第15話

「げほっごほっ!」


 衝撃で息が出来ずに倒れてからようやく息が出来た…。

 僕今どうなってる。なんか凄い攻撃が来たのだけは覚えてるんだけど…。


 魔力残量を見ると【7%】。まだ戦えるけど5%に減ってしまったら危険水域として強制的に敗北になるから攻撃が掠っただけでも終わり。

 これは流石にもう負けたなとお尻をついて諦めているとそこにオーウェンが近づいて来た。


「惜しかったなぁ…少しヒヤッとしたぞ。」

「……さっさと終わらせろよ。」


 オーウェンは今度は本当に勝ちを確信して油断している。とは言ってももう僕の方はこれ以上戦えるだけの魔力も余力も残ってない。

 それを分かっているから斧も引きずっているのだろう。


「なんだ?別に俺がトドメ刺さなくてもお前の方から『降参』って言えばいいじゃんか。…ほら、言って見ろよ。」

「…ッ!」


 クソッ!相変わらず性格の悪い奴だ!僕がそんな事言えないって分かっててやってる!多分、言葉で心を折って二度と逆らえないようにしようとしてる…っ!


「実際お前よく頑張ったぞ?あいつらが負けた時は油断しやがってと思ってたが俺の攻撃は止めるわ、かなり魔力も削られたし。今までのお前と思っていれば負けるぐらいにはな。」

「本気だった癖に上からよく言うな…。」

「…本気?俺が?…あぁ、ダハハハ!確かに負けたらメンツに関わるから気にしてはいた。……だけど俺の本気がこの程度と思うなよ?お前は普通に負けたんじゃない、手加減した俺に負けたんだよ。」


 オーウェンが馬鹿にするように僕を嘲笑い、信じられない事実を告げてきた。

 だけどそんな訳無い。最初から今まで見せた事無かったジェットパーツまで使って本気で戦ってたはずだ!


 僕はその衝動からとにかく立ち上がろうと必死に脚を動かす。しかし中々上手くいかずに何度も砂で脚を滑らせながらもフラフラと何とか立ち上がった。

 けれどこんな脚じゃ魔力がいくらあろうがもう勝つことは無理だろう。


「うぅ…嘘だ!魔力だって今そんなに無い癖に!」


 僕はとにかく吠えた。この目の前で僕を馬鹿にするために本当は危なかったのに実は余裕だったという嘘を暴くために。


「あぁ。確かに無いぞ?教えてやろうか、今の俺の魔力の残りは【21%】。最後の攻撃を食らってたらヤバかったかもな。でもそれがどうした?俺はわざと食らってたんだ。減った所で計算の内だ。」

「…わざと?」

「お前も戦闘中、心当たりあるだろ?」


 …無いと言えない。普段から大振りで反撃に遭いやすい戦い方だったりもあるけど、やっぱり一番大きいのは僕にわざと隙を作って攻撃を誘導してカウンターで自分も攻撃を返そうとしていたシーン…矛盾はしてない。

 確かにオーウェンは肉を切らせて骨を断つみたいな事をしていた。


 本当はわざとじゃないと言ってやりたいけど、結果こうしてボロボロになった今になっては嫌でも向こうの方が言っている事が正しいと考えてしまう。

                                                                                                                                                      

「お前がどんだけ攻撃しようがカスほどのダメージしかない。けどな俺の攻撃は当たればたった一撃で全部パーに出来んだよ。いちいち避けてやるのも面倒だろ。いい加減魔力が減ったから防御して大技釣ったりもしたけどな。」

「…ッ!あれも狙いだったのかッ!」


 オーウェンが言っているのは最後の攻撃。僕があれで勝ちを確信した瞬間に未見の技を食らった事によって今の状況になっている。

 …ああやってタコ殴りにされてたのもわざとだったのか?


 そう思っているとオーウェンは少し不機嫌そうな顔をしていた。


「…お前自分が特別だと思ってねぇか?」

「…?どういう意味だ。」

「もしかして本当にたった一週間で俺達より強くなったと思ってんの?なる訳ねぇだろ常識で考えて。あいつらに今日勝とうが次戦った時はまたお前は負けるんだよ!たまたま勝てていい気になってんじゃねぇぞ?」


 何も言い返せない…。だって僕は実際にオーウェン以外の二人相手にも油断している所を狙って不意打ちのような事をして勝ったから。

 もし次また戦えば僕はまた負ける。―――負けてしまうんだ…。


「うぅ…。」


 気付けば僕は悔しさで泣いてしまった。

 折角前に進めると思ったのに。あと少しだと思っていたのに今日が終わればまた明日からこいつらの言いなりの日々が始まると思うと悔しすぎて涙が止まらない。


「お、お前泣いてんの⁉ダッハッㇵッハ!止めとけよ試合中だぞ?ほら見ろよ、お前の泣いてる所、色んな奴に見られてるぞ?」

「っ!」


 少し見上げれば観客席にいる沢山の生徒の姿。

 そ、そうだ!今試合中で沢山見られてる。ぼ、僕が泣いてる所・・・っ!

