世界ヲ渡る吸血鬼
何者かによって滅ぼされても尚、未だに人類を震え上がらせる『原初の魔王』である母様が持っていた13の権能を分離。数々の
私が母様から賜った権能を一言で言い現すなら…『不滅』。一見、良さそうに見えるけど、全能力値がカンストしたり、どんな物にもなれたりとか…他の皆と違って凄く地味な権能で、私は嫌いだった。
まあ、この生き甲斐が出来た今は、好きになったけどね。
……
「遂に、ここもお別れかぁ。」
明日はとうとう勇者がやって来る。そして、当初の計画通り、私はまた殺されるだろう。
私はキングサイズの黄金色のベットの隅っこに山積みにされた本達を眺めて、感慨に浸る。
「勇者記録ノート…今回は随分、書いたなぁ。」
——彼女は、私を…ちゃんと滅ぼしてくれるだろうか。
「……まっ、どーせ無理か。期待なんて、するだけ無駄だよね。」
こうして1人になった今なら、私達…『原初の魔物』を産み出した、母様の気持ちが分かる気がする。
永遠の時の中、ただ漠然と生きるのは…辛いんだって。だから…いつしか、あの側にいた精霊の甘言に惑わされてしまったんだ。
私達がもっと早く…それに気づけていれば。
「……はい、ネガティブ終わり!」
部屋のお掃除を終えて、思考を切り替える。
明日の勝負服よし。既に剣も置いておいた。
後は…もう明日次第なんだから、今は辛い事や痛い事より、楽しい事を考えよう。
「次は、どこにいけるかな。」
期待に胸を膨らませながら、もう2度と使わないであろうベットの柔らかい感触を、ひたすら堪能して、眠った。
……
…
私の部屋…否。城の謁見の間にて。
この城に(意図的に)置いておいた、聖水を浴びた十字架の剣が心臓を貫き、私は膝をついて、(演技上仕方なく)血走った赤目を大きく見開く。
「よもや、その剣は吸血鬼殺し…『ザ・サン』か!?」
「え…あ、ああ。そんな名前だったのか…教えてくれて感謝するよ。」
「ふ、ふふ…」
分からないと困るかなとか思って、わざわざ剣の隣に、名札…置いといたんだけどなぁ。風で吹き飛んじゃったか。
「この程度で…っ。ゲホッ…」
(ふと、背中が痒くなって反射的に)立とうとした私は吐血する。
とっても痒いけど…期待通りの威力だ。この時の為に、何度も両手を火傷しながら作った甲斐があった。
「城の入口に放置しておいたのが運の尽きだったな。『原初の魔物』が一翼…『吸血鬼王』アルカラ。今は亡き両親や仲間達の仇……!ここで果たさせてもらおうか!!!!」
それ…偽名なんだけどね。
『原初の魔物』である私を討伐するべく、別の異世界からやって来た、頭が平和ボケしたこの勇者が自主的に私を殺しに行かせるように仕向けるまで、かれこれ…7年は費やした。
動きが鈍っている私の下顎を蹴り飛ばし、両腕を切断した。辺りには、私の鮮血が舞う。
「遺言なんて言わせない…もう2度、時間も与えない。何もさせるものか!!!」
この時だけは痛みや死ぬ恐怖よりも、感謝が勝る。よくぞ私でもドン引きレベルの試練の数々を5体満足で乗り切り、ここまで来てくれた。
「……あぁ。」
頭蓋骨を貫かれ、私は笑う。
ボンボヤージュ…また旅を始めよう。
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