第22話 ネージュ編 ④
「はあああぁーー」
机に顔を伏せてため息。
なんでレベッカ嬢は帰らないんだ?
レベッカ嬢の護衛についてきているのは辺境伯領で顔見知りの騎士達だ。
「お疲れ様です」
「うちのお嬢は言い出したら聞かないので……とりあえず急ぎ辺境伯に連絡入れております」
「もうすぐこの王都に来ることになってるよな?」
「はい、今回の王宮のパーティーの出席は絶対なので、あまり王都には出てこない辺境伯であるラズリー様も今回は断れないので必ず来られるはずです」
「……だったらレベッカ嬢も引き取ってもらえないのか?悪いが俺はあの人の面倒までみるのは御免だ。ソフィアには同情したがレベッカ嬢には同情どころか恨みしか湧かない」
大体完全に騙されたんだと今ならわかる。俺はレベッカ嬢を抱いていない。あの時確かに媚薬を盛られたが薬を抜くために娼婦に処理をしてもらっただけだ。
なのに、あの頃は自分のしたことに対して全くしてないという自信がなかった。
でもソフィアを見ればわかる。俺に似たブロンドの髪だが、俺の子ではない。俺に似ていないというのも確かだけど、あの時のことをよく思い出せばレベッカ嬢のことを抱いたはずがない。完全に謀られていた。
だが俺はソフィアを約束通り預かった。自分の子かもしれない。その時までは絶対違うと言えなかったし、レベッカ嬢が切実な顔をしていたからそうするべきだと思った。
『大切な人の子供』だとルシナに伝えた。
全てがすれ違いだ。
戦争から戻ってきて社交界に戻れば妻の悪い噂を耳にする。
俺は友にまで謀られた。ルシナが伯爵家を守り新たな仕事を成功させたことで、ルシナも何も知らない俺も貴族達から羨ましがられ妬まれた。
悪い噂を耳にして、戦争中業務報告しかこない日々も重なって俺のルシナへの態度は最悪だった。それにソフィアのことでルシナに真正面から向き合うことができなかった。
それに、リュシアンが他の男の子供だと勘違いした俺は更にルシナを責めた。
はっ……そのうえレベッカ嬢が屋敷に押し寄せてきてルシナに酷い態度。
考えれば考えるほど最悪の状態で、離縁を申し出られ、『否』と言えない状態に追い込まれた。
「辺境伯はレベッカ様のことをとてもお怒りです。このままでは修道院へソフィア様共々お入れになるのではと思っております。だから、こうしてネージュ卿のところに逃げてこられているんだと思います」
「なんで俺のところに?彼女のせいで俺は離縁したんだぞ!!」
「……それは申し訳ないと思っております。でも貴方もツケ入れられる隙を見せすぎでしょう?」
「俺が?」
「ええ。だって手紙だって改竄されているのは読んでいればわかるはずです。書いた内容に対して返事がおかしいでしょう?それに媚薬だって5人が盛られたというのもおかしい話です。そのうち4人の症状はとても軽くて娼婦が少し処理しただけですぐ治りました。貴方は多分媚薬と睡眠薬を飲まされて、お嬢に騙されたはずです」
「なんでそんなことまで知ってるんだ?」
「もちろんお嬢の動きがおかしいのでこの数年のことを調べたんです」
「だったらどうしてここにくることを止めなかった?離縁せずに済んだかもしれないのに!」
「離縁は確かにお嬢がきっかけですが、貴方にも責任はあるのでは?ソフィア様のことも奥様に誠実に話せばよかったし、きちんと向き合えばよかったのでは?」
「っ……ああ、そうだな……」
そんなことわかっている。
「だが、今のレベッカ嬢についてはそのまま放っておくことはできない。何度か注意はしたのにルシナに接触してしまった。いくらソフィアがリュシアンとルシナに懐いているとはいえ突然会いに行くのは相手に失礼だろう?護衛として注意はできないのか?」
「それについては申し訳ないと思っております。ルシナ様にはなんの齟齬もないのにお嬢がご迷惑をおかけしていて心が痛みます」
こいつら表情も変えず話してるのに、何が心が痛むだ。
「ただ、レベッカ様もなりふり構わず子供を守ろうとしているのです」
この護衛達二人はレベッカ嬢の事情を何か知っていて、詳しく話そうとしない。
「レベッカ嬢に事情があるとしても巻き込まれた俺たちはいい迷惑だ」
「承知しております。いつかその時になればしっかり罰を受けさせていただきます」
二人が初めて少しだけ表情を変えた。
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