第12話 見つけ出せ!幽霊の技
街が眠りにつき、月と星々が空で踊っている。
暖かくなってきたとはいえ、まだ冷たい夜風が赤子を撫でるように肌に触れていく。
まあ、幽霊の俺にはにも感じないが。
そんな感じがするという話だ。
俺は今、すっかり人通りが無くなった街中を歩いている。
今日のモールドの様子を見て、いてもたってもいられなかったのだ。
幽霊になってしまい、手を貸すことも助言をしてやることも出来なくなってしまった今、幽霊としてできることを探していた。
例えば、触れずにものを動かすことだ。
生前、何度かアンデッドと戦ったことがあるが、幽霊のアンデットはよくこの技を使う。
あいつらがやってたんだから俺にもできるはずだ。
試しにそこらに落ちている小石に向かって念を飛ばす。
……やっぱりダメだ。
小さいくせにどっしりと構えている。
どんな敵よりも手強そうに見える。
ほかの技を試そう。
幽霊と言えば憑依だ。
人の中に入りこみ、人格を奪う技だ。
おっ、ちょうどいい所に酔いつぶれて道端で眠っているやつがいる。
ちょっと失礼して、そいつに体を重ねてみる。
……なんともないな。
今まで体をすり抜けた経験しかないから分からん。
後は魂を奪う攻撃だが、敵でもなんでもないやつに試すのはなぁ…
やったところでどうせ出来ないだろう。
そもそも幽霊の勝手がわからん。
せめて教えてくれるやつがいるといいが。
しかし、昼間はあれだけ賑わっているのに、夜は本当に静かだな。
まるで幽霊にでも出くわしそうな雰囲気だ。
実際俺という幽霊が出てきているけどな。
む?今あの曲がり角に人影が…
いや、人にしては透けすぎだ。
急いで後を追う。
あいつが幽霊なら、何か知っているかもしれない。
だが、角を曲がった頃にはもうあいつの姿はなかった。
どこに行ったんだ?
幽霊は消えることも可能なのか?
「なにしてるの?」
物音一つしないこの空間に静かな声がはっきりと響いた。
「マーリンじゃないか。お前こそなにしてるんだ」
「私はアンデッドの討伐依頼を受けたから、それをやりに行くところよ」
「そんなことしてるのか。子どもなのに凄いな」
「生活のためなら自分で稼がないといけないもの。それであなたはなにをしてたの?」
「ついさっきここで幽霊らしきものが通り過ぎていくのが見えてな。そいつに聞きたいことがあったが見失ったところだ」
「そいつはどっちに行ったの?」
「確かあっちだ」
俺は幽霊の向かった先を指さした。
「なるほど。ちょうど私もその方角に向かってたところなの。もしかするとあなたが見た幽霊は私の標的と同じかもしれないわ」
「ほんとか⁉だったら俺も連れてってくれ!」
「いいけど、邪魔はしないでよね」
マーリンの了承を得て依頼の現場についていった。
そこは街外れの古い館だった。
「いかにもいそうな感じだな」
「なにか聞きたいことがあるって言ってたけど、話が通じるかどうかはわからないわよ」
「どっちにしろなにかヒントを得られるかもしれん」
「そう。わからないけど、もしかしたらあなたもやられるかもしれないから気を付けてね」
玄関のドアノブを回すと甲高い音を立てながらゆっくりと開いた。
中は薄暗く、埃で白くなっているが、建物自体は傷んでいるところはなく綺麗だ。
迷いもなく先に進むマーリンの背中を追う。
三階のとある部屋の前で止まった。
「おそらくここにいる。準備はいい?」
「おう!なにかあったら俺に任せておけ」
マーリンが部屋のドアを開ける。
部屋の中には本の山がいくつもそびえ立ち、机の上に置かれた本がパラパラとめくれている。
「またわしの邪魔をする奴が現れたか」
「立ち去れ。さもなくば痛い目を見ることになるぞ」
老人の幽霊は杖を構え、臨戦体制をとっていた。
「ちょっと待て!俺の話を聞いてくれ!」
「黙れ!誰だろうと容赦はせん!」
老人は間髪入れずに魔法で俺たちを窓から外に吹き飛ばした。
三階の高さから重力に逆らえずに地面に叩きつけられる。
「大丈夫か⁉」
俺はともかく、生身のマーリンはただじゃすまない。
とっさにマーリンのほうを見る。
「ええ。これくらいなんともないわ」
マーリンは落ち着いた様子でふわりと着地していた。
そして追いかけるように老人も窓から飛び降り、同じようにふわりと降り立った。
その面持ちは貫禄があり、生前は手練れの魔法使いだったと感じさせる。
話は理解できているようだが聞く耳を持ってくれない。
一度戦って落ち着かせる方がよさそうだ。
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