代院君も同乗していたと言う。

「子猫がいたんだ。道路の上にな。ヤバっと思ってハンドルを切ったら、隣を走っていた外車に当ててしまった」

 良く聞く話だ。こういう事故は意外に多い。松野君、見た目とは裏腹に優しい性格のようだ。

「相手がその筋の人でなくて良かったよ。子猫が飛び出して来たと言ったら同情してくれた。それでも悪いのはこっちだ。修理費を弁償しなくてはならなくなった。困っていると、長崎が、金なら貸してやるから気にするなって言うもんだから、最初はありがたいって思ったよ。ところが、直ぐに態度がデカくなりやがった。あいつ、今後、人前では俺のこと部長って呼べと言い出した」

「ああ、あれ。ふざけて呼んでいるのかと思っていました」と若狭君のどちらかが言った。顔を見たが、何も書いていなかった。

「利子代わりだと言って、パシリをやらされたり、一時間もマッサージをやらされたり、俺の良いところを言い続けろっていうのもあった。二人切りだと、まるで奴隷だった」

 そんなことまでやらされるなんて、一体、いくら借りていたのだろう。

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