強くなるには

第16話 辿り着け!初の遠征訓練

今回、生徒たちが校庭の真ん中に集められていた。


生徒たちのざわめきが収まらない。


それもそのはず。


目の前にはいくつもの魔法陣が並んでいたのだから。


しばらくするとパスヴァルがみんなの前に立ち、大きく咳払いをしてざわめきを止めた。


「これより、遠征訓練を始める。といっても今回が初めてだから、飛ばされたところから帰ってくるだけの簡単な訓練だ。先日知らせたチームで協力し、日没までに校門の内側に入ればクリアだ。もし間に合わなければ、これから配るこの帰還石が自然と割れ、ここに飛ばされる。身の危険を感じれば自分で割って帰ってくることも可能だ。きみたちはまだ若い。自分の命優先でためらわずに使え。いいな?」


みんな一斉に元気よく返事をした。


パスヴァルが一人一人に彫刻の刻まれた石を配っていく。


「よし、準備が出来次第チームで一つの魔法陣に入れ。でははじめ!」


合図とともにそれぞれ動き出した。


勢いよく魔法陣に飛び込むチーム、緊張した面持ちで入っていくチーム、既に個性が見えて面白い。


チームは三人で遠距離派と近距離派のバランスが取れた編成になっている。


モールドのチームはガヴ、マーリンだ。


「俺たちも行くか。二人ともよろしくな」


「よろしく!」


「よろしくね」


三人が魔法陣に入ると光に包まれ、消えていった。


よし、俺も行くぞ!


三人が入った魔法陣に入ると、同じように光に包まれた。


光が収まるとそこは開けた丘の上だった。


「あそこが王都か?意外と近いな」


王都は距離こそあるが、すぐに見つけられる場所にあった。


その手前には大きな森が広がっていた。


「まるでピクニックだな。こんなもの早く終わらせようぜ」


早速、王都に向けて歩き出す。


モールドとガヴは横並びで雑談しながら歩いている。


その後ろ、少し離れたところをマーリンが歩きながら俺のほうをチラチラ見てきた。


「なんであんたがついてくるのよ」


あからさまに不満げな表情で俺に話しかけてきた。


「息子の成長を見届けるためだ。邪魔はしないから安心してくれ」


あまり納得はしてなさそうだが、何事もなかったかのように二人のもとに歩いて行った。


「ガヴの武器はハンマーなんだね」


「そうだ。いいだろ」


ガヴは意気揚々と背負っている大きなハンマーを見せびらかした。


そのハンマーにはいろんな装飾がされてあり、きらびやかだった。


「どうしてハンマーなの?」


「うちが鍛冶屋だからな。職業柄よく使ってたから手になじむんだ」


ガヴはその場で試しに振り回して見せた。


慣れた手つきで軽々しく、自由自在に扱っていた。


「これでガツンと一発だ!」


「すごいね!僕じゃそんなに力強く振れないよ」


そんなたわいもない話をしながら、丘の上から見えた森の中に入っていった。


このあたりの森は強いモンスターはいないが、遠征において森は遭難する確率が高いから注意が必要だ。


このチームでは、マーリンが空に飛んで王都の方向を確認していた。


「魔法が使えるなんてすごいね。どうやってるの?」


モールドがマーリンに興味津々に聞いた。


「基本的な魔法ならだれでもできるわよ。こんなやつとか」


マーリンは試しに木に向かって魔力弾を撃った。


モールドも見よう見まねで手を木に向けたが、どれだけ力を込めても何も起こらなかった。


「うーん…やっぱりできないや」


「掌に力を集中させてそれを撃ち出すイメージでやってみるといいわ」


もう一度モールドが力を込めると小さな球がゆらゆらと飛び出した。


「おおっ!なんか出てきたぞ!すごいじゃないか」


「はあ…はあ…結構難しいね」


「この短時間で出せるようになるのはすごいことよ」


「そうなのかな」


モールドは掌を見つめ、首をかしげた。


「そんなことより先に進むわよ」


「そうだな。いくら簡単とはいえ、日が暮れたら意味がない」


引き続き三人は森を突き進んでいく。


マーリンがたびたび確認し、モールドが剣で道を切り開いていく。


しばらく進んでいくと、通り道に大きな木がいくつも倒れ、道をふさいでいた。


「これは遠回りするしかないね」


「でもこの辺りは草木が多くて時間がかかるわよ」


「よし、ここは俺に任せとけ」


ガヴは倒木の前に立つと持ち前のハンマーを構えた。


大きく振りかぶり、木に向かって思い切り打ち込んだ。


すると倒木は勢いよく吹き飛んでいき、森のどこかで地鳴りが響いた。


そのままの勢いで目の前にある倒木を次々と飛ばしていき、道を切り開いていった。


「これでどうだ!」


「ガヴってそんなに力もちなんだ」


あれだけ大きなものを一撃で吹き飛ばすとは、さすがはハンマーを扱うだけある。


「やるじゃない。王都まではもうすぐよ」


先を見ると光が強くなっている。


その光の門をくぐると王都は目前だった。


「着いたー!」


ちょうど空が赤くにじんできた頃、モールドたちは校門の中に入ることができた。


「よくやった。後は部屋で休むといい。今回のレポートも忘れずにな」


校門で待っていたパスヴァルに名前の確認をし、無事に訓練をクリアした。


「僕たち、いいチームだったね」


「どうかしら。ただ歩いてきただけだから、相性なんてわからないでしょ」


「そんな冷たいこと言うなよ。これからもこのチームでやってくんだから」


最後まで三人は仲よさそうに寮に戻っていった。

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