43日目
「ここが学校よ。今頃…ギルウィ先生は、私達のクラスで準備をしている頃だわ。早速、行きましょ?」
「へぇ…ここが。」
木造りの気品と清潔感溢れる建物に入り、傘立てっぽい場所に葉っぱ傘を置いて…ふと、周りに爆発跡がある事に気がついて目を丸くする。
「えっと…外と中で、全然違うんだね。」
「…スロゥ。昨日、掃除してなかったでしょ?」
「眠くって…」
ウイは眉間にシワを寄せて額に右手を当てた。
「はぁ…事が事だから、いつもよりも早く来たけど、今日もギルウィ先生に、怒られるのが確定したわ。」
「?…ウイは何も、悪くないよ?」
「連帯責任なのっ!!大体、アンタが……」
やれやれ、朝食の光景といい…うん。
「姉妹みたいだね♪」
「は!?やめなさいよ、その言い方…こんな出来の悪い妹なんて、私はっ…」
「…嬉しい。」
「っ…もうっ!!!」
これも、悪い癖なんだろうけど…つい、微笑ましく見守ってしまうね。
【ズルズルッ…何を羨んでいるのです?ノエルには超弩級地雷の兄がいるじゃないですか。】
……な、な、何でその事を……!?
「え。ノエル…その顔、どうしたの?」
プニプニ
「許可なく、誰かの頬を触っちゃダメでしょ?ほっときなさい。」
で…話をそらせると思ったら大間違いだ!!!テメー、さては呑気にラーメン食ってるな?私が断食を敢行している時にぃ——!!!!!
「あ…膨らんだ。」
プニプニプニ
「だから、やめときなさいって…」
【ノエルが食べれない代わりに、私が食べているのです。いやー、朝から濃厚豚骨、油マシマシ、大蒜大盛り、細麺バリカタは、とても美味しいですが、流石に胃もたれしちゃうなー。】
大蒜さえ入ってなければ、一口だけなら食えるわ!?…死ぬけど。
「冷んやりしてて、柔らかいよ…ウイもやろうよ。」
「イヤったら、イヤ…ほら、着いたわよ…ねえ、聞いてる……?あ。本当に冷んやりしてる。案外、悪くないわね。」
プニプニプニプニ
「立ったまま…寝てるのかな。」
「アンタじゃあるまいし。そうだわ…アンタ、少し離れてて。」
「…うん。」
【本当に美味しい、美味しいですね…っ。少し席を外します。】
ぷっ…あはは!!!朝から私を煽る為だけに、無理して、濃厚豚骨(以下略)なんて食べるからだ、バーカ、バーーー…
「ていやっ!!」
「カアッ!?」
日頃の恨みもあり、ルーレットの女神を全力で馬鹿にしようとした瞬間、誰かにお尻を蹴られて、その勢いで扉が外れ無様に床を転がった。
「どう?さっき思いついた、物理攻撃力上昇魔法に、増幅魔法、限定強化魔法を加えた私のキック……は。っ!?!?」
そこには、灰色の長髪の女性と見知った男…オルンがいて、ウイはオルンを見るや否や、スロゥの後ろに隠れてしまった。
「お見事だよ。ウイ…この歳で、3つの魔法の要素を複合させる事が出来るなんて…次期『精霊王』筆頭という噂は嘘ではないようだ。」
「私の生徒を甘やかすのをやめて下さい…ウイ。他の生徒が来る前に、魔法で扉を修繕しておくように。」
「あ、ひゃい…ごめんなさいギルウィ先生。」
「それとスロゥ。昨日の掃除当番をサボりましたね?」
スロゥは無言で(嫌そうに)頷いた。
「では、罰としてこの先1週間は、掃除当番をしてもらいます…後、ウイも連帯責任で、付き合ってもらいますから、覚悟して下さい。」
「分かった…どうしたの、ウイ?」
「な、何でもないわ…はいっ、扉、直し終わりました!げ、玄関の掃除しに行きましょ!?!?」
「う、うん…」
ものの数秒で扉の修繕を終わらせると、スロゥの手を取って、走り去ってしまった。
「…ふ。良い心がけです。それでこの方が、例の…」
「?おや。そこで悶絶しているのはノエルじゃないか。影が薄すぎて分からなかったよ…ローブ姿が似合ってる、似合ってる〜♪」
申し訳なさそうにしながらも、私の姿を褒めて、拍手してくれているけど…何処か歪に聞こえるのは、やっぱり…私だけなのかな。
「そうだギルウィ。折角だし、ノエルに魔法を教えてくれないかい?」
「えっ、いいの!?」
オルン…君、分かってるじゃん。旅といったら、こういうのだよ…こういうの!!!魔法体験かぁ……どんな事をするんだろう?
「ヒィっ!?!?!?!!!!?!」
キッとした威圧感のある細い銀色の瞳で私をジロリと観察するように見た。
※尚、私の『原初の魔物』としてのプライド(ほぼゼロ)にかけて、断じてあれは悲鳴などではなかったと、ここに追記しておく。
あれは…そう。しゃっくりかな?うん、そうだね!しゃっくりだよね!?
「こ、怖っ…」
駄目だ…素で本音が漏れちゃった…とりあえず、心を落ち着かせよう。
「一応、魔法適正はありますが、専門外です。精霊王か、ウイの方が適任だと考えます。」
「『第一次竜征伐』で、精霊族の中で1番、竜討伐に貢献し、『吐血騎士』と呼ばれたキミが専門外っていう事は…結界術の類かな?」
すぅ……んえ?結界術??それって、母様と一緒にいた頃の私が1番したかった奴じゃん!!!
でも母様の『アレ』を見てから、ずっと独学で頑張ってみたけど、上手くいかなかったんだよね……。
「やめて下さい…もう随分と昔の話ですよ。剣の腕も昔より、随分と衰えました。」
へいっ、ルーレットの女神!!!…解説ヨロ!!!!!
あ。今は離席して、いないんだっけ…いやぁ、こういう時にいないなんて、全く…役立たずなんだからぁ……き、聞かれてないよね?
「うーん。私はあくまで、現場の視察に来ただけだし…よし、決めた!ノエル。これは、キミが良ければなんだけど、ここの生徒に…」
「なります、なります!!結界術…超絶学びたいっすー!!!」
——ここの生徒にさえなればスロゥを殺せる機会なんて、いくらでも作れる。こちらとしては願ったり叶ったりだ。
ついでに、結界術を使いこなす事が出来れば、9つある私の奥の手の内の1つが、やっと実用可能になるかもしれない。
「うんうん……じゃっ、後は任せたよ。」
そう言い残し、オルンは教室の外に出て、直ったばかりの教室の扉を閉めた。
「よろしくお願いします!ギルウィさん!!」
「…分かりました。やる気のある生徒は嫌いではありません。早速、今日からの授業計画を立てましょうか。」
「はーいっ!!!」
この日…私は、ギルウィさんの生徒になった。
……これが地獄の始まりだとも知らずに。
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