第2話

「おい、人間。ここは狭いぞ」

「そ、そうですよね…」


今、俺の目の前にいるドラゴンはすべり台やブランコを薙ぎ倒して鎮座している。

俺なんか丸呑みできそうな程でかい。


「このまま放っておくわけにもいかないし…」


俺はドラゴンを見上げ、どうにかして彼を部屋に収める方法を考えていた。しかし、どうしても思いつかない。

俺が住んでいるボロアパートの部屋どころか一軒家程ある図体だ。

…そういえば魔法とかなんとか言ってたし小さくなる魔法なんかもあるんじゃないか?


「あのー…ドラゴンさん?」

「種族名で呼ぶでない、我の名はアレス様と呼べ」


あなたも人間って言ってたじゃないか!


「あっ…はいすみません、俺は佐藤翔と申します…ところでアレス様?」

「なんだ、申せ」

「アレス様が小さくなったりする魔法とかないですか…?ほら、すごく目立っちゃいますし…」


ドラゴン…アレス様は羽をだらりと下ろして、俺の言葉に顔をしかめた。


「我が…こんなに偉大なドラゴンが小さくなるべきだと言うのか?」

「いや、でも…なんとかして小さくならないですか?もうほんとできるなら!お願いします!」


アレス様はしばらく黙った後、フンと鼻を鳴らした。


「我がそんなことをする理由があるのか?」


「目立ちすぎちゃいますよ!この世界にはドラゴンなんていないんですから!いろんな人がやってきてジロジロ見られるのはアレス様も嫌でしょう!?なんでお願いします!」


俺が必死になってお願いすると、アレス様は渋々といった表情を浮かべ、羽を大きく広げて呪文を呟いた。


「…ふん、こんなことをしてやるのは初めてだ… wVmc\eXHAKsT…」


その言葉とともに、アレス様の体が縮んでいく。最初は少しずつ、そしてあっという間に1メートルほどの小さなサイズに収縮した。俺は驚きとともに安堵の息をついた。


「う…うおっ、すげぇ…」


アレスは不機嫌そうに俺を見つめながら言った。


「これでいいだろう? だが、覚えておけ。次からはもっと丁寧に頼むことだ」


「承知しました!ありがとうございます!」


結構丁寧に喋ったつもりなんですけど…


「おい、カケル…だったか。我を抱えて連れていけ。住処に帰るのだろう?」


「えっと?はい、恐れ多いのですが、抱えてよろしいですか?」


「よい、許す」


俺は小さくなったアレス様を抱えるようにして公園を出た。

できるだけ人に会わないようにしながら家に帰れたことに安堵したが、アレス様の我儘さがまた問題を引き起こすことになるのだった。


家に帰った俺は、アレス様をソファに座らせ、やっと一息つこうと思った。しかし、アレス様はどうしてもおとなしくしていない。


「…おい、カケル。寝る場所がない」


「え? ソファではダメですか?」


「ダメだ。寝心地が悪い」


「えぇ…」


俺は絶句した。だったら俺がソファで寝たらいいかとアレス様をベッドに寝かせたがそれでもダメらしい。

なんとかお願いしても不満を漏らし続けるので彼の我儘を聞きながらこれからどうしようと不安になっていると一睡もできなかった。

アレス様は寝返りを打ちながらも不満を漏らし続けた。


俺はぐったりとした気分で朝を迎えることになった。


翌日、重い身体を引きずって仕事に行く準備をしていると、アレス様が口を開いた。


「カケル、お前の行くところに我も連れて行け」


「え、無理ですよ! 会社だし連れて行けませんよ!」


アレス様はしばらく黙っていたが、すぐに不満そうな顔をした。


「何を言っている! 我をこんな窮屈なところに置いていくと言うのか!?飯はどうする!?お前が行くなら我も一緒に行く!」


「いや、本当に無理ですから。仕事に集中したいんです!」


いやだいやだと言うアレス様に嫌気がさして俺が強く言うと、アレス様はしばらく考えた後、突然ふいっと顔をそっぽ向いた。


「ふん、お前なんて知らん」


アレス様はベッドの中に潜り込んでしまった。

気を悪くしてしまった。


「すみません、アレス様」


後で怒って喰われたりしないか不安になったが、結局そのまま会社へ向かうことにした。


そして、仕事先に着いていつも通りパソコンの前に座り仕事を始めた。だが、すぐに異変が起こった。急に隣で仕事をしていた同僚の机の上に置かれていたコーヒーカップが倒れたのだ。


「うわっ!すみません!」

「な、なんだ?」


肘でも当たったのかと思い慌てて机を拭き始める同僚。

手伝おうと慌てて立ち上がると、今度は後ろの椅子が激しく揺れ始めた。

さらにコンセントが抜けたのかパソコンの画面が真っ暗になったり急に窓ガラスが割れたのだ!


ポルターガイスト!?


俺はその異常現象に驚き、パニックになって奇声を上げた。


「うわああにらみでこよござまああ"あ"!?」


その瞬間、あたり一面が光に包まれる。

そして、しばらく光り続ける部屋に現れたのは、重厚なフルプレートの鎧を着た騎士だった。


「なんだこれは…!? どうして…?」


その騎士は俺を見つめながら、ゆっくりと立ち上がり、剣を抜き、俺に向かって言った。


「召喚主よ、我が命じられし者としてここに現れたり」


俺は混乱し、目の前の騎士に驚愕しながら叫んだ。


「うわぁああああ、また変なことをしてしまったあああ!!!」

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パニックになると変な声が出る俺、意図せず魔法詠唱してしまい大変なことになる。 発火狐 @bidagitune19

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