第27話 揺れる心、一人ぼっちの男の子
一夜明け、村を修復する班と討伐に行く班が入れ替わり、モールドたちは村の修復をすることになった。
三人は村に運ばれた物資を各地に運んでいる。
ガヴは持ち前の筋肉で楽々と物を担ぎ上げ、マーリンは魔法で物を宙に浮かせて運んでいる。
モールドはというと、ガヴと同じようにはいかず、ヒーヒー言いながら運んでいた。
今にもつぶれてしまいそうだ。
「大丈夫か?あんまり無理すんなよ」
「だい……じょうぶ…」
明らかに大丈夫そうじゃないが、ここは温かい目で見守っておこう。
モールドはよろよろになりながらも指定の位置まで運びきった。
荷物を地面に置いた瞬間、その場に座り込んでしまった。
もう動けそうになさそうだ。
「だから無理するなって言ったろ。その辺で休んでろ」
「え、でも…」
「動けなかったら意味ないだろ。早く休んで、早く動けるようになってくれ」
「…わかった。そうする」
モールドはゆらゆらと近くにあるベンチに向かい、座り込んだ。
かなり無理していたようだ。
よく頑張ったな。
モールドは景色を眺めつつ、息を整えている。
俺も一緒に村全体を見てみる。
村の子どもたちが作業している人の間を縫いながら追いかけっこしている。
ボロボロになり精気を失いかけていた村は、子どもたちの活気のある声おかげで明るさを保っているみたいだ。
無邪気な子どもは微笑ましくていいな。
走り回る子どもたちを目で追いかけていると、離れたところに子どもが一人、ブランコに乗っているのが見えた。
その子も俺らと同じく追いかけっこしている子を見ていた。
モールドはその子のことが気になるようだ。
ついには立ち上がり、ゆっくりその子に近づいていった。
「こんにちは!なにしてるの?」
モールドは優しく微笑み、話しかけた。
「こんにちは…なにってブランコだけど。お兄さん誰?」
「僕は騎士養成学校ルートから来たモールドだよ。君は?」
「僕はリド。僕に何か用?」
「用ってほどでもないけど、みんなと遊ばないのかなって思って」
モールドの問いかけにリドの頭は静かに下を向いた。
「別にいいじゃん。一人で遊んでも」
「だけど、みんなで遊んだほうが楽しいよ」
「そんなの…わかってるよ」
不意に吹いた風がリドの目に溜まった涙を揺らす。
「でも、最近来た僕なんかを入れてくれるわけないよ」
震えた声でそうつぶやいた。
「大丈夫だよ。きっと仲間に入れてくれるよ」
「そうかなぁ…」
「不安だったら、僕も一緒に行くよ」
「え、でも…」
「さあ!早く行こ!」
モールドはリドの手を強引に引き、追いかけっこをしている子どもたちの元へ駆け寄った。
「おーい!僕たちも混ぜてよ!」
大きく手を振りながら大声で呼びかけた。
その声の大きさに子どもだけでなく周りの大人も振り向いていた。
「うん!いいよ!」
「お兄ちゃんも遊んでくれるの?あそぼあそぼ!」
子どもたちがモールドの周りに集まってくる。
村の外から来たこともあり、次々に質問が飛んでくる。
一躍子どもたちの人気者になった。
「君も一緒に遊ぶの?」
一人の女の子がモールドの後ろに隠れていたリドに声をかけた。
「この子も一緒に遊びたいって。だからこの子も一緒でもいい?」
リドは不安そうにモールドの陰から顔を出す。
「君、ずっと一人で遊んでた子だよね?なーんだ、遊びたかったら早く言ってくれればよかったのに!一人が好きな子なんだって思ってたから声かけにくかったんだ。早く行こ!」
子どもたちが二人の手を引き、走って行く。
今度はボールを使って遊びだした。
さっきよりも大きな笑い声が響き渡る。
リドも晴れ渡るようないい笑顔になった。
「おーい!いつまで遊んでんだ!そろそろこっち手伝ってくれ!」
ガヴがモールドに向かって叫んでいる。
気が付けばあっという間に時間が過ぎていた。
「えー!もう行っちゃうの?」
子どもたちが残念そうにモールドを見つめている。
「ごめんね。僕も仕事があるから、また今度ね」
「そっか…わかった。また遊ぼうね!」
モールドはみんなと別れのハイタッチをして回り、最期にリドの前にしゃがみ込む。
「リドもこれでみんなと仲良くできるよね?」
「うん!でも、なんで僕を助けてくれたの?」
「うーん…僕もよくリドと同じ気持ちになるからかな。一人じゃ何もできなくて怖い時、背中を押してくれる誰かが居てくれたらなんでもできるでしょ?だから、僕がリドの背中を押してあげようと思ったんだ」
「そうなんだ。ありがとう!」
「どういたしまして。みんなと仲良くするんだよ」
モールドは最後のハイタッチを済ませると、作業をしているガヴの元へ走って行った。
「ったく、遊ぶ元気があるならこっち手伝えよな」
「へへっ、ごめん」
モールドが照れながら頭を掻いていると、一人の村人が慌てた様子で走ってきた。
「みんな!大変だ!村の入り口に怪我した生徒が!」
なんだと⁉
急いで村の入口に向かう。
作業をしてたやつらもなにもかも放り投げ、走って行く。
正門の下にはすでにパスヴァルがいた。
そして傷ついた生徒たちも。
一チーム丸ごとやられている。
みんな血を流し、気絶している。
どうやら帰還石で帰ってきたようだ。
「しっかりしろ。大丈夫か?」
パスヴァルの呼びかけに一人の生徒が目を覚ました。
「大きな…猪が……」
絞り切った声でパスヴァルにそう伝えた。
「安心しろ。もう大丈夫だ。この子たちを街まで連れて行く。誰か手を貸してくれ」
パスヴァルは村人の手を借り、子どもたちを街のほうへ運んで行った。
残された生徒たちはただ茫然とその場に立ち尽くしていた。
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