祈り紐

 星菜ステラナの種を潰して搾る事で「星油ステラオイル」と呼ばれる液体を抽出する事が出来る。星油ステラオイルは食用には適さず、糸をオレンジ色に染めるのに使われている。

 つまりただの染料……という訳ではない。星油ステラオイルで染めた紐は神秘具の一種である「祈り紐」の材料になるんだ! 染めた糸をって組紐を作り、それに星の力ステラを吸収させることで超自然的な効果を発揮するの。



 お祭りをしている間、私達は作った組紐を祭りの中心に配置して、星の力ステラを吸収させる。そしてお祭りが終わる直前に、組紐が祈り紐に変化したかどうか確かめるわ。ここで上手くいってたらそこでお祭りを終えるし、もし上手くいってなかったらお祭りを延長するの。

 そして最後に、みんなで「おかげさまで楽しく健やかに過ごせています。今後とも見守ってください」って星に祈るの。これは「神秘の祈り」って呼ばれているわ。


「トワー! そろそろ神秘の祈りが始まるわよー!!」


「えっ、もうそんな時間?! ありがとう、すぐ行くね」


 ミラちゃんに手を引かれ、儀式を行う広場へ走った。広場に着くと族長が「トワ! こっちこっち!」と私を呼んだ。


 この部族のおさである「族長」は150歳になるおばあちゃんだ。おばあちゃん曰く「私が生まれた頃から150歳って言ってたから、たぶんサバを読んでる」との事で、実際の年齢は分からない。

 しかしながら、族長の見た目はとても若々しく、そして私よりも体力がある。ほんとどうなってるんだろ?

 私のお母さんやおばあちゃんも若々しいし――もしかするとこの部族はすごく長寿なのかも?


「こほん。今晩も集まってくれてありがとう。今回もトワが新しい祈り紐を作ったようだから、その紹介をしてもらおうと思っている」


 ――パチパチパチパチ


 実はほんの数年前まで祈り紐は数種類しかなかった。しかもその効果は非常に限定的で、実用性はあまりなかったの。

 例えば「水」の祈り紐は、一日かけてコップ一杯の水を生成する効果しかない。砂漠ならありがたいかもしれないけど、湿潤地域だと必要ないよね。


 あまり役立ちそうになかったから初めは気にしてなかったのだけど、ふと「効果をカスタマイズ出来るのでは?」と思いつき、研究に研究を重ねた結果――実用的な祈り紐の開発に成功したの!


 今では私が考案してミラちゃんが編んだ祈り紐が、各家庭の生活を支えているよ。



 私が祈り紐に興味を持ったのは5歳の頃。ミラちゃんから教えて貰ったんだ。

 ミラちゃんは昔から手芸が好きだったようで、当時から儀式に使う祈り紐を作っていたの。


「みてみてー。これ、私が作ったんだよー!」


「わあっ! とっても綺麗だね」


「こうやって見て、こうやって!」


 ミラちゃんは祈り紐を手で包み込んで、指のすき間から紐を見るように言った。そのようにして見ると、祈り紐が手の中で微かに光っているのが分かった。


「これ、光ってる?」


「そう! 凄いでしょ! あっ、それはプレゼントだよ」


「もらって良いの? ありがとう!」


 数日後、ミラちゃんと私は算数の勉強をしていた。いくら自給自足の生活を営んでいるとはいえ、四則演算くらいは出来ないと何かと不便だからね。


「もう分かんないー! 繰り上がりって意味わかんない!」


 ミラちゃんは算数が大の苦手だったようで、ちょっと苦労していた。一方で、前世の記憶がある私にとっては小学生レベルの算数なんて余裕。そのせいで、周りの大人がミラちゃんと私を比較するような事を言うようになって……ミラちゃんが自信を失いそうになっていたの。


 これは困った、私のせいでミラちゃんが悲しい気持ちになっている!

 何とかしなければ!!


 しかし先生に代わって私が教えたところで、ミラちゃんは余計に自信を失うだろう。どうしたものか。考え抜いた末に、私はミラちゃんから祈り紐の作り方を教えて貰う事にした。こうする事で、「人には得意不得意があって、ミラちゃんの方が優れている部分も沢山ある」という事を伝えようと思ったの。

 作戦は大成功。ミラちゃんが私に手芸を教えて、私はミラちゃんに算数を教える。そういう関係性を築くことに成功したの! その後、丁寧に教えた甲斐あってミラちゃんは苦手分野を克服でき、この件は一件落着した。


 ある日、ミラちゃんから祈り紐の作り方について教わっているときに、私は模様に意味があるのかどうか気になってミラちゃんに聞いた。


「ねえミラちゃん。この模様ってどんな風に決まってるの?」


「良い質問だね、トワちゃん! 私も気になってお母さんに聞いた事があるのだけど、よく分かってないんだって。一応、この模様が『水』でこの模様が『光』じゃないかって考えられてるみたい」


「なるほど……。解読してみようかな」


「おおー! もしできたら大発見だね!」


 日本にいた頃から未知の言語の解読に興味があった私は、早速祈り紐の模様と発動効果について調べ始めた。


 初めは訳が分かんなかったけど、ある時「ねじった紐ってDNAみたいだな」という考えが頭をよぎってから一気に解読が進んだの。

 祈り紐の模様には、文頭を示す「開始コドン」、文末を示す「ストップコドン」、そして発動効果に直接関与しない「イントロン」が含まれていたんだ。要するに、沢山のダミー配列が含まれていたから解読が困難を極めたって事だね。


 タネが分かれば、あとは翻訳するだけ。今ではほとんどの祈り紐の解読が完了し、好きな効果を記述できるようになった。星の力ステラとの親和性の観点から、どうしても付与できない効果もあるけれど。



「今回作った祈り紐は『冷凍』の効果です。負の温度の記述に苦労しました……。これが成功すれば夏でも氷を生み出す事が出来るはずで――よし成功です!」


 ――おおーっ!


「どれどれ……冷たっ! なるほどねえ、これは面白い祈り紐だねえ。他の祈り紐も上手く動いてたし、お祭りはこれでお開きとしようか。最後に星々に感謝を」



 こうして私達は冷凍庫を手に入れた。




――― あとがき ―――

本作の舞台となっている「満天の星空に照らされた草原」をイメージしたCGを描きました!

↓こちらから是非見てみてください!

https://kakuyomu.jp/users/TrueBlueFeather/news/16818622172880766930

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