3日目
放課後。いつもよりも、剣道部の活動が早く終わった僕は昇降口に行くと、そこには…傘を忘れ、立ち往生している写真部の橘さんがいた。
(朝の予報ではまだ雨は降らないって言ってのに、もう降ってたんだ。橘さん。傘…忘れたのかな。)
自分の赤色の傘を回収してから、僕は迷う事なく後ろから声をかけた。
「あれ…橘さん。傘忘れたの?」
「…ひゃ!?」
橘さんは、とても驚いているみたいだった…少し悪い事をしちゃったかな。
「◾️◾️くん…?」
「ほら使いなよ。僕には最近買った雨ガッパがあるから。」
「あ、ありがとう…」
カバンから取り出した黒色の雨ガッパを橘さんに見せてから、素早く着替えた。
「よし…じゃあ、また明日ね。」
「あ、うん…また明日。」
何処か、名残惜しそうな橘さんの言い方に若干の違和感を感じながら昇降口を出て、校門へ。
「……?」
(どうして傘もつけずに、こんな場所にたむろって…)
「…!!」
僕は咄嗟に後ろに下がる。目の焦点が合っておらず、正気を失っているように僕の目に映った。
「「「………ウァァ」」」
(一体、何がどうなっているんだよ!)
「……え。」
「…っ!?」
後ろから橘さんの声と、こちらにやって来る足音が聞こえて、僕は後ろを振り返った。
「!に、逃げろ…橘!!!」
ザザッ———その後の記憶は残っていない。
何日…何ヶ月後なのかも分からない時間を経て、僕は目覚め…雨が激しく降り続ける曇天の空を見上げて、何となく右手を伸ばす。
「…ここ、何処だろう。」
全ての記憶を失った少年の側には、血で汚れて赤茶色になった誰かの傘が落ちていた。
……
昨日の夜に、綺麗な夜空を見せてくれた空からは雨がポツポツと降り始めている。
「どうしよっか。」
頭を下げた瞬間に何らかのショックで倒れてしまった少年を、私が作った簡易ベットに寝かせて、物思いにふける。
記憶喪失…それは流石に予想外だった。
「……」
2日間、何も入れていない私の腹の音が鳴る…が、私は少年の血も吸えないし、肉を食べる事も出来ない。せめて、少年の血液型さえ分かれば…はぁ。
しょうがなく、私は足の拘束を解いた時に引きちぎれた両足を頬張り、骨まで喰らって、それを今日の食事としたのが数時間前のお話。
「食えなくはないけど…マジ不味い。」
吸血鬼由来の不死性が尽きない限り、何度でも使える手段だが…エネルギー効率がすこぶる悪く、底が尽きれば限界が来る、緊急避難的手段にすぎない。
「…う、うぅ…橘ぁ…」
苦しげに、少年が寝言を呟く。
「……。」
こんな世紀末みたいな世界なんだ。少年に何があったのかは分からないが、よっぽど辛い目にあったんだろうと想像がつく。
「さて。この世界の情報入手がてら、食料調達…してきますか。」
私は少年に布団をかけた後、教室を出ようとした時に入口近くに置かれていた、赤茶色の傘が目に入った。
「いくら吸血鬼でも、濡れると寒くてね…この傘を借りていくよ。」
……
1階の体育館と校舎を繋いでいる、渡り廊下から外に出る。
「…出来るかな。ほっ!!!」
肩に力を入れるが…空腹の所為か、翼は生やせなかった。
「…よし、徒歩で行こ。」
私は傘をさして、正門から中学校を出ていき、町の中を散策する。
こうして呑気に食料調達をしていても、元々『原初の魔物』に付与されている、母様からの【禁】が発動して、私が死なない所を見るに、この世界には既に黒幕…人類に対する脅威がいるのは確定した。
正直、とてもありがたい!!このまま、私の出番が来なければいいのだが……
「おっと。」
私は足を止めて、横に振り向いた。
「……ウゥウ」
ゾンビやスケルトンといったアンデットは厳密言えば、魔物ではなく、人間が知識や名誉欲しさに勝手に禁忌に触れて出来た単なる、魔物の出来損ないにすぎない。
「へぇ…そんな贋作が『原初の魔物』に喧嘩売っちゃうんだ。やっぱり脳みそ腐ってるな。後で後悔しても…知らないよ?」
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