47日目→1日目

あの後、何とか生き残り(全身ズタボロ)スロゥの家に帰って来た私は、そのままベットに転がった。


「…どうしたの?」


「ギルウィさんに会って…」


「……大変だったね。」


ここに来てからスロゥは、毎日、疲れて横たわる私に暖かい飲み物を差し入れてくれる。匂いからして…今日は、紅茶の類か。


スロゥと関われるのは、家にいる時のみ。個別で課題の内容が違う事もあるけど、学校では、教室の廊下で、バケツを持って立っている姿を遠目から、何度か目撃した事がある。


何で廊下に立ってるのかを、ギルウィさんに聞いてみると、スロゥは他の精霊と違って魔法を使う上で、重要な魔力操作(私は『血液操作』のノリでやったら出来た…ドヤっ☆)が出来ず、魔力量も最底辺。生まれた時点で使える筈の初級から上級までの魔法も使えない…言わば、落ちこぼれなのだそうだ。


「ごめん…それも飲めないんだ。」


「…色は赤いよ?」


「含まれてる成分とかが…ね。」


飲めるものなら…飲みたいんだけどね。流石にお腹減ったなぁ。


「明日こそ…頑張る。」


そんな他愛のない会話をして、一緒に眠るのも、日課になっていた。


「……むにゃむにゃ。」


…スロゥが眠りについた頃、私はベットから体を起こし、スロゥの体に馬乗りになって、その細い首に両手を当てる。


「…ごめんね。君に明日は来ないんだ。」


諸悪の根源。いつか白い精霊になる君の抹殺。これが成功すれば確実に未来が変わる。少なくとも、母様と離れ離れにならなくて済むかもしれない。


キリキリキリ…


「ノエル…ぅ。」


「…っ。」


首を絞める力が、僅かに緩む。


いや、ただの寝言だ。落ち着け…仮に起きた所で、私の方が強い……何を焦る必要があ…


「……血?」


ポタポタと葉っぱの布団に溢れたのは…私の血液だ。ゆっくりと自分の体を見ると…ヘソの近くに深々と銀製の剣が突き刺さっていて……


「悪いね。」


剣が引き抜かれて、鮮血が辺りを汚しながら…ベットから転げ落ちた。


「…キミにはキミの事情があるように、僕にも僕の事情があるのさ。」


月明かりに照らされた男…オルンはそう言って暗く笑う。あぁ…やっぱり、何か怪しいって…思ってたんだよなぁ。


「わ、私を…」


「けど、別にキミを殺すつもりはないよ…僕は忙しくてね。」


やるだけやって…後は放置プレイかよ!?


「っ…友達だって、思ってたのに。」


「あははっ…そんなモノは、精霊族の存続の為に全て捨てたよ。大体、キミが先に僕を騙したんじゃないか。遥か先の未来からやって来た異邦の旅人…失敗作より、生まれし『吸血鬼王』ノエル。」


銀製の剣に刺されたからか再生が間に合わず、出血で、ゆっくりと意識が遠のいていく。


「そうそう。今だから言えるけど、ノエルがギルウィの生徒になった初日の課題の時点で、嫌になって城に逃げ込む所を、サクッと殺す予定だったんだ。」


「殺す…!?」


「…いつまで経っても、精霊国の観光を止めず、無限に繰り返される僕の『心象侵蝕』がみせる夢の世界を満喫していたキミの目を醒まさせる為にね。」


城…あぁ〜そんな事言ってたな。記憶にすらなかったわ…って?


「夢…?『心象侵蝕』…って、確か…ウイが言ってた……」


「うん。ここはね…僕の『心象侵蝕』で構築した世界なんだ。ちなみに本来の精霊国は、僕の計画通りに悪魔の軍勢によって、僕とスロゥを除いて、一族根絶やし状態になっている。」


