3→8日目

あれから…5日が経過した。


「っと…遺族の人達から連絡来たから、行って来るね!今日、浴槽の修理する業者さんが来るから家の事は頼んだぞ♪いつも通り、絶対外には出ないでね〜」


「はーい。」


玄関までついて行くと、見覚えのない大きなカバンを背負っていた。


「そうそう…今日は仕事が多くてね。凄く遅くに帰って来るから。私の事は気にしなくていいからね。」


「えっ…はい。」


ちょっとした違和感を覚えつつも、私は出かける久留さんに手を振って、そして心を切り替える。


さて…今日も、お掃除しますか!


久留さんがいなくなったのを確認した私は、掃除機のスイッチを押した。


……


驚くべき事に久留さんの仕事は、この『統一世界』にたった1人しかいないらしい、特殊清掃員なのだそうだ。だから、朝に家を出る事もあるし、深夜に連絡が来て出かける事もあった。


『うーん…両親が亡くなって、無力だった小学生の私には拒否権なんかなかったし、生きるか死ぬかの選択だったからね。考えるまでもなかったよ。今だから言えるけど、誰かがその貧乏くじを引かなきゃ、皆…立ち行かなくなっちゃうしね。』


そう言って笑いながらも、その表情は真剣そのものだった。


『そ、れ、に…この仕事は、同業者とかいないから顧客は全部、私の総取り…居酒屋代を、がっぽがっぽと、稼げちゃうのさ♪』


そしてすぐに悪そうな顔に変わり、絶賛しんみりしていた私の両頬をつねられたのは記憶に新しい。


それは、どんなに戦争もなく平和な世界でも、人間には寿命という枷があり、ちょっとした傷や病気ですぐに死ぬという事を意味していた。


「やはり人間は…不完全だ。」


私はソファーに寝そべって、慣れた手つきでリモコンの電源をつけた。


それはそうと…今日は何を見ようかな。


【ノエルはいつから人間である久留 茜に飼い慣らされてしまったのです?退屈で見てられませんよ。もっと見応えのある事をしてくれませんか?】


…平穏な生活に見応えがないと!?2日に1度、血液が飲める超絶快適な、この生活が!?!?


【はい。私としてはもっと、ノエルが苦しみ足掻く姿を見て、愉悦に浸りたいですね。専属メイドとしての仕事はどうしたのですか?】


私はリモコンを操作して、今日のニュースが流れていたチャンネルを変えた。


「はぁ…私の様子を見てなかったの?今日も久留さんの部屋以外は全て、清掃済みだよ。ほぼ解説もしないし、案内もまるでしてないよね?職務怠慢じゃない?」


【「のっ、ノエルの癖に生意気です。痛い所を突かれました…」と。つい5日前の私なら苦し紛れにそう答えたでしょうね。そうならないように、ノエルが平和を享受している間に、重要な情報を極秘裏に仕入れて来ましたよ。】


へぇ。随分と自信満々じゃないか…まあまあ、言ってみなって。すぐに笑い飛ばしてあげる。


【『原初の魔物』の内の1人…『模倣王』ミミカル。彼女がこの世界を権能の力か何かで統べています。】


手で持っていたリモコンが落ちた。


……



勘違いしてるかもしれないからここで、訂正しておくと私と他の皆(『原初の魔物』)との仲はそこまで悪いものではなかった。


母様の次に恩義がある無口だけど面倒見がいい『巨人王』のタイント君(…ちゃんなのかな?)や、私と同じく精霊嫌いの同志である『耳長王』のフウカちゃん。


歌が好きな『人魚王』のローレちゃんや『霊王』イリスちゃんとは、よく一緒に遊んだなぁ…後者は割と命懸けだったけど。


方向性は違えど、弱者を痛ぶるのが好きな『獣王』のレヌと『灼熱王』のシャドウの2人には、城の廊下ですれ違う度に、舌打ちされてた。


今思えば…兄さんが家出する前に牽制していたのだろうと、何となく察しがつく。そうそう、私の奥の手の実験相手になってくれた事もあったっけ。


シャドウはともかく…レヌは、元気にしてるのかな。


事あるごとに城内を爆発させまくる『粘着王』のポム君と、爆発させた箇所を瞬時に金槌片手に修理していく『小鬼王』のミントスター君の謎の戦いもあった。


母様の部屋を爆発した時には、寛容な母様もブチギレて…うっ、これ以上は思い出したくない。


単眼な事以外、至って普通の人間の容姿をしていた『単眼王』のエルジーラさんは、自室で机に座って古い本を読んでたり、庭園でボッーとしてたり食事中、不意に椅子の上でダンスを披露する、かなーり、不思議な人だったけど…


本来、兄さんがなるべきだった『吸血鬼王』に私がなって、その重圧で押しつぶされそうになってた時、手を差し伸べてくれたり…魔法についての知識を与えてくれた事を加味すると、いい人…だったかな。


カッコよくてハードボイルドな『妖狐王』のタマさんと違って『蜘蛛王』のクネースさんは…言動といい、何処までも不気味だった。私が小悪党の半端者だとしたら、彼女は…完全無欠の『人類の敵』だと言える。


ある種の尊敬…に近い感情はある。けど…うん。怖いな。ここまで、数多の世界を旅したけど、クネースさんに似た奴はいなかったな。



そして————『模倣王』のミミカル


「………。」


ミミックの王で、誕生してからずっと城の地下にある倉庫に置かれた、古びた箱の中に閉じこもっている…と母様から聞いた。


それ以上の事は…分からない。性格も性別すらも…兄さんなら知ってるかもしれない。


白い精霊と戦った時や母様が皆を集めた時は、いたと思うけど…思い返してみると、実はいなかった気もする。それくらい…影が薄い。


人間(久留さん)と呑気なスローライフを送っているのにも関わらず、【禁】が発動しない以上…ルーレットの女神が、言った事は間違ってないと思う(罠かもしれないけど)。


こんな時『共感覚』みたいな便利な能力とか使えれば、良かったのになー。ホウレンソウはマジ大事だからね。


「ほい…ネガティブ終わり!」


とはいえだ。こちらに危害を加えてくるとは思えないけど、狙いも何も分からない以上…念には念を入れて、警戒しとかなくちゃだ……


【無理してポジティブで行こうとする、そんな健気なノエルに、絶望をひとつまみ。】


え…何?絶望??今の私はポジティブに行こうって決めてるからそう易々と、心が折れたりなんて、しない(キリッ)!!!


【今まで取っていたノエルの行動は、既に家に仕掛けられていた、超極小の最新鋭の監視カメラと同じく最新鋭の盗聴器で、筒抜けです。】


勢いよく飛び起きて、拾っていたリモコンを力の限り(吸血鬼パワー全開)床に叩きつけた。


「盗聴っ!?!?バッカ…先に言えよこの野郎!!!!!!」


ルーレットの女神に対する怒りで我を失い、(らしくもなく)大声で叫んでしまった。


っ……これが、貴様の策略か!?!?愉悦魔め!!!!!


【勝手に暴発して、自滅したのはノエルでしょう?どの道、避けては通れない道です。諦めて、歩み寄ってあげて下さい。】


いつもの口調なのに…何処か、違和感があった気がしたが……


【ヒビが入った床の修繕もしなければですが、とりあえずノエルは、木っ端微塵になったリモコンをどうにかする事を推奨します。】


「あ。や、やべっ!?でも…確か、掃除用具があった場所にマルチツールがあった気が……」


ルーレットの女神による、巧みな話題変更によって、私は気づく時間すら与えられないまま…リモコンを(可能なら床も)修理をするべく、行動を開始した。











































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