 恥ずかしい!早く泣くの止めないのに…涙が止まらない。せめて腕で泣いてる所を隠さないと!


「ぐずっ…うぐぅっ…」

「もう分かったろ足掻いても無駄だって。分かったら次から大人しく勝つだけしとけ?な?」

「…なんでこんな事するんだよぉ!順位上げたいなら上の奴と戦えばいいだろ!」

「お前はまだ知らないんだよ。俺も入学当初、自信満々だったがすぐに気付いた…この学園の奴らはバケモンばっかだ。いちいち相手にしてたらキリがねぇ。だったら勝てる奴に勝ってゆっくり上げた方がいいだろ?」

「ようは…逃げたんだろ。強い奴から。」

「…ッ!俺は逃げてねぇッ!」


 僕の深くは考えていなかった言葉が相当効いたのか。オーウェンは額に欠陥が浮き出るほど怒りを露わにしてそのはけ口に斧を一度地面へと叩きつけた。

 大きな砂埃が舞い落ち、オーウェンは息を大きく荒げたが次第に落ち着きを取り戻した。


「去年は他の先輩達のせいで餌が少なかったが3年になって、もう200も順位を上げてる!俺は間違ってねぇ!……なんで俺がお前なんかにムキにならなきゃいけないんだよ、もういいわ。…どうせお前も3年になったら同じ事するぞ。」

「僕は絶対にしない。」


 いつかこいつらから逃れてちゃんと全うに学園生活を送って見せる。

 オーウェンは自分が負けるのが嫌で逃げたんだ。負けるぐらいなら順位よりも絶対に勝てる相手を選んでポイントを吸い取る。

 …そんな事して何の意味があるんだ。僕はクシェルとも約束したんだ『逃げない』って。


 思えば僕が以前まで乗っていたカッコいい魔導機装も言い訳のつもりだったのかもしれない。あんな使えない二刀流もそうだし。

 負けてもしょうがない理由を自分で作って本気を出せばお前らなんてと思って…でもそれはもうしない。

 何よりも一週間で僕なんかを一瞬でもあいつらに勝てるまで練習に付き合ってくれた師匠クシェルのためにも、もう最初のように泣きつく姿は見せたくないから。


「あっそ。……あぁそうそう。あの技工科の奴も締めとかないとなぁ?あのでっかい声上げてた奴だろ?聞いてるぜ?」

「おい!クシェルは関係無いだろ!」

「……へぇ、クシェルって言うのか。」

「あっ!」


 そうだ…。こいつらは僕が技工科の1年生と練習してるって話を聞いてるだけで名前までは知らなかったんじゃないか?

 だとしたら僕はまんまとオーウェンに情報を提供した事になる…なんで僕はこんな…ごめん…。


 僕は自分がしてしまった事に心底嫌悪感を抱いて、顔から熱が引いていくのを感じる。


「俺のグループが1年に二人も負かされたなんて他の奴に舐められてお前みたいに生意気な態度取って来るかもしれないからな。見せしめって大事だろ?」

「技工科だぞ!」

「それこそ関係無ぇだろ。現にお前の魔導機装を強くして面倒臭いぐらい生意気にしたんだからな。まぁ安心しろよ。生徒会の目があるからお前みたいにちょっと意地悪するだけだよ…。分かってんだろ?」


 オーウェンは一方の口端を上げ眉も一方だけを上にして誰が見ても性格が悪い顔をした。


 オーウェンのやり方は知っている。やり過ぎると生徒会から呼び出され良くて叱責。悪ければ罰則が渡されるため、オーウェンはあの取り巻きのプロイロとマオニを連れてこっそり僕のようなターゲットを囲うように影のある所に連れ込んで軽く圧を掛けたり暴行を加えて大人しくさせる。


 だけどそれは一回じゃない。僕が言う事を聞いても聞かなくても絶対に反抗出来ないように傷が目立たない程度に毎日痛めつけて言う事を聞かせようとしてくる。とても悪質だ。だけど生徒会のような学園の風紀を守っている人達は咎める事は出来ても未然に防ぐ事は出来ない。


 オーウェンはそうやってひっそりと生徒会の人達が糾弾できないような状況で活動していた。…それをクシェルにもやろうって言うのか?それだけは許さない。許してなるものか!


「ク、クシェルに何かしたら許さないぞ!」

「お前…ククw。いちいち笑わせんなよ。許さないって…wどうやんの?今やった方がいいんじゃないのか?ほら、俺はこうして無防備だぞ?その折れた剣で来なよ。」


 斧を手放し両手を広げて無防備をアピールしてくる。


 魔力も無ければ攻撃するための武器も無い。僕にはもう何も反撃する手段が無いと思ってるんだろう⁉だったら見せてやるよ。本当はこんな物に頼りたくないけどクシェルが僕に関わってせいで傷つくぐらいなら過去ぐらい乗り越えてやる!


「…ん?何してんだ?」


 僕はカチャカチャと右手の魔導機装のパーツを外していく。もし外す前に邪魔をされたらお終いだ。なるべく急いで外さないと…!


「なんか策でもあんのか…さっさと終わらせとくか。」


 オーウェンが斧を持ってジェットパーツで跳んで近づいて来る。

 そのまま腕がようやく半分脱げた段階の、壁際に立っている僕を狙おうと範囲の広い横攻撃をした。

 斧が壁に刺さるがそこに僕はいなかった。


 狙いが大雑把で斧の位置が僕の首辺りだったため、僕はそれをしゃがんで避けたのだ。試合中何度も見たし、あのジェットパーツを使って回転しながらの攻撃と比べれば避けるのは容易い。


 そしてようやく右のアームパーツが外れるとその下の包帯を解いた。

 その下にある手の甲には僕が忌み嫌う紋章が刻まれている。


「はああああ!」


 久しぶりだから出来るかどうかは分からなかったけど身体が覚えていた。

 力を手の甲に集中させると手の甲の紋章が光り輝く。その紋章の腕に僕の手を乗せ頭にイメージを浮かべながら動かすと、光は僕の動かす手によって伸び始める。


 僕がイメージしたのは普段使っている剣…。

 光はそのイメージ通りに形作られ、傍から見ればまるで手の甲から光で出来た剣が柄の部分から出てきたように見えるだろう。


 そしてある程度出すと、後は一気に引き抜いた。


「なんだ…それ。」


 オーウェンが僕の左手に握っている光で出来た剣に驚いている。

 ただ僕はそれを答える前に右利きなので右手に移し替えないといけない。


「見ての通り僕は魔術師の家系だ。」

「いや、それも驚いてるけど…どうやって出してるんだよそれ!お前もう魔力無いだろ!」


 普通ならそうだ。

 オーウェンの言っている通り、魔術とは魔力を体内で別のエネルギーや物質に変換して発動する物。だけど僕は今の戦闘で魔力は僅かしか残っていない。正確には【7%】。

 もし他の魔術を使おうと思ったらほんのちょっと…砂粒程度の小さな炎を出すだけで試合が終わってしまうレベル。


 オーウェンが正確な数値を測っているかは分からないけど今までの経験もあるから僕の魔力がほんの僅かって事は分かっている。だからこの規模の魔術が行使出来ているのに驚いている。

 それは僕の魔術の特殊性にあった。だけどそれをわざわざ教えてやる必要は無い。


「受けろおおおおおお!!!」


 僕はしゃがんだ状態から立ち上がると同時にオーウェンの胴体へと左から右へ横に攻撃を繰り出した。

 攻撃後のオーウェンは急いで斧で僕の光の剣を防ごうとしたが、斧と剣がぶつかると同時にこの魔術の更なる異常性に気付いたようだ。


「ぐおっ…俺が押されてるだと⁉」


 オーウェンは跳ね返す気でいたようだけど魔術で作られた光の剣はその剣身から常に力を放っている。今の僕の非力さでもオーウェンのパワー相手に太刀打ち出来るほどにまで。


「どうなってんだよ⁉こんな出力の魔術をどうやって出してんだッ!」

「教えないし悪いけどこの魔術を僕は一秒でも長く見たくないんだ!終わらせるッ!」


 ジリジリと僕の方が競り勝ってきた。あと数秒の内に相手の斧ごと斬れる。


「い、いやだあああああ!俺は強いんだ!お前がどんな才能持った所で負けるかあああああああああああ!!!」


 な、なんだこのオーウェンの気迫は…!言ってる事は子供のようだけど魂を揺さぶられるほど熱意が込められている。

 この負けたくないという気持ちは……大嫌いだったけど立派だと思う。だけどそれはもっと前を向くべきだったんだ。


「これで…終わりだあああッッ!」


 オーウェンの腕が限界を迎えて力が抜け、そのまま剣の力に任せてただただ無心でガードごと振り抜いた。


 光の剣に当たったオーウェンの身体は後方へと吹き飛び、地面に着地して3M近く地面を這いずると動きを停止。その後、僕が今日一番聞きたかったアナウンスが流れる。


『勝者 1年生レント・ヴィクエル』

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