第4話 戦え!俺には死ねないわけがある!
見えた。
あれが敵の基地か。
草木に隠れてじっくり観察してみる。
建造物も丈夫で物資も豊富にある。
しばらくの間、ここを本拠地として使うつもりだろう。
入口に見張りが二人。
中には三十人くらいか?
思ったよりだいぶ少ないな。
それに対し、こっちは約二百人。
この差なら勝てなくはないだろう。
まずはあの二人を倒し、中に突入する。
そして俺は幹部とやらを探し出し、そいつを倒す。
「よし、準備はいいか?行くぞ!」
部下に合図を出し、武器を構えさせる。
その時、正面から冷たい空気が吹き荒れた。
辺りの草木が大きく揺れる。
背筋が凍る。
寒いから?
いや、違う。
すさまじい気配を感じる。
再び木の陰から慎重にのぞき込むと、そこには一人の魔族が堂々と立っていた。
「隠れても無駄だ。そこにいるのはわかっている」
俺たちに向かって言っている。
圧倒的な威圧感。
その場にいる誰もが動き出すことがなかった。
反応の無さにうんざりしたのか、一つため息をつき、おもむろに剣を背中の方まで振りかぶった。
「まずい、伏せろ!」
後ろに控えていた軍にそう命じ、がむしゃらに木の陰から飛び出す。
すぐさま振られた剣を受け止める。
耳をつんざくような鉄のぶつかる音と共にすさまじい衝撃が後方にまで広がる。
その衝撃は生えていた木々を切り捨てていく。
なんだこの力は。
今まで戦ってきた魔族はこんなもんじゃなかったぞ。
「俺らも行くぞ!アルさんに続け!」
勇ましい咆哮を上げながら、軍のみんなが一斉に突撃した。
その様子を見ても基地にいた魔族すらも取り乱すことはなかった。
なぜだ?
この人数差で攻められているんだぞ?
そんな疑問もすぐに晴らされた。
魔族は俺のことを軽くあしらうと、群れの中に入っていった。
たった一人で。
まぎれたネズミを仕留めるべく、一斉に攻撃を仕掛けた。
が、そんなのものともせず、縦横無尽に軍の中を駆けていく。
飛び交う怒号、死力を尽くした強力な魔法、止まない剣の嵐、すべて切り捨てて。
辺り一帯は炎で包まれ、すでに血の海。
目の前に広がる真っ赤な世界。
まさに地獄。
さっきまでの勇敢な声は悲痛な叫びへと変わり、もはや立ち向かうものなどいなかった。
「やめろーっ!」
たまらず地獄の番人と化した魔族の前に体を乗り出す。
「もういいだろ。みんな戦意なんてない。殺す必要ないだろ」
「なに甘えたことを言ってるんだ。命を賭けてここまで来たんだろ。俺の力にひれ伏した時点で賭けたものの清算しないと筋が通らないだろ」
冷たい目が俺をじっと睨みつける。
こいつらに情なんてものを期待した俺がばかだった。
誰だって戦いたくてここにきてるわけじゃない。
家族を養うために仕方なくこの仕事をやってるやつだっているんだ。
絶対に殺させたりはしない。
「だったら俺は賭けたままだ。早くゲームを始めようぜ」
「お前は逃げないのか?」
「俺は元からお前を倒すために来たんだ。殺されるつもりなんかねえよ」
俺は手加減なしで全力で剣を振る。
だが、軽やかな身のこなしで避けられる。
どれだけ攻撃しても当たらない。
「おい、ふざけてるのか?それとも、手を出すまでもないってか?」
「気を悪くさせたか?俺もまだこの力に慣れてなくてな。お前の体は魔王様が欲しているから、力を暴走させて傷をつけるわけにはいかない。それに、すぐに終わらせてはもったいないだろ」
「心配するな。俺はそんなにやわじゃないぞ。遠慮せずにかかって来いよ」
「まあそれなりに慣れてきたところだ。少しは楽しませてくれよ」
今度は魔族のほうから攻撃を仕掛けた。
剣と剣がぶつかり合う。
さっき受け止めた時よりもパワーが上がっている。
くそっ、まるで二、三人同時に攻撃をしてるみたいだ。
「さっきまでの威勢はどうした?まだまだ物足りないぞ」
早すぎて反撃の隙が無い。
どれだけ受け流そうにも骨の髄まで衝撃が伝わってくる。
このままではだめだ。
大きく攻撃を逸らし、距離をとる。
体中から大量の汗がこぼれてくる。
いや、汗じゃない。
いつの間に傷をつけられたんだ?
わからない。
空気が欲しい。
ガードしているだけなのにこれだ。
身を震わせる力の差。
体が、本能が、勝てないことを悟らせようとしてくる。
逃げるか?
いや、こんなやつ、野放しにできない。
それに、そう簡単に逃がしてはくれないだろう。
覚悟を決め、再び剣を構える。
「降参するんじゃなかったのか?」
「そう簡単に負けてたまるか。俺が負けるのは死んだときだけだ」
これ以上は体がもたない。
この一撃で決めなければ。
重い体に鞭を撃ち、飛び出して行く。
「
目の前まで距離を詰め、攻撃する瞬間に後ろに回り込む。
隙だらけの背中に向かって一刺し。
「な…いない⁉」
突き出した剣は空を刺し、魔族の姿はどこにもなかった。
「これがやりたかったのか?」
その言葉と同時に背中に激痛が走る。
膝から崩れ落ちる。
口から息の代わりに血が噴き出る。
「急所は外したが、もはや動けまい。おい、こいつをとらえろ」
しっかりしろ、ここで負けるわけにはいかない。
立ち上がるんだ。
…ダメだ、体が言うことを聞かない。
ここまでか。
そう思った時、胸のところが小さく光り輝くものが目に入った。
モールドから貰ったペンダントだ。
そうだ。
俺には破るわけにはいかない約束があるんだ。
魂を燃え上がらせ、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。
「なんだ?まだやるのか?」
「ああ…生憎俺は帰りを待つ息子がいるんだ。こんなところで…負けるわけには…」
一歩前に出すも、体が言うことを聞かず、剣を杖にして立ってるのがやっとだ。
「その状態で勝てるとでも思うのか?」
魔族が俺のことをあざ笑う。
「まだ…わからないだろ…」
かすんだ目で魔族のことを睨む。
その目の端に白い光が入ってくる。
さっきのペンダントの光が強くなってる。
「なんだあれは?まさか…させるか!」
なにかに感づいた魔族がペンダントに剣を突き刺さした。
その衝撃が、俺の胸にまで轟いてくる。
後ろに倒れる瞬間、光が全身を包み込み、目の前が真っ白になった。
なぜか周りが静かだ。
目を開けると、そこに魔族の姿はなく、燃え盛る炎も、共に戦った仲間の姿もなかった。
俺は真っ暗で冷たい森の中にいた。
モールドのやつ、ペンダントに何か仕込んでいたのか。
俺は助かったようだ。
だが、出血がひどい。
背中に開いた大きな穴はもはや塞ぎようがない。
瞼が重い。
ダメだ…
モールドとの約束をこうもあっさりと破るわけにはいかないんだ!
頑張って……目を………開け……ろ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます