学校の快談(?)
飛鳥竜二
第1話 トイレのおばけ
今日は先生の子どものころの話をします。
今から50年ほど前のことです。
小学校の名前は西小学校。1学年で5クラスもある大きな学校でした。全校で1000人を超す大きな学校でしたが、不思議なことにトイレがひとつしかなかったのです。それは体育館の奥にありました。暗いトイレで、昼間でも電気をつけないと奥が見えないというところです。電気は今では珍しい丸い裸電球です。トイレの奥行は長さ30mほど。左には男子用のオシッコトイレ。便器はなく、溝があるだけです。そこにオシッコをすると汚水槽に流れていくという仕組みです。でも、臭いは残ります。毎日トイレ掃除当番が水を流しています。
右は扉のついた個室です。女子が主に使いますが、時には男子も使います。30近い個室が並んでいるさまは今考えると異様です。要するに男女共用のトイレです。今では考えられないことですが、そのころはこれがあたり前のことでした。
3年生になった時、トイレにおばけがでるという話を聞きました。一人でトイレに行くとでてくるというのです。実は、学校の裏は昔お墓があったところで、そのおばけがでるというのです。
だれもいないはずなのに、個室のとびらがあいたりしまったりするとのことです。中には女の子の声が聞こえたという人もいました。休み時間に大勢で行けば何もないのですが、放課後とかに一人で行くと、そういうことがあるということでした。
そして、その時がやってきたのです。算数の授業中に急にお腹がいたくなってきました。朝にたべた魚にあたったのかもしれません。そこで、先生に
「お腹がいたい」
と言うと、
「まずトイレに行ってきなさい」
と言われました。担任の高橋先生は西小学校に転勤してきたばかりで、トイレのおばけのことを知りません。クラスのみんなは、その言葉に反応して私に注目しています。まるで憐れみの目です。
でも、お腹がいたいのはおさまるわけではありません。仕方なく一人でトイレに行きました。
トイレの入り口について、電気をつけます。それでも奥の方は暗くて見えません。すると、バタンと奥の方で音がなりました。私はゾ~としました。そこから逃げ出したかったけれど、ウンチをもらすのはもっとつらい。それで、入り口から一番近い個室に入りました。トイレの花子さんは下から手を伸ばしてくるといいます。でも、そんなことを気にしている余裕はありません。もう発射寸前です。
そこで、ズボンとパンツをおろして尻をだしてしゃがみました。すぐに発射。ドドッとでました。すると、ヒヤッとした冷たい手で尻がさわられました。「ヒェー!」と思わず声をだしてしまいました。すぐに立ち上がり、個室においてあるチリ紙で尻をふいてすぐに個室を飛び出ました。トイレの電気を消すのも忘れて教室にかけもどりました。後ろを振り返ることは絶対にしませんでした。
息せききって教室にもどると、高橋先生が
「どうした? 顔色悪いぞ。大丈夫か?」
と聞いてきました。そこで、
「ト・トイレのおばけが、で・でました」
と言うと、
「トイレのおばけ?」
クラスのみんなはシーンとして私と高橋先生に注目しています。
「はい、ウンチをしたら下から冷たい手でさわられました」
と答えると、高橋先生がハッハッと高らかに笑いました。
「ぼっとん便所だからな。そういうこともあるな。勢いよくウンチをしたので、はねかえってきたんだろ。きっと便槽にいっぱいたまっていたんだな。先生も覚えがあるよ。ちゃんとケツはふいてきたか?」
「はい、ふいてきました」
と答えると
「えらい!」
とほめられました。ウンチをしてケツをふいただけでほめられるのは変な話でした。でも、それ以来、トイレのおばけの話はなくなりました。
翌年、学校は改築工事になり、ぼっとん便所はなくなりました。今では懐かしい光景です。
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