第30話【絶対に言わないでね!】
「お二人さんお疲れ様~」
配信を終えるとアリスちゃんと花音ちゃんが部屋に入って来た。
「もう本当に疲れた。もう二度とホラゲーなんてしないからね!」
そう言って雫ちゃんは目の前の机にうつ伏せになった。
「え? ダメだよ。だって今回のホラーゲームクリアしてないでしょ? 私はちゃんとクリアしたんだから由香ちゃんもクリアしてね?」
またしても花音ちゃんは雫ちゃんに圧をかけた。
「それに篠宮さんだって続きはまたの機会にって言ってたでしょ?」
「は、はい……」
「ところで二人とも社長が来てほしいって言ってたよ」
社長が俺達を呼び出し? 何の話だろうか。
とりあえず花音ちゃん達に着いて行き、俺達は社長の待つ部屋にやってきた。
「配信お疲れ様二人とも」
「本当に疲れましたよ~。ところで話って何ですか?」
「利香ちゃんの記念配信についてよ。そろそろ篠宮くんの3Dモデルが完成するのと花音ちゃんの登録者がもう明後日には百五十万人に達成する予想がされてるから記念配信の日を今週の土曜日にすることになったわ」
花音ちゃんの登録者数は百四十九万八千人。今の花音ちゃんの勢いなら二千人は二日で行けるだろう。
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺全然ダンスのレッスンできてないんですけど!」
俺はまだ一度しかダンスのレッスンをしていない。なのに本番まで約一週間しかない。
「大丈夫大丈夫、ダンスのコーチに頼んで毎日レッスン入れてもらってるから」
「いやいや何一つ大丈夫じゃないですよ! 死にます! 間違いなく死にます!」
これから本番まで毎日ダンスレッスンなんて間違いなく体が終わる。
すると雫ちゃんが俺の肩にポンッと手を置いてきた。
「諦めて頑張ろう」
「大丈夫です篠宮さん、私達も一緒に頑張るので」
「花里さんがそう言うなら……」
「ちょっと私は⁉」
「でも俺歌の練習も全然できてないですよ?」
「え、無視⁉」
歌も音源やパートなどは教えてもらっているが、練習は全くできていない。
「まぁ、歌は何とかなるでしょ」
「ならないですよ!」
「オリジナルの楽曲なんだから篠宮くん……いや、彼方くんらしく歌えばいいんだよ」
「俺らしいですか……」
そう言われても俺らしいなんて分からないしな……。
話が終わり部屋を後にすると、雫ちゃんが俺の肩を優しく叩いてきた。
「どうかしました?」
すると服を引っ張られて耳元で誰にも聞こえない声で「あの事絶対に言わないでね」と言われた。
「あの事って何ですか?」
「だ、だから! あの……ホラゲーの途中でその……」
なんかいつもの雫ちゃんらしくないな。
いつもならもっとズバッと言ってくるのになんか恥ずかしそうに目をキョロキョロさせながら頬も少し赤らめてるし。
「篠くんに抱き着いちゃったでしょ……? そんなの利香ちゃんにバレたらどうなるか……こ、怖かったから仕方なかったんだもん……」
普段とは全然違う雫ちゃんの表情や仕草に少しドキっとしてしまったがそんなのがバレたら絶対に後から揶揄われる。平常心でいなければ……。
「分かってますよ」
「絶対だからね! そ、そもそも私みたいな可愛い子に抱き着かれて嬉しいでしょ? だからお礼に黙ってなさい」
「だから黙ってますから」
「ん? 二人とも何こそこそ喋ってるの?」
前を歩いていた花音ちゃんが振り返り、ムッとした表情でそう聞いてきた。
「な、なんでもないよ! ダンスレッスンの事でちょっと揶揄ってただけ」
「ふ~ん」
「篠くんは利香ちゃんのってちゃんと分かってるから」
「なっ⁉ へ、変な事言わないでよ!」
すると今度は花音ちゃんの頬が赤くなった。
そんな表情されたら俺の方も赤くなりそうだ。
「はいはい惚気はまた今度聞くからね~」
アリスちゃんは花音ちゃんの頭を撫でながら微笑んだ。
「の、惚気なんかじゃないもん! 由香ちゃんが勝手に!」
「はいはい。可愛いね~」
「もう!」
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