四.似た者同士①
事情聴取がまた中断してしまった。
新庄さんの携帯に着信があったからだ。「待っていろ」と言い残して部屋を出ていった。大人しく事情聴取に聞き入ってくれているが、言いたいことが山ほどあるはずだ。それでも黙って好き放題、やらせてくれているのは、二代目を信頼しているからだろう。
また、二人並んで庭を見た。
今日は良い天気だ。庭に差し込む日の光が木々に遮られて、綺麗な筋になって見えた。都会ではお目に掛かれない景色だった。
「綺麗ですね?」
「絶景だ」
「二代目、どうです? 犯人が誰なのか分かったのですか?」と聞くと、「タマショー君。犯人が誰なのかなんて、この部屋に入った時から分かっているよ」と言う。
「誰なのです? 誰が犯人なのですか? どうやって分かったのですか?」
「この屋敷に教えてもらったのさ」
またオカルトじみたことを言う。
「理力を使って誰が犯人なのか分かったのですね⁉」
「馬鹿だね~君は。理力なんて、まだ信じているのかい? 犯人が誰かということより、大事なのは何故かだ。動機は何なのかだ。黙って見ていたまえ。今からそれを解き明かして行く。面白くなるよ」
おやおや、えらい自信だ。
「犯人が誰なのか分かっているが、最後のピースが埋まらないから言えないってやつですか。推理小説に出てくる名探偵そのものですね」と皮肉を言うと、二代目は「良いじゃないか。事件関係者を一堂に集めて、お前が犯人だってやつが出来る絶好の機会なのだ。もう少し、名探偵気分に浸らせてくれ」と言って笑った。
何も教えてはくれないらしい。
「ところで二代目、僕はやっぱりあの双子が怪しいと思うのですが」と双子犯人説を蒸し返してみた。
「そうかい?」と相変わらず反応が薄い。
「双子だったら、入れ替わっても分からないじゃないですか」
「簡単に見分けられるけどね」と二代目は言う。
「どうやって見分けるのですか?」
「そんなもの、顔に書いてあるじゃないか」
顔に書いてある⁉
「そんな訳ないじゃないですか」
「顔に書いてあるのが読めないなら、二人共、二重瞼だけど、龍臣君は右目だけ一重に見える。それに輝臣君の左頬には小さな黒子があるから、それで二人を見分ければ良い」
「そんな細かい点、瞬時に見抜けるのは二代目くらいですよ。一般人はそんなこと気にしません。二人が入れ替わっても分からないと思います」
「そうかな?」
「一人が犯行に及んで、もう一人がアリバイを作る。彼らが共謀すれば犯行が可能だったのではないでしょうか?」と言うと、二代目は「馬鹿だね~君は。だったら双子は二人揃っていないとアリバイが無いことになる。単独で犯行は不可能だってことだ」と投げやりに答えた。
「えっ・・・」なんか、論点がズレているような・・・また、けむに巻かれてしまった。
「恵美。分かったぞ」背後から声がした。新庄さんだ。いつの間に電話を終えて、戻って来たのだ。
「何が分かったって?」
「ロープだ。お前が言ったのだぞ、ロープが何処にあったのか調べろって」
「調べろなんて言っていない。ロープが持ち込んだものかどうか聞いただけだ」
「どうでも良い。ロープはもとからここにあったもののようだ」
新庄さんの解説によれば、この屋敷は武蔵セメントから委託を受けた地元の旅館が管理を行っているらしい。宿泊者がある場合、事前に武蔵セメントから旅館に連絡を入れ、受け入れ準備を整えてもらう。無論、追加料金が必要となるが、一日三食、料理を出してもらうことも可能らしい。
旅館に確認したところ、地下室にロープを置いてあったはずだと言うことだった。それが無くなっていた。
鑑識で鑑定を行ったが、被害者以外の皮膚片など、犯人を指し示すものは見つかっていない。ただ、経年劣化が見られ、新しく買ったものではないことは分かっている。
「ふうむ。百パーセント確実ではないが、ここにあったものらしいってことだな。分かった」
「何が分かったのだ?」
二代目がふざけて言う。「実際にロープを触ることが出来れば、いや、触らなくても目の前に置いてさえくれれば、犯人が誰なのか感じ取ることができたのにってことさ」
「止めろ! 人を揶揄うのは」
なかなか素直に手の打ちを明かさない。名探偵の悪い癖だ。
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