おっつー元カレ

奈月沙耶

episode 3

「りこ先輩キレイでしたね」

「披露宴のドレスも素敵だったよ」

 ちさ先輩はスマホを取り出し、からだを寄せて画像を見せてくれる。

「コウはめちゃくちゃ緊張してて、笑えた」

 どうでもいいし。端から見てバカなカップルだなぁとしか思ってないし。

 でも、ちさ先輩はすごく友だちを大事にするから、わたしはぜったい悪口は言わない。

 ごてごてフリフリな花嫁さんより、タイトなシルエットのワンピース姿のちさ先輩の方がずっとずっと綺麗!って思うことも心の中にとどめる。

 ちさ先輩の目元がアイメイクのラメでキラキラしている。先輩はいつもキラキラだけども!

「ぱるももっとおしゃれしてくればよかったのに。二次会からでもみんなドレッシーだったよ?」

「えー」

「あ。ねぇねぇ、着ていくあてもないのに、ついつい買っちゃったドレスとか眠ってない? お金貯めてさ、ドレスアップしてちょっといいホテルでお泊り女子会しようよ」

「マジですか!? 行きます行きます!」

「良かった~。こういう目的があるとさ、仕事がんばれるし」

「はい! がんばります」

「じつは前から気になってるプランがあって……」

 スマホをいじるちさ先輩の顔が曇った。

 メッセージアプリのポップアップ通知が見えた。ちさ先輩は嫌そうに指で表示を払う。

「…………」

「…………」

 じいいいいって横顔を見つめる。先輩はこういう我慢比べに弱い。

「えっとね、まえにちょっとつきあってた人が、また連絡してくるようになって」

「え。元カレですか。え。いつのまに……。知らない。わたし知らないですよ!」

「えと、うん、だから。ほんのちょっとだけの間のことで」

「知らない知らない知らない知らない! わたし知らない!」

「だ、誰にも言ってないから」

「りこ先輩にもですか?」

「う、うん」

「コウ先輩にも?」

「うん……」

 しょんぼりするちさ先輩。わたしは叱ったりしないのに。

 優等生な先輩は、叱られるのが怖いのだろうな。真面目だから。そういうところ好き。

「しつこいんですか? そいつ。なんてゆってくるんですか?」

「元気? とか、久しぶりに会いたいとか」

「…………」

 思いっきり舌打ちしたいのをこらえるのに苦労した。

 ようするに、飢えてんでしょ、そいつ。餌食にしようとしてんでしょ、わたしのちさ先輩を!

 イライラして爪を噛みそうになるのもどうにかこらえた。

「先輩はどうしたいですか? ヨリ戻す可能性とか」

「それはない」

 すっと顔をあげてちさ先輩はきっぱり言った。

「このヒトと上手くいかなかったのは私が悪かったからだろうけど、ダメだと思って別れたんだからやり直すとか絶対ない。そういうふうに向かい合った人と友だちみたいにするとかも絶対ムリ」

 おっつー元カレ! おつーおつー。あんたの存在価値なんてちさ先輩の中にいちっっミリもないんだよ!

 って、心の中で見知らぬ元カレを罵倒したのもつかのま、ちさ先輩がフクザツそうな顔になったのを見て。

 ……コウ先輩とつきあわなかったのはだからかな。友だちのままでいたかったから?

 そんなしょぼい男にひっかかったのも、コウ先輩とりこ先輩のことがあって寂しかったから?

 どっちも訊くまでもないことで。どっちでもいいことで。

「あ」

 スマホに目を落としてから先輩はにっこりしてわたしを見た。

「弟がクルマで迎えに来てくれた。ぱるも一緒に帰ろ。送ってく」

 弟がいるのは知ってたけど会ったことはない。人見知りなわたしは身構える。

 でもまだ先輩といたいし。

「お願いします」

 いそいそと、ちさ先輩と一緒にコーヒーショップを出た。



↓↓↓↓

episode4【狂愛】

https://kakuyomu.jp/works/16818622172684938190/episodes/16818622172685692957

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おっつー元カレ 奈月沙耶 @chibi915

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