第19話 モールドの剣技!強いのはどっちだ
あれはモールドが六歳のころ、剣を教え始めてしばらくたったころの話。
「うぅ……ひっぐ……」
モールドは草で出来た練習用の剣を地面に落とし、座り込んで泣きじゃくっている。
「おいおい、そんなに泣くなよ…」
人と戦うことを教えるために何度も俺と手合わせしてきた、いや、しようとしたが、このように毎回剣を構えるたびに泣いてしまう。
初心者だから怖いのはわかるが、そろそろ慣れてほしいもんだ。
「なんでそう毎回泣くんだ?」
「だってお父さんの目、怖いよ…」
えっ、俺のせいなのか?
確かに剣を持つとちょっと熱くなるところはあるが、そこまで怖い顔してるのか?
「悪かったよ。じゃあ俺は剣を持たないから、それでもう一度やってみよう!」
「でも、僕が攻撃すると痛いでしょ?それだと嫌だよ」
「確かに痛いが、俺は痛いのは慣れてるから大丈夫だ。それとも、やっぱり剣を持った方がいいか?」
「それじゃあお父さん、いつ攻撃してくるかわからないよ。僕も痛いのは嫌だよ」
「戦う以上、誰かしらはけがをする。そんなこと言ってたら、立派な騎士になられないぞ」
「そんなぁ……」
モールドの言いたいことはわかるが、騎士たるもの、守るべきもののためには戦わなければいけない時が来る。
あまり自分の息子に厳しいことは言いたくないんだが、そんなに甘くはないんだよな。
どうしたものか…。
「やっぱり、僕は騎士なんてならない方が…」
誰しも物事には得意不得意がある。
モールドにとって騎士になることは運悪く不得意なことだった。
進みやすい道に切り替えるのもいいかもしれない。
だが、こんな簡単に自分の夢をあきらめてほしくはない。
それで後悔して欲しくない。
「よし、わかった!だったら、誰も傷つけない方法を教えてやろう」
「えっ?そんなのがあるの?」
「まあな。と言っても、やり方を変えるだけだ」
「どうするの?」
「それはな、守ることだ!」
「守る?」
「そうだ。騎士というのは守るのが仕事だ。守るべきものを守るために戦ってるんだ。逆に言うと、守るべきものを守れたら、戦う必要はない。つまり、戦闘になっても攻撃をすべて防ぎ、危機を退けることができれば、騎士としてやっていけるということだ」
「ほんと?」
「だが、これをやるには、体力と忍耐力、観察力に技術……とにかく普通よりたくさん練習が必要だぞ」
「わかった。僕、頑張ってみるよ」
「よし、それじゃあさっそく特訓だ!俺の攻撃を受け止めてみろ!」
「ええっ⁉いきなり言われても、できないよう…!」
なんてことがあって、俺がモールドを防御特化に仕上げたんだ。
「果たして、俺が教えた最強のガードをあいつが破れるかな」
「なんで楽しそうにしてるのよ」
「久しぶりに息子の戦いを見れるからな。どれだけ成長しているのか楽しみなんだ」
気づけば顔が変ににやけてしまっていた。
モールドの活躍をやっとこの目で見れるんだ。
ロットはモールドを睨んだまま肩で息をしている。
あの様子だとしばらく攻めてこないだろう。
「これで僕が弱くないって証明できたでしょ。もうやめようよ」
モールドが剣の横から顔を覗かせ、優しい声でそう訴えた。
「たったこれしきで勝ったつもりでいるのか?」
モールドを睨んだまま口角が上がっていき、大笑いした。
「甘えたこと言うな。勝負がつくのはどちらかが動けなくなるか負けを認めた時だ。俺はまだピンピンしている。戦闘不能にしない限り、俺は止まらないぜ」
「だったら僕もまだ負けてなんかない。だからもういいでしょ?」
「だが勝ってすらいない。この俺を戦闘不能にしない限り、お前は勝つことができない弱者のままだ。そうだろ?殻にこもったままで、どうやって勝つ気だ」
そう、この戦い方には弱点がある。
そこをロットは見抜いていた。
モールドは何も言い返さず、下唇をかんでいる。
モールドもそのことをしっかり理解しているから、痛いところを突かれて動揺しているようだ。
「このままだとお前が勝ったことにはならない。勝てないならお前は弱いことに変わりない。だったら、大好きな父親が最強だということも証明できなくなるなあ」
さらに舐めた口調でさらにモールドを煽る。
「なにもしないなら、俺に勝つチャンスが回ってくるだけだ!」
ロットはスタミナ切れを起こしたとは思えないほどの勢いで再びモールドに猛攻を仕掛けた。
今のモールドならどうってことない攻撃のはずなのにモールドの足が少しずつ後退している。
「どうした?お前が攻撃しないと、勝つチャンスは来ねえぞ!」
煽りながら連撃を続けていたロットがなぜか一瞬動きを止めた。
ここぞとばかりにモールドが剣を振り上げる。
「ダメだモールド!止まれ!」
そんな言葉が届くはずもなく、モールドは剣を振り下ろした。
これを待っていたかのようにロットはにやりと笑った。
「
ロットはモールドの攻撃に合わせ、モールドの手から剣を弾き飛ばした。
してやられた。
あれだけ煽っていたのも、動きを止めたのも、このためだろう。
丸腰になったモールドを蹴り倒し、モールドの横に歩み寄った。
「お前は弱い。その剣技を教えた父親も弱い。弱いから死んだ。なにもかも証明できちまったな」
ロットはモールドを見下し、鼻で笑った。
そして、必死に起き上がろうとするモールドを足で抑えた。
「あの世でもっと剣技を教えてもらうんだな」
ロットは剣を天高く振り上げた。
周りからざわめく声が聞こえる。
「アル!あれまずいんじゃないの?」
マーリンがそう声をかけた時にはすでに体が動いていた。
「はあっ!」
剣を手に取り、振り下ろされる剣に対し、思い切り振り上げる。
剣をとらえた感触はあったが、それは一瞬でガラスのように貫かれた。
ただ、ロットは攻撃の手を止め、後ずさった。
「そこまでだ」
それと同時にパスヴァルがロットの腕を掴んだ。
「これはやりすぎだ。少し頭を冷やせ」
ロットはなにが起こったかわからなそうに目を丸くしていたが、パスヴァルの手を振り払い、訓練場から出て行った。
「モールド、けがはないか?」
パスヴァルは静まり返る訓練場の真ん中で倒れているモールドに手を伸ばす。
モールドはその手を取らずに起き上がると、そのまま走って訓練場から出て行った。
その頬から何か光るものが落ちていった。
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