第13話  ネージュ編

 妻のルシナは、聡明でとても美しい。


 それが俺の知る妻だった。




 政略結婚の話が出て、初めて顔合わせをした時に一目惚れをした。

 同僚達がよく女を見て『一目惚れした!』だの『あの娘、可愛いな』と騒ぐのを横目に、そんなことどうでもいいと鼻で笑い馬鹿にしていた。

 今まで生きてきて女に惚れるなんてなかったし、愛や恋なんて面倒で生きる上で必要性を感じたことなんてなかった。


 性欲なんて娼館にいけばいいし、結婚は家のためになる女を娶ればいい。そう思っていたから今回の侯爵家の娘との縁談も受け入れることにした。


 母が俺に伯爵家を譲りたいと言い出した。ならば仲の悪い母をさっさと領地へ追いやれるし、顔を見なくて済むから清々するとおもった。


 別に相手が好みだろうと不細工だろうと興味すらなかった。


 なのに、ルシナを見た瞬間何かが全身を貫いたように動けなくなりルシナから目が離せなくなった。


 口下手で女性を喜ばせることなんてできない、他人との付き合いが苦手だが、この人となら上手くやっていける気がした。


『初めまして、ネージュ様』

 可愛いらしい微笑みに俺はドキッとした。


 それくらい彼女の優しい笑みに目が離せなかった。



 幼い頃から母に厳しく教育され育てられた。それが嫌で騎士になると言って屋敷から逃げるように寄宿舎で暮らした。


 早くに夫を亡くした母は伯爵家を女手ひとつで必死で守り抜いていることはわかってはいたが、愛情に飢えた俺には冷たい人にしか思えなかった。


 最近の伯爵家は、事業拡大のための資金集めに苦労していたし、侯爵家との事業提携の話は魅力的だった。


 ルシナの家族はとてもルシナを愛しているように見えた。


 継母だと聞いていたのにルシナを慈しむ優しい義母、妹を大切に想う義兄、異母姉に懐いて甘える異母妹、そして娘を大切に想う優しい父親。


 目の前で話す侯爵家の家族に羨ましさを感じた。俺は忙しく働く母のそばで厳しく育てられ、愛情を感じることすらなかった。

 なのに、血の繋がりがなくても共に慈しみ合い仲良く暮らす家庭があるのだと知って、ルシナとの結婚生活に希望を抱き淡い夢をみる。


 そうして結婚して自分なりに妻を大切にしながら二人で信頼関係を築き始めたと思い始めた頃、突然騎士団に召集がかかり戦場へと向かうことになった。


 元々隣国との睨み合いは続いていた。

 だがすぐに戦争になることはないだろうとみられていたのだが、我が国の領土へと兵が侵入してきた。それを阻止するため緊急召集がかかったのだ。


 俺は第一騎士団の副団長に選ばれたばかりだった。ちょうど上官達が引退をして配置転換により俺は移動した。


 騎士団の剣術大会で若手部門で準優勝をした俺は引退する上官に推薦され副団長になった。新しくなった第一騎士団の団長を支えるために副団長は俺の他に三人いて、俺は一番下っ端で副団長とは名ばかりの使いっ走りだった。


 戦場は国と国の境にある辺境の地で、辺境伯爵率いる騎士団と共に戦うことになった。


 寝場所は辺境伯の城内の敷地にテントを貼り食料は国から支給された。


 団長、副団長には城内の部屋をあてがわれた。

 緊迫する戦況の中、お互い一進一退の攻防に皆疲弊していた。毎日のように出る怪我人は辺境伯の領民達が治療をしてくれた。


 俺も戦地にきてすぐに戦いに出た。

 そんな時、仲間がやられそうになり庇ったため、背中を切られた。傷は浅かったがしばらくは戦いに参加できず、城内に留まり傷が治るのを待つことにした。その間は城内で作戦会議に参加したり、戦況把握のための情報を集めたりと駆け回っていた。


 命をかける日々は思った以上に心が疲弊していく、だからこそルシナからの手紙を心待ちにしていた。


 最初の頃は俺の体を心配する内容の手紙だった。それが少しずつ伯爵家で行った執務の報告書のようになっていった。


 寂しさを感じつつも、彼女が必死で伯爵家を守ろうとしているのだと思い感謝していた。


 俺はこの辺境地で必死に戦い生き抜く。そしてルシナをこの腕の中でもう一度抱きしめたいとそう願いながら頑張った。



 そう思っていたはずなのに………

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