第15話 突き進め!俺は俺のやり方で

校内を徘徊していると、早速モールドの姿を発見した。


どうやら図書室に用があるようだ。


一通り本棚を物色した後、一つの本に手を伸ばした。


高いところにある本で、モールドが必死に手を伸ばしていたが、ギリギリ届いていな い。


よし、ここは俺が。


モールドが取りたがっている本に手を伸ばす。


本をとらえるように強く意識して…。


指先が本に触れる、と思いきやすうっとすり抜けてしまった。


これでもダメなのか。


ふっ!はっ!


いろいろ試したが、指に引っかかる感触はない。


「よう、モールド。何してんだ?」


もたもたしていると、モールドの元にこの前食堂で友達になったガヴがやってきた。


「この本読みたいんだけど、取れなくて…」


「だったら俺が取ってやるよ」


ガヴはモールドが取りたがってた本をひょいと掴んでモールドに渡した。


「ありがとう!」


「これくらいどうってことないさ。そうだ、これから買い出しに行くんだが、一緒に行くか?」


「えっ!いいの?」


「もちろんだ。一人で行ってもつまらねえしな」


「だったら早く行こう!」


「おい、そんなに急ぐなよ」


モールドは本を抱えたまま、嬉しそうに図書室を出て行った。


その後をガヴが急ぎ足で追いかける。


さらにその後を俺がついていく。


この構図はなんか滑稽に見える。


あくまで俺視点の話だが。


校庭に出ると授業や自主練だろうか、いろんな生徒が剣を振り、魔法を放つ姿がある。


「そういえば何の本を借りたんだ?」


「これはいろんな剣技が載ってる本だよ」


「そんなもの借りなくても授業で教えてくれるだろ」


「そうだろうけど、自分でもいろいろやってみたくて。僕、みんなより弱いからその分なんとかしないと」


「勉強熱心だな。でもあんま無理するなよ」


入学初日からいろいろあったが、それでもくじけずにモールドなりに頑張ろうとしているようだ。


さすが我が息子、たいしたものだ。


校庭を歩く二人の背中を風が力強く押していく。


…なんか妙に強くなってきてないか?


「危ないぞ!早く逃げろ!」


突然、慌てた声が聞こえた。


声のするほうを見ると、校庭のど真ん中に巨大な竜巻がそびえ立っていた。


その竜巻に巻き込まれたいろんなものが、モールドたちに向かって降り注いだ。


「まずい、早く逃げるぞ!」


ガヴが咄嗟に走り出そうとした。


「モールド、なにやってるんだ!早く行くぞ!」


声をかけても反応がない。


もうそこまで瓦礫がきている。


このままでは直撃してしまう。


何とか守らなければ!


モールドの前に立ちはだかる。


こんなもの、俺だったら止められる。


さあ来い!


飛んできたものに対し、大きく剣を振る。


確かに剣は瓦礫に当たった。


だが瓦礫は傷一つつかず、体をすり抜けていく。


まずい!モールド!


振り返った瞬間、間一髪のところでガヴがモールドを抱え、横にダイブするように避けた。


「おい、大丈夫か⁉」


「ああ…うん、大丈夫。ありがとう」


良かった、目立った傷もないみたいだ。


気づけば竜巻も消えていた。


竜巻のあった方から先生らしき人がこっちに走ってきた。


「二人とも大丈夫か?すまないな、生徒に魔法を教えていたんだが暴走してしまってな。けがはないか?」


「何とか大丈夫です」


二人は先生とけがの状態を確認した後、本来の予定通り買い出しに向かった。


またしても俺は何もできなかった。


なんの手ごたえもなかった。


この方法じゃだめだ。


そう思った俺は、それから夜の暇な時間に校庭で剣を振り続けた。


毎晩毎晩。何度も何度も。




「見つけた。やっぱりあなたなのね」


とある晩、剣を振っている俺にマーリンが近づいてきた。


「どうしたんだ?こんな夜更けに」


「最近生徒の間で『校庭に騎士の幽霊が出た』って噂になってるのよ。それでもしやって思って見に来たの」


「実体化はしてないはずだが、ほかに俺のことが見えるやつがいるのか?」


「夜は物や空気の動きが穏やかだから魔力が見えやすくなってるの。そうなると見える人は見えるようになるの。というか、あなたは何をやってるの?剣なんか鍛えても意味ないじゃない」


「そうかもな。だが、俺はどうもこの魔力だけの体は合わないみたいだ。俺は剣を振っているときだけ実体化できるが、実体のあるものに触れるのはまだまだだ。だから、俺は生前からずっとやっていた方法で鍛え、いざという時に備える。誰が何と言おうと、俺は俺のやり方でやらせてもらう」


「また無茶な考えを…やるのは勝手だけど、場所は変えてちょうだいね」


マーリンは大きなため息をついた。


「そうだな。どこかいい場所をを探そう」


確かに何でも透ける体で物理攻撃を極めるのは無茶な判断だろう。


だが、俺は剣技をやっている間は剣を当てることができる。


魔力を操れない俺にとってはこれしかない。


誰が何と言おうと、俺は俺の道を行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る