8日目
看板的の見た目的にそれらしき店を発見して、ノックもせずに店内に侵入した。
ギィィ…ガチャン
「夜分遅くにすいませーん。粗悪品でもいいので、黒色の布とかって、ありますか?」
中は思っている以上に広くて、明かりはついているが、しんと静まり返っていた。
【ノエル。恥ずかしがらずに、もっと大きな声で言わなければ…聞こえるものも聞こえませんよ?】
…た。確かに、一理ある…か。こほんっ。
「すいませーん!!!誰かいないんですか——!!!!」
【もっとも私調べでは、中に人はいないみたいですけどね。】
こ、この野郎…!!!私をコケにしやがったな!?
「てか…探索系の力があるなら、もっと早く使ってよ!?」
【ふふ。なんやかんやで、私の言葉を信用してくれる所…私は好きですよ。】
っ…別に、信用してる訳じゃなくてだね…あくまでも、参考程度というか…まあ、そういう奴だ!!!
ガシャン…!!
「ひぅっ…!?」
何かが落ちて来た音が聞こえて、(音でびっくりしてナイヨ。)振り返ると…閉めた扉に、鉄格子が降りていた。
【成程…罠でしたか。】
「…ザクト。」
いいよ……そっちから来るなら、全てねじ伏せてあげる。
「協力して…ルーレットの女神。」
【嫌です…と、言える空気感ではなさそうですね。仕方ないノエルですね。案内役兼解説役として、少しだけサポートしてあげますよ。】
…ありがと。そういう所…私は好きだよ。
即座に右腕に血液を集中…出し惜しみなしで、奥の手である『ロケット・パンチ』を鉄格子が降りた扉に向けて発射。破壊された入口から急いで、外に出た。
「あっ、奴が外に出た…ぐぁあ!?」
右腕が再生。事前に待ち伏せしていたであろう各種武器や防具で武装した人間共めがけて、『指鉄砲』を乱射。
「う、狼狽えるな…この程度…大した事じゃない、相手はたった1人の小娘だ!!!弓兵…撃て撃て!!!!!」
体中に矢傷と斬り傷を受けたが、何とか包囲網を突破した。
「弓兵諸君…早く、奴を追撃しろ…私達で奴を…ぽうっ!?」
「分隊長…うっ!?」
「何だ…こ」
背後から、肉体が内から爆ぜる汚い音が鳴り響く中…時が満ちるまで『人類の敵』として、驕り上がった人間共を、見つけた端から殺しながら、夜の街を駆けていく。
……
…
荒い呼吸…激しく鼓動する心臓…攻撃され続けた所為で再生しなくなり、血液操作もままならず、血が流れ続ける肉体。
ここに来るまでに人間の兵士を、老人を、父親を、母親を、少女を、少年を、赤ん坊を…老若男女問わず、容赦なく…殺した。
「このっ…化物め!!!」
「……っ。」
人間如きが愚かにも、泉ちゃんを…竜達を殺した恨みは、これで晴れた…スッキリしたよ。寧ろ、胸糞悪くなったくらいさ♪
『指鉄砲』を撃とうとした、右腕ごと斬り飛ばされて、私は両膝をつく。
「止めだぁぁぁあ!!!!」
「…ふ。」
私の首が剣で斬り飛ばされる瞬間、空中にあった右腕…その中指が射出。兵士の後頭部を鉄の兜ごと貫いて、何も言えずに果てた。
「『指鉄砲』の…遠隔発動。試した事…なかったけど…出来るんだ…知らなかったな…あ、あはは。」
ここに来る過程で、街としての機能を完全に失い、最後の刺客を殺して…ようやく会えた。
「戦う前にこれだけは言わせて。非戦闘員全員に、爆弾持たせるとか…紳士ぶってる癖して、容赦ないね……ザクト。」
「私が選んだ服をまだ着ているのですか。嬉しいですね。まずはここまで、来れた事を褒めてさしあげましょうか?」
いつの間にか広場のギロチン台の隣で立っているザクトが、丁寧にお辞儀をした。
「何せ『人類の敵』を殺すのです…それくらいの歓待は必要だと判断しました。その過程で騎士団長が亡くなったのは…残念ですが。」
内側から爆ぜた死体を、心の底から悲しそうに一瞥する。
「……ギルウィさんは?」
ザクトは特に勿体ぶらずに教えてくれた。
「彼女なら負傷者の護衛を兼ねて、創造主の亡骸と魂を王都へ運びに同行させました…巻き込みたく、ありませんでしたので。」
亡骸はともかく、魂…?えっと、ちょっと待って…その言い方的に、泉ちゃんはまだ…死んでないって事になるの??
…後でルーレットの女神に聞いてみよう。今は別件やってて、忙しいし…にしては、連絡が遅いけど。
「呆けた表情になってますが…このまま、倒してもいいですか?」
そう言いながら、吸血鬼の視力ですら追いつかない速度で、接近。軽々と私の左腕を斬り飛ばした。
「うわっ…」
情けない声(嘘)を上げて、尻もちをついた私は、ザクトの得物を確認して…目を見開いた。
「木の枝…?え、それ…木の枝だよね。」
「切断するのには少々コツが必要ですが…ごらんの通りです。」
血に染まった木の枝が、後ずさろうとする私の喉元に触れた。
「…降伏しますか?今なら一生、牢獄暮らしで手を打つように、上に働きかけますよ。」
「屋根付きで、3食昼寝付きの豪邸なら住んであげてもいい…っ!?」
戯言の代価として、瞬きのうちに舌を落とされて、喉を潰された。
敵ながら…尊敬に値する。その剣捌きは『精霊の森』で出会ったギルウィさんと同等……
否。敵に対して全く同情せず、容赦がない分…ザクトの方が厄介か。
「この期に及んで、時間稼ぎですか…?無駄ですよ。少しでも合図を送ろうとする素振りを見せれば、その首を落とします。」
「っ…かひゅ…ぁひゅ……!!」
ギルウィさんは、毎度毎度、無理難題を押し付けて来るとはいえ、誰よりも強く…誰よりも賢い者にしようという確固たる意志があった。それは今も未来(幻だったけど)でも、変わらない。
【時間稼ぎ、ご苦労様でした…ノエル。】
遅いよ!!!…で、終わったの?
【…詠唱中、何度か噛んだ所為で、57回もリテイクしましたよ…ガチ長過ぎです。おや…?酷い有様ですね。そんな状態で、声出せるんです?】
私は出せないよ。だからルーレットの女神は、今から呼び出す方のサポートをしてあげて。後は、私1人でやるから。
【稚拙な企みの内容は理解出来ましたが…ノエルの心と繋がっている私はともかく…それは、どういう理屈です?】
兄さんと私は確かに兄妹だけど…ある種、双子みたいなものなんだよ。
さて、本当はやりたくないけど…やりますか!
これは母様の見よう見まねで、編み出した私だけの、9つある奥の手の1つ…による副産物。
吸血鬼の誰もが(流石の私でも)デフォルトで使える『吸血』を除いて、『原初の魔物』になって以降に使えるようになった…唯一の、吸血鬼としての能力。
一定時間の間…自分よりも、ワンランク階級の低い吸血鬼を呼び出せる…『召集』だ。
最も…私にとっては、ちょっとした事でも、助けを求めるだけで、簡単に呼び出せてしまう…超絶、旅において気を遣う能力なんだよね。
肩書き上…私が吸血鬼のトップだから、本来なら、数多ある世界に存在する吸血鬼を全て呼び出せたりするんだろうけど、残念ながら(主に兄さんの変態性によって)能力の性質が大きく捻じ曲がり、たった1人しか呼べない。
「…あひゅ…へて…」
私は、心の中で懇願するように呟いた。
———兄さん。
同時刻…廃墟と化した街の上空
「…ふん。」
弱すぎて、我が面倒を見なければ死んでしまうくらいに脆いノエルからの久方ぶりの『召集』に、しょうがなく…(嬉し過ぎて、空をぶち破って)来てやったが。
【…という訳です。】
「愚図な妹の世話役か…それは、貧乏くじを引いたな。」
(一緒に添い寝したいくらいに可愛いノエルに、世話役!?そこ変われ)曰く…ノエルの代わりに、詠唱をしてやれとの事だ。
我は呆れ過ぎてため息をついた。(ノエルが、我を頼ってくれた…!今夜は豪華に人間の丸焼きにしよう。帰ったら日記に追加しておこう!!!)
【あの…発言が矛盾しているのですが……】
「チッ…どうやら奴は、少しは頭が回るようになったらしい。ババアから、聞いたのかまでは知らないが、我とカスは、元々2人で1体の『吸血鬼王』になる予定だったからな…血縁が近い故、代理詠唱くらいは可能だと、踏んだのだろう。」
それにしても…懐かしい場所だ。まさかここにまた、来る事になろうとはな。
【懐かしい…?っ、まさか…】
「余計な詮索はするな。我は忙しい…すぐに終わらせよう。」
我は(ノエルを助けるべく)天に左手を掲げ…遂に完成させた『心象侵蝕』の発動を告げる。
——
瞬間、事前に街に散らばったノエルの血液(舐めたい)が赤黒く光り、円を描くように街をぐるりと囲んで…血の色をした結界が完成した。
【…ノエルは…どうなるでしょうか。】
「後は奴次第だろう。『心象侵蝕』は、外から内部を視認する事も、入る事も出来ない絶対領域…暫くはあのままだ。」
我は、僅かに笑みを浮かべながら背を向けて、背中に生やしている黒い翼で、山岳地帯の方向へ飛ぶ。
【見届けないのですね。】
「…決着がつく頃には戻れる。これからする事は…暇潰しの様なものだ。だが、貴重なものが見れる事だけは、保証しよう。」
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