第22話 騎士の目覚め!アルの憧れた姿

「うーん。はっ!……ちがうな」


月明かりとろうそくの薄がりの中、俺は置かれた人形に向かって剣を振っていた。


「いい加減にしてくれ。研究の邪魔なんだが」


ここはマハウスの館の本がたくさんある部屋。


俺たちとマハウスが初めて会った場所だ。


「何で俺だけなんだ。あいつはどうなんだ?」


椅子に座って優雅に本を読んでいるマーリンを指さす。


「嬢ちゃんはあんたよりずっとおとなしいじゃないか。それに、わしとこの場所を守ってくれたんだ。追い出す義理はない。でもあんたは違うだろ。なんでまたこんなところでやるんだ」


マハウスは口をとがらせながら文句を言ってくる。


どれだけ邪魔されたくないんだ。


「まあまあ、そんな硬いこと言うなよ。ここだったらすぐにヒントを聞けるだろ。それに、しばらく話し相手がいなくてつまらなかったんだ。ちょっとくらいつきあってくれよ」


「わかったよ。同じ幽霊のよしみだ。少しくらい付き合ってやろう」


「へへっ、そうこなきゃな!」


作業しているマハウスの手を止めさせることに成功した。


話が通じる相手がこの二人以外いないもんだから毎日暇を持て余している。


こういう時しか話すことがないのだ。


悪霊になりたくなる気持ちもわからなくもない。


「それで、あれから練習はうまくいってるのか?」


「それが、あんまりでな。剣で触れる間隔は掴めそうってくらいだ。確実にものに干渉することはできてない」


「まだそんななのか?大した剣士バカだな」


「だからこうして魔法バカのところに来たんだろ。なにかコツとかないのか?」


「そう言われてもなあ。わしにとって魔法を使うのは当たり前だからな。こんな簡単なこと教える方が難しいぞ。あんたも赤ん坊に歩き方を教えようとしても難しいだろ」


うーむ、そう言われればそうか。


ゼロのものを一にするのは難しいというが、そういうことなのかもしれない。


「じゃあ初めて魔法を使った時のこと教えてくれよ」


「何年前の話だと思ってるんだ。そんな昔の事、忘れてしまったわ」


「そうか。マーリンはどうだ?」


マーリンに声をかけると本に集中してたのか一瞬の間が開いて反応した。


俺たちの会話を風の音かなんかだと思ってるのか。


「私は物心ついたときから魔法を使っていたからわからないわ」


「なんなんだお前ら、天才魔法使いか?実力はあるのに、こんなに頼りようのないのか」


「褒めるのかけなすのかどっちかにしてくれ。反応に困る。そもそもわしらは人に教えるようなつもりで魔法をやっておらん。あんたも人に教えるつもりで剣の練習をしておらんだろ」


確かに思い返してみれば、うまく言葉にできなくてモールドに剣を教えるのも苦労したな。


教えるというのも、一種の才能なんだろう。


「逆にアルは初めて剣を持った時のこと覚えてるの?」


「俺か?」


俺に話が降られるとは思わなかった。


初めて剣を持った時か。


俺は頭にある子ども時代の引き出しを開ける。




俺は小さいころ、かっこいいものにあこがれていた。


そんな俺の身近にあるかっこいいものは騎士の姿をした父さんだった。


身にまとった剣や鎧、戦い抜いた勇ましさ、すべてにあこがれていた。


だから俺は剣を教えてくれと何度も駄々をこねたが、父さんは決まってこう言った。


「この時代に剣は必要ない。誰も傷つける必要はない」と。


その頃は魔族のことなんて話題に上がらないほど平和で、騎士の仕事と言えば人の住処に不要に近づいてきたモンスターを狩ったり、治安を守ったりするくらいだった。


だから俺は一人で練習を始めた。


かっこいい剣の振り方、かっこいい技をあれこれ試した。


だが、戦いに勝つという欲は満たされないままだった。


そんなある日、事件が起きた。


その日の父さんはやけに慌ただしくしていた。


街の近くに魔族が出没したらしい。


父さんは俺と母さんを心配させまいと平然を装っていたが、部屋を行ったり来たりしていてあからさまに焦っていた。


いざ、出撃する時に父さんは言った。


「俺に何かあったら、お前が家族を守るんだ。騎士になりたいなら、何があっても守り抜け」


今まで見たことのない父さんの険しい顔ですべてを悟った。


騎士であるということの意味を。


結果として魔族は倒され街自体に被害はなかったが、多くの騎士が犠牲になった。


その中に、俺の父さんがいた。


そこから俺は本格的に騎士としての道を歩むことになった。


父さんの言いつけを守るため、父さんの未練を果たすために。




「アルにしては意外とまじめな理由ね」


「感動しすぎてハンカチ欲しくなっただろ」


「別にいらないわ」


「じゃあ代わりにわしにくれないか」


お菓子をつまみながら話を聞いていたマーリンと打って変わってマハウスはボロボロに号泣していた。


逆にそこまで泣かれると気まずいんだが。


「そんな話はいいんだよ。とにかく、コツは教えてもらえないんだな」


「どのみちコツなんか聞いてもわからないでしょ。この前もどうしようもなくなって剣の力でなんとかしようとしてたのに」


「それもそうだな。俺くらいになると剣の力だけでどうにでもできるからな!」


俺はどんな困難でもこの力で乗り越えてきたのだ。


この道を貫いて新しい力を目覚めさせてやる。


モールドみたいにな。

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