「……ウイも、ギルウィさんも?」


「死んだよ。」


寝ていたスロゥや、周りの景色が消滅していき、気づけば私とオルンだけになっていた。


「キミには現在、精霊国に未だに駐屯している悪魔の軍勢を率いる公爵級の悪魔。『全てを反転させる悪魔』…ワプギスを討伐して欲しいんだ。」


「ヤダよ。」


どのツラと口で言うんだ。オルンに、今の今まで騙されていたというのに。


「ねえ…どうして私の事を知っていたの?」


「…僕は厳密に言うなら精霊ではなく、その原種にあたる妖精で、心が読めるのさ…だからキミの素性とかはすぐ分かったよ。ただ……城の地下図書館にいる『本の虫』に詳細を聞くまでは、とても信じられなかったけどね。」


『本の虫』…?はて、どっかで……


ザザッ…


『傑作…駄作…傑作…駄作…秀作…ふぁぁ。さあて、次はどの書物を…』


不意に本を閉じて、日本の高校生くらいの背丈の茶髪で、茶色のメガネをかけて、茶色の尻尾が生えた少女が、こちらを振り返った。


『…扉。閉めてくれませんか?環境の変化で書物が湿気とかで台無しになるのイヤなので。』


……何だ、この記憶…私、知らないぞ?ま…印象薄いし、気にしなくてもいっか!


私は軽く咳払いをした。


「で…ルーレットの女神は?」


「どうやら、隔絶した別空間にいるっぽくて、どうしても連れて来られなかったから、僕が代役を務めさせてもらったよ。」


はっ…そういうカラクリね。とんだ、茶番劇をさせられていたものだ。ふざけやがって…


「キミを利用するのは、申し訳ないと思っている。しかし…」


けど、それはそれ…これはこれだ。母様なら、ここは不敵に笑う所だろう。


「ふ…その悪魔が、ウイもギルウィさんを…殺したの?」


さっきまでヘラヘラしていたオルンは、黙って頷いた。


「…やってあげるよ。」


「それは…引き受けてくれるって事かな?」


「勘違いしないで。オルンのシナリオに乗るって訳じゃないから。」


2人は人間ではなく精霊。それなら母様…許してくれるかな。洞窟でルーレットの女神が言っていた事が正しければ…まだ諦める時じゃない。


まさか、精霊族が存続するか否かの時に居合わせる事になるなんて…今でも、信じられないけどね。


「約束して…絶対に、皆を蘇らせるって。」


「約束するよ。その為に僕は『精霊王』になったんだ。スロゥが戻って来る前に片をつけてくれ。そうなればキミと私の願いは成就する。」


私は目を閉じる。


「今度こそキミを精霊国に向かわせよう。私は訳あって、そこには行けないから、後の事は任せたよ。」


「『精霊王』様の癖に、使えないね。」


そう言うと、小さく苦笑いする声が聞こえた。


「ごめんね…でも、キミにとって素晴らしい環境と贈り物を用意してあげる事なら出来るさ…任せて欲しい。では…また、どこかで。」


………


……



夜。私は目を開けると、瓦礫だらけで見るも無惨な光景が広がっていた。


死体が残らないだけマシだな……ん?何これ。


【ノエル!?私達は今さっきまで、洞窟の外にいた筈では!?!?】


裸に逆戻りした私は、手に持っていた竹製の水筒(【AB型の血液だよ☆】と書かれている)を眺める。


「…なるほどね。」


【あの、納得顔で頷かないで下さいよ。私、置いてけぼり食らっているのですが?】


それを一気飲みして、適当に投げ捨てた。全身の細胞が活性化…無限に活力が湧いてくる。


「ぷはぁ…さぁ、行こうか?」


【っ、精霊国に行くのですか。今は悪魔の軍勢が占領してるのでやめておいた方が…まず、ノエルに勝ち目がありませんよ?さては…自殺が怖いからって、死なせてくれと懇願しに…】


違うわっ!!!そんな情けない事、一度もした事ないし!!!!


「精霊を殺した悪魔共を駆逐するんだよ。捨て身の私は言っちゃ何だけど、結構…強いんだぜ?」


【あ、あれ…ノエル。精霊の事…嫌いだったのでは?】


あー。ちょっとだけ…好きになったんだよ。


【ええ…数時間と経たずに、突然のキャラチェンに私、ドン引きなんですが…】


しんしんと雪が降り始める中…私は門があった場所から、精霊国に初めて入国した。



夜が明けるまでに…全て、終わらせてやる。
































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