第27話 邂逅
「あの····えと··その······」
初葉さんの説得の後、栄さんは何とか座ってくれた。
下を向きながら視線は泳ぎまくり、落ち着かない様子を思いっきり見せている。
緊張というよりも恐怖という感情が強いのかもしれない。
「いつまでも緊張するなよ俐奈っ。悪いやつじゃねぇってのはあたしが保証するっ」
「それは出来れば本人に判断させてあげた方が····」
「シュウは固すぎるんだよー 。もう少しフランクに行ったって損はねぇぜっ」
「慎重に行っても損は無い気がしますけども····」
こんな2人が仲が良いというんだから、人の相性と言うのは本当に不思議なものだ。
「まぁ、喋るのにはちょっと時間がかかりそうだから、あたしが軽く改めて紹介しとくよ」
そう言って初葉さんは栄さんの肩をポンっと優しく叩いた。
「俐奈なゲームが得意でさっ。ジャンル問わず幅広くやってんだ。基本ゲームの話を振れば何でも返ってくるよ。だからシュウも要芽も何か好きなゲームがあったら俐奈に聞いてくれれば多分反応してくれるぜ」
「そうなんだ」
「よろしくね。栄さん。俐奈ちゃんって呼んでも良いかな?」
「あ、はい····大丈夫····です······」
「リラックスしていいからね。全然タメ口で話してくれて良いし、私の事は要芽で良いから」
「うん····要芽ちゃん」
すぐに実行したあたり、人嫌いって訳では無さそうだった。
「あたしは正直俐奈が羨ましいよ」
不意に初葉さんが呟いた。
「あたしは俐奈みたいに、これっ! って趣味が見つからねぇんだよなぁ。何かに興味を持つのは良いんだけど、すぐに飽きちまうんだよなぁ」
「そんな事ない····初葉は何でも出来て、皆から憧れの的だよ····私も、初葉みたいになりたいって思う····」
「でも言い換えれば器用貧乏ってことだぜっ? 始めるは良いけど、極められねぇっていうか、飽きちゃったりするんだよ。何か1個を貫き通す方がよっぽどカッコいいと思うぜっ」
ウチは2人の気の合う理由が少し分かったような気がした。この2人は、お互いのことを心から尊敬し合ってるんだ。
「ウチは初葉さんは他には無い才能を持ってると思いますよ」
「あたしがか? 実際すぐに飽きちゃって長続きしねぇんだぜ?」
「新しく好きなものを見つけられる才能があるって事だと思いますよ。誰にでも出来る事じゃないと思います」
「·······ふーん、そっか」
初葉さんは小声で何か言いながら、席を立った。
「好きなものを見つけられる才能·······かっ」
「どうしました?」
「いや、何でもねぇ。ちょっとデザート取りに行ってくるわっ」
「私も行くよ初葉」
歩き始めた初葉さんを追うように、栄さんも席を立った。
「あの、秀周さん」
急に呼ばれる声に反応すると、栄さんはこれまで見もしなかったウチの顔をはっきりと見てきた。
「その······ありがとうございます····!」
それだけ残して栄さんも行ってしまった。
「これは今後面白くなりそうですね。秀周くん」
「何で要芽さんは笑ってるんですか?」
「ううん。何でも。瑠衣ちゃんは落ち着かないかな?」
そう言って瑠衣ちゃんの方に要芽さんは視線を向けた。
「これは落ち着かないよ! 俐奈氏が男の人に自分から話したんだよ! 大スクープだよ!! これは記事にし甲斐があるってもんだよ!」
瑠衣ちゃんはせかせかと色々な小道具を取り出している。
変な捏造記事を書かれなきゃ良いんだけど····。
「ふふっ」
要芽さんは何かを準備している瑠衣ちゃんと、いまいちピンと来てないウチを見ながら笑っていた。
歓迎会はウチにとって妙にしっくり来ない着地をしてお開きになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます