第26話 みんなを守れ!幽霊の戦い方

森を進むごとに猪と出くわす。


それでもてこずることなく次々と倒していく。


三人のチームワークがいい。


それぞれがそれぞれを補っている。


みんなの相性がいいんだろうが、そうなるようにチームを組ませたパスヴァルの目利きが優れているように感じる。


「ふぃーっ!結構やったな。暗くなってきたし、そろそろ帰るか」


森に入ってかなり時間が経った。


森の中ということもあり、暗くなるのが早い。


頃合いを見て三人は帰路についた。


今回でかなりの数の猪に出くわした。


村の人が困るわけだ。


あれだけ前線で戦ったのにもかかわらず、ガヴは元気にモールドに話しかけていた。


その元気さにモールドはあまりついていけていないように苦笑いしている。


む?


なにやら後方から気配を感じる。


それもかなりの数だ。


「マーリン、まずいぞ。大量の敵が来てる。恐らく猪だ」


「ええ、わかってる。前の二人は気づいていないみたいだけど。早く教えた方がよさそうね」


「いや、ちょっと待て。教えたところで三人でもあの数は手に負えないだろう」


「じゃあどうするの?」


「安心しろ。ここは俺に任せとけ」


「それはそれで心配なんだけど。あなた、戦えないでしょ」


「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ。それに、ちょっと試したいことがあるんだ」


そう話していると、猪たちが草むらの中から顔を出した。


一、二、三…全部で十匹だ。


これはまた大量だな。


猪たちは興奮し、地面をえぐれるくらい蹴っている。


「上等だ。かかってこい!」


剣を構えると一匹の猪がまっすぐ俺に向かってくる。


お前が最初の実験台だ。


逆に俺のほうから向かっていき、一刀両断。


すると猪は奇声を上げながらその場でジタバタとのたうち回った。


もちろん出血もなければ傷すらもついていない。


やっぱりそうか。


ロットの剣を受け止めようとした時も、モールドと一緒に猪を押し返した時も、攻撃が当たったわけではないが何かを感じ取っていた。


霊感か魔力的ななにかかは知らんが。


どっちにしろこの現状を見るに、俺の攻撃を受けた当人たちは実際にそれが起こったように感じているようだ。


要するに、俺は戦うことができるということだ。


そうとわかれば話は早い。


こっちはずっと見ているだけで退屈だったんだ。


今日からは思う存分暴れてやる!


「さあどうした?遠慮せずまとめてかかって来いよ!」


苦しんでいる猪を見て驚いているようだったが、今度は一気に九匹まとめて飛びかかってきた。


襲い掛かってくる猪たちを次々に切り伏せていく。


当たった感じがないのがやりにくいが、こんなの造作もない。


体当たりしに来た猪は俺の体をすり抜けていく。


パワーに自信があるんだろうが、こっちは幽霊だ。


力が抜けていく感覚はあるが、マハウスと戦った時と比べたら塵みたいなもんだ。


ダメージを受けるのもそれ以来だからどんな感じかと思ったが、物理攻撃だとこんなもんか。


そんなことを考えている間にも一匹、また一匹と切っていく。


そしてあっという間に全員切ってしまった。


切った猪はその場で気絶している。


大したことなかったな。


剣を納めたところで、モールドたちが駆け寄ってきた。


「マーリン!大丈夫?怪我は?」


「一体どういうことだ?これ全部やったのか?」


「えっと、それは…」


マーリンがちらっと俺のほうを見た。


「なんかうまいことごまかしといてくれ」


マーリンはめんどくさそうにしながらも眉をひそめ、言い訳を考えている。


「あー、そう、私の魔法で全部やっつけたわ」


「すごいね!マーリンってそんなに強かったんだ。どんな魔法を使ったの?」


「それは秘密よ。このこともほかの人に言わないでほしいわ」


「そうなんだ。わかったよ」


「ごめんなさい。こっちの事情を押し付けて」


「気にすんな。そんな細かいことを気にするような男はここにはいねえよ」


「もう。それはガヴが適当なだけでしょ」


「なんてこと言うんだ。とにかく、やってくれてありがとな。それじゃ、遅くならないうちに早く帰ろうぜ」


二人はなにもなかったかのように先に歩いていった。


その後ろ姿を俺たちはゆっくりと追いかける。


「ねえ、何で私にごまかすように言ったの?初めて会った時、家族と話せるようにしてほしいとか言ってたじゃない」


マーリンは二人から聞こえないように距離を取りつつ、俺に聞いてきた。


「あの時はそうだったが、気が変わったんだ。モールドは俺が生きていると信じてくれている。ここで会うということはそれを裏切ることになりかねん。会わない限り、モールドたちにとって生きている可能性を残してやれるんだ」


「ほんとにそれでいいの?それが優しさだとしたら、違う気もするけど」


「正直俺もよくわからない。だが、今じゃないことは確かだ。いきなり言っても受け入れきれんだろう」


「確かに。再会のうれしさよりも死んでしまったショックのほうが大きいかもね」


「逆にマーリンはなぜ伝えようとしてくれたんだ?俺のことを教えるってことは特殊な魔法についても教えることにもなるだろ?マーリンはその魔法について知られることを嫌がってたじゃないか」


「あの二人ならほかの人に言いふらすなんてことはしないと思ったからよ。モールドは私たち以外に話す相手なんていないだろうし、ガヴは魔法のことなんてわからないだろうしね」


「なんかさらっと二人をばかにしなかったか?」


「そう?私は正当な評価をしただけだけど」


本人はそう言ってるが、それなりに信用はしているんだろう。


「おーい、マーリン。あんまり離れるなよ!」


後ろを気にかけたガヴが足を止めて待ってくれている。


「まあ、その時が来たら、私も力になるから」


会話を終えるとマーリンは二人の元へ駆け出して行った。

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