逃げた勇者。   魔王城を前に敵前逃亡〜

夏月乃 夏

エピローグ 約束

   「よかった最後に君を護れた。」

 

       なんでこうなった。


そう思いながら既に冷たくなりつつある、最後の仲間であるシャルルの事を抱きしめていた。

     

      魔王城で魔王の前で。

 

「勇者よ。そんな死体放っておいて、早く魔王である。吾輩に立ち向かわないか、興が冷めるだろう」

       「、、、、、、」


それでも勇者は無言で死んだ仲間を抱きしめて続けた。 

   たくさんの冷たい涙を流しながら。

 

      「興が冷めた。」

     魔王がそう言った刹那。

   

    勇者の胸に風穴が空いた。

     まどろむ意識の中。

   勇者は死ぬ前に走馬灯を見た。


初めてシャルルにあった日。シスターなのにタバコを吸っていたこと。


立ち旅の日、ヴィザドであるリザルトが家に杖を忘れたこと。


暗殺者のキルが、勇者である自分を殺しにきたこと。そして紆余曲折あり仲間になったこと。


  どれもこれも今となってはいい思い出だ。

  

そのほかの思い出も、数え切れないくらい沢山ある。

       そう思い出なのだ。

 

 もう二度と更新されることはない、思い出。

 

  そして、思い出の分だけ後悔も沢山ある。

   リザルトとキルを死なせた事 

   シャルルを守りきれなかった事。

    魔王に負けてしまった事。

     世界を護れなかった事  

     その他にも山程あるけど。


         1番は  


     回想〜「魔王城の前で」


勇者が魔王城を見据えて、険しい表情を浮かべていると、最後の仲間であるシャルルに声をかけられた。

    

     「こっち向いて」

     むに〜むにむに むに〜

言われた通りにすると勇者は、ほっぺをむにむにされた。

 「ふにゃ!?」


「可愛いね〜照れちゃって。童貞みたいw」


「童貞みひゃいといふぁれてもどうひぇいなんですよ」


 「ざーこ♡」

 

 「ぐぬぬ」


「やっぱり君は君だね」

  

「どゆこと?」


「勇者さまは、年上系お姉さんシスターに勝てないってこと♪」


「年下だろ、君」


「精神年齢で勝ってるんですよ。勇者さま♪」


「ふふっwなんだそれ」


シャルルは勇者の表情が和らいだのを見ると。

安心してニコリと笑顔を浮かべた。


「ありがとう、シャル少し落ち着いた。」


「私お礼されるなら、言葉より行動で示してくれる方が嬉しいな」


「例えば?」


「勇者さまの寵愛とか♡」


「わかった。」


  勇者はシスターの前に跪き手を取った。


       「みにゃ!?」


「シャル。君のことが好きだ。からかってるように見せて、励ましてくれるその優しさが、君の雪のように白い髪や瞳、肌が好きだ。

だから、どうか、ずっとそばに居てくれないか」



シャルルは混乱しながらも、さっきからかったから、意趣返しされたかと疑ったが、勇者の瞳見て

それはないと判断した。


   「///あの、ね、その//えっと//」


シャルルの心臓がはち切れんとばかりに、鼓動する。深呼吸をし、少し落ち着いてきた頃、聞きたたかったことを質問した。


「ど、どうしてこのタイミング?でその、あの、プ、プロ、、プロポーズを?」


言われてみればそうだ。橋を挟んでいるとはいえ、魔王城の前でプロポーズ。前代未聞だろう。 さぞ大層な理由があるのだろう。



「いや魔王城とはいえ、城だからな、雰囲気

 でるかなと思い。」


「ばか、あほ、どうてい!あんな禍々しいオーラ

出してる城で雰囲気なんかでるか!」


「ごめん冗談。ほっぺのやつのやり返し」


「次ふざけたら、流石の私も怒るからね」


もう怒ってるだろと、まぁそんな事はさておき。

    本当の理由を勇者話した。


   「頑張る理由が欲しかったんだ。」


「もしかしたら死んでしまうかもしれないから」


 それがすごく怖い。でも、逃げるわけにはいかない。勇者だから。魔王を倒す義務があるから。

     だから頑張る理由が欲しい。


    「ねぇ、それってつまり、、」


「魔王を倒す理由になるぐらい、私のこと好きってこと?」


照れ臭くなり、勇者は頬をかきながら口をひらいた。

   

  「うん、まぁ、そんな感じ。」

 

 「へ〜そんなに私のことすきなんだ♪」


ニヤニヤと可愛らしい笑みを浮かばせながら。

いつもと同じテンションでシャルルは勇者をからからう。


「じゃあ、返事は早い方がいいよね。私のこと

が大好きな勇者さま♡」


   

    そう言って勇者の手を両手握り。


   

   「ずっとずっとそばにいたいです。

      勇者アーレン様」






「帰ったら結婚式やりましょうね?勇者さま♡」


    「いいねそれ、しよう」


      「約束ですよ?」


勇者は返事のかわりに手を丸めて小指を差し出した。


 シャルルはその小指を自身の小指を絡めた。


   

    その約束を守れなかったこと。

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