またお越しくださいませ

 弾んだ足取りの花木さんが店にやって来たのは、それから数週間後のことだった。


「香苗ちゃん、行ってきたわよ」

「もしかして、篤人の舞台ですか?」

「そう! とにかく最高だったわ。平日だったけど、お客さんもたくさん入ってて」


 舞台そのものや他の出演者たちの影響ももちろんあるだろうけれど、篤人も随分と人気になっているのだろう。


「そういえば、あれは本物の小道具じゃなかったみたいね」

「え?」


 花木さんが篤人の功績コーナーへ目を向ける。


「ペンダント。舞台で使ってたのはもっと大きいものだったの。そりゃそうよね、大事なシーンで使われるアイテムだから、お客さんによく見える大きさじゃなきゃ」


 そのシーンを思い出しているのか、うんうんと1人頷く花木さん。


「どんなシーンだったんですか?」

「長く土地を離れてしまう主人公が、ヒロインに再会を誓う時に渡すの。その時の篤人くんの”大好きだ。またな”っていう台詞と表情がとっても素敵で──」


 花木さんは店にいる間中、ずっと篤人の舞台の話をしてくれた。


 いつか観に行ける日を夢見ながら花木さんを見送った後。

 本物のペンダントはどんな見た目なんだろう。フライヤーに載っていないかな。

 そんな考えでなんとなく私も篤人のコーナーに近寄って、画鋲で留めたフライヤーを捲ってみる。


「え……」


 フライヤーの裏に手書きの文字が書かれていたことに、その時初めて気がついた。


 ”また来るから”


 思わず口元が緩んでしまう。

 あんみつに使う苺を多めに発注しておかなくちゃ、と思ったその時。


 カランコロン、というベルの揺れる音が響いた。


 ──終──

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君のかえる場所 田舎 @i-na-ka

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