第3話 俺って意外と偉いのか?

気がついたら、次の日の朝になっていた。


……まさか、気絶してたのか?


けど、昨日の感覚――ちゃんと覚えてる。

あのとき身体の中心から走った「流れ」、あれは間違いなく魔力だった。


もしこの「流れ」が視える能力がなかったら、魔力の存在なんて何年も気づけなかっただろうな。

普通の子どもなら、たぶん5歳くらいで「魔法」という概念を知って、そこから数年かけて魔力を自覚する……みたいな流れになるんじゃないか?


そう考えると――

0歳の時点で魔力の存在に気づいた俺、めっちゃ有利じゃね?


いや、これ、わりとチート寄りの能力なんじゃないか?


このアドバンテージは、無駄にしちゃいけない。


……にしても、なんで気絶したんだ?

魔力量が足りなかったのか?

赤ちゃんの身体で、3時間も集中しすぎたせいか?


……わからん。


でも一つ言えるのは――

このチャンス、絶対活かしてやる。


とりあえず――

いまの状況を、頭の中で整理しておくことにした。


まず俺自身についてだが……名前はルースというらしい。

パパンとママンが俺を抱き上げるときに、そう呼んでた。

貴族っぽい家だから、たぶん家名もあるはずだけど、まだ聞いたことはない。


そして、これまでに俺がこの目で確認した人たちは以下の通り。


パパン


ママン


おばちゃん(たぶんミシェル)


メイドさん(たぶん“ミル”)


庭のじーさん


兄らしき子ども


姉らしき子ども


――の7人。


たぶん、まだ他にも使用人とかいるんだろうけど、赤ちゃんの俺の社会圏は狭い。


パパン(たぶんティル)

ヴァランド家の当主。

名前は“ティル”っぽいけど、愛称かもしれない。

体格は引き締まってて、筋肉ムキムキというよりスレンダータイプ。

性格は……たぶん温厚。

でも、一度だけ仕事中のパパンを見たことがあるんだ。

そのときの雰囲気――マジでカッコよかった。


ただし、ママンには完全に尻に敷かれている。


ママン(エミリー)

パパンの奥さんで、名前はエミリー。

この人……たぶん魔法が得意だと思う。

だって、日常的に身体から魔力の“流れ”が漏れてるのが視える。

性格は優しいし、使用人にもよく気を配ってる。

しかも、めっさ美人。

胸も、まあまあでかい。

ごはんをもらってるときに、ぼーっとそんなこと考えてたら――

なぜかドヤ顔してた。人の心を読める疑惑、浮上。


あと、パパンを尻に敷いてる。


おばちゃん(ミシェル)

謎多き人物。

性別?年齢?性格?よくわからん。


でも、たぶん俺が生まれたときに使われた緑の光の魔法は、この人の仕業。

実力者っぽい雰囲気あり。


と、そんな感じで頭の中で情報をまとめていたら――


ガチャ。


部屋のドアが、ゆっくり開いた。


「ルース!起きてる〜?」


姉らしき子どもが、勢いよく部屋に入ってきた。


「……あぅ!」


「やっぱり起きてた〜っ!かっわぁいい〜〜!!」


「こーら、アミ。ルースがびっくりしちゃうでしょ」


どうやらこの姉っぽい子、アミって名前らしい。


「ルースはびっくりしないよね〜?ねぇ〜ルース!」


「……うぃっ」


返事をしてみた。


「ほら!!ルースもそう言ってる!」


「まあ確かに……ルースってあんまり泣かないし、大丈夫なのかしらね」


「ルース〜、名前呼んでみて! ほら、あ・み!」


「あ・う?」


「ちがうよ〜! あ・み!!」


「あ・う!」


「む〜……アミなのに〜〜〜」


……お姉様よ。

まだ赤ちゃんの俺には「み」は発音できないのだ。すまんよ。


「ほらアミ、もうルースはお昼寝の時間だよ」


「む〜……わかったぁ。じゃあ、お昼寝終わったら読み聞かせしていい?」


「はいはい。ルースが嫌じゃなかったらね」


「は〜い! ルースは嫌じゃないよね〜?」


「うい!」


「よかった! じゃあ――おやすみ〜!」


二人とも、部屋から出ていった。


……と、同時に――睡魔がドッと襲ってくる。

赤ちゃんの俺に、それに抗えるはずもなく――静かに、眠りについた。


...

......

.........

ん〜……よく寝た。

たぶん、3時間くらいかな?


そう思っていると、部屋の扉が開いた。


「やっぱりルース起きてる〜! 私の感が『起きた!』って言ってたのよね〜!」


ドヤァ…と胸を張る姉上。

いや、普通に怖いけど。


「うい!」


「絵本を持ってきたよ〜! えっとね、『ゆうしゃミルフのぼうけん!』って本!」


「あぅあう!(おお、面白そう!)」


「読むねっ!」


むかしむかし、まだ王さまもおしろもなかったころ――

まものが うようよいる、こわ〜い せかいが ありました。


そこに、ひとりの つよ〜い勇者が いました。

そのなまえは――ミルフ!


ミルフは おおきなけんを かついで、

まものを バッタバッタと たおします!


火をふくドラゴンも、

まほうを つかう まじょも、

みんな やっつけちゃいました。


すると、人びとは いいました。


「ミルフさま! わたしたちを まもってください!」


ゆうしゃミルフは かんがえました。

「みんなの ために、国を つくろう!」


そうして できた国が――

のちにパルギア王国と よばれるように なりました。


ミルフは、そのしょだいおおさまになり、

自分のもとに あつまった つよい人たちに、**“くらい”**を あたえました。


その くらいは――


こうしゃく


こうしゃく


はくしゃく


ししゃく


だんしゃく


……として、いまも この国に のこっています。


おしまい おしまい。


ん〜?


お姉様、この絵本……ただの冒険話じゃなくて、

国の創世記を、子ども向けにまとめた教育絵本なんじゃないか?


……ありがたい。すごくありがたい。


俺はすかさず、「貴族のくらい」のところを指さした。


「どーしたの?ここが気になるの? えっとね、公爵さまはものすご〜く偉い人! 王さまの次に偉いんだって!」


「……あう?」


「で、侯爵さまは……えっと……偉い人?」


あやふやかよ。


「なにか、やってる……って先生が言ってたけど、忘れちゃった〜」


うん、まあ……子どもだしな。


「でも! 伯爵はわかるよ! うちの家が伯爵家だから!」


「あうう?!」


えっ、それ先に言ってよ!!



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流視の魔眼で生き延びる ムンムンなおのこ @shusei271

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