第18話 激突!モールドとロット
訓練場から威勢のいい声と共に剣のぶつかり合う音が鳴り響いている。
モールドの相手はモールドに対して異様に嫌悪感を抱いているあの男の子だ。
「なんでこいつなんかと…」
男の子の口から一言こぼれた。
ほかのペアはすでに練習を始めているのにここだけ向かい合ったまま動いていない。
二人の間に不穏な空気が漂っている。
「ねえ、練習始めないの?」
モールドが声をかけてもそっぽを向いたままだ。
「先生も見てるんだし、早くやらないと怒られるよ。君もそんなの嫌でしょ」
男の子が横目で先生のほうを見ると、目が合ったのかパスヴァルが大きく咳払いをした。
その様子に男の子は気だるげにモールドと剣をぶつけだした。
だが、ほかの生徒とは比べ物にならないくらい間抜けな音しかしない。
「まじめにやらないと練習にならないよ」
「お前なんかとまじめにやったって大した練習にはならないだろ」
その態度にモールドは困り果てていた。
「君にとってはそうかもしれないけど、学校はみんなが強くなるように協力するところでしょ」
「なんだよ。文句ばっかり言いやがって」
「君がちゃんとやってくれないからだよ」
「あと、その君って呼び方もやめろよ」
「だって君の名前まだ聞いてないんだもん」
「ロットだ。二度と舐めたような呼び方で呼ぶな」
二人の間の空気が変にピリつき始めた。
そんな中、パスヴァルが全体に向けて声を出した。
「すまない、みんな。ちょっと呼び出しがあってな。ちょっとこの場を離れるが、それぞれ練習は続けてくれ」
そう言い残し、訓練場を出て行った。
「ほら、先生もいなくなったしもういいだろ」
「ダメだよ、ちゃんと練習しないと」
「どうでもいいだろ。お前と練習を続けてなんになるってんだ」
「そういう問題じゃないよ」
「俺は強くなるためにここにいるんだ。お前なんかに使ってる時間はねえよ」
「なんでそんなに僕を嫌ってるの?前から思ってたんだけど、僕、何か悪いことした?」
「お前の父親に聞いてみるんだな。まあその話も二度と聞けないだろうけどな」
そう言ってモールドをあざ笑った。
「それってどういう…」
「お前の弱くて何もできない父親は野垂れ死んで帰ってこねえって言ったんだよ!」
「なっ…」
モールドが拳を強く握った。
ロットの暴言がモールドに突き刺さったようだ。
「なんでそんなこと言うの?お父さんが死んだかどうかなんてわかんないじゃん!」
「ふん、三年も姿見せなかったら死んだも当然だろ。どうせそこらの魔族に切り刻まれて獣に食われてるんだろうよ」
ロットのやつ、ずいぶん勝手なことを言って煽ってやがる。
まさにその通りだが。
「そ、そんなはずない!お父さんは生きてる!絶対帰ってくるって約束したんだ!お父さんは…最強なんだから!」
「最強だぁ?」
ロットの眉間が引き締まる。
「村一つ守れないで何が最強だ。お前がそんなに弱いのに、その父親が最強なわけないだろ!」
「確かに僕は弱いけど、お父さんは本当に強いんだから!」
「じゃあお前がそれを証明してみろよ!」
ロットの怒りが頂点に達し、ついにモールドに向かって剣を振り下ろした。
とっさにモールドが剣でガードし、強烈な音が訓練場に響いた。
二人の力が拮抗し、つばぜり合いが起こる。
ロットは止められると思わなかったのか、一瞬驚いていたが、すぐに怒りに満ちた顔に戻った。
モールドも珍しく気合の入った目をしている。
にらみ合いの末、ロットが力任せに突き離し、猛攻を仕掛ける。
モールドはその攻撃をしっかりと見極め、丁寧にさばいていく。
そのたびに甲高く澄んだ音が訓練場に広がる。
「ちょっと、何があったの?」
離れたところで練習していたはずのマーリンが俺のところまで来て話しかけてきた。
いつの間にかほかのやつらも異変に気付いて周りに集まってきた。
「あの二人が言い合いになった後、あんなふうに戦いだしてな」
「そんなのんきにしてていいの?このままじゃ危険よ」
「俺にはどうすることもできないからな。まあ、俺が生きていたところで、止めはしないだろう」
「どうして?」
「息子が頑張って立ち向かっているのに、それを止めるのは違うだろう。それに、モールドならきっと大丈夫だ」
「心配じゃないの?」
「そりゃあ心配に決まってる。だが、過保護になりすぎてもあいつは成長しない。時には信じて任せるのも親としての務めだろう。あいつはこの最強の騎士様が教えたんだ。きっと大丈夫さ!」
腕を組み、二人の喧嘩を見届ける。
マーリンはあまり顔には出していないが、少し不安げな様子で見ている。
周りのみんなも勢いと気迫に押され、見ているしかできないようだった。
こうしている間にも、ロットの猛攻が続いている。
「くそっ、何でこんなやつに全部防がれるんだ!」
スタミナが切れたのか、攻撃の手を止め、モールドの様子を見ながら悔しそうに叫んだ。
モールドは押されているように見えて、一歩も引いていなかった。
「なんで…今まで戦いは全然だったのに」
「ああ。あいつは気弱で戦いには向いていない。だから俺はあることを極めるように言った」
「あること?」
「そうだ。騎士としての最大の役目、『守る』ことをな!」
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