第11話 新たな出会い!モールドの嘆き

「はぁ…」


食堂で席に着くなり、モールドは小さくため息をついた。


あの授業が終わってからというもの、明らかに周りから避けられるようになった。


モールドの実力は贔屓しても一番下だ。


といってもモールドと同じくらいの実力のやつはほかにもたくさんいた。


それでも、モールドについていたイメージと期待が幻滅へと導き、みんなから見放されてしまった。


そのせいで友達を作る機会すらも来なくなってしまった。


せっかくの学校生活というのに、これじゃ楽しむこともできない。


なんとかしてやりたいがこんな俺にできることなんかあるはずもなく、モールドの肩に手を置くことしかできなかった。


「おっ、ここ空いてんじゃん!」


そんな俺を払いのけるように誰かが俺の中を通り抜け、モールドの隣に座った。


後ろから見ても体格の良さがわかるその青年は席に座るなり、大盛りのご飯をがつがつと食べ始めた。


その様子にモールドも驚いている。


「…僕のこと気にならないの?」


「なんだ?俺は別に隣で知らんやつが飯を食ってても気にはならんぞ」


「そうじゃなくて、僕のこと知らないの?」


青年はモールドのことを首をかしげながら見つめる。


「んー、知らんな。有名人なのか?」


「なんかそうみたい」


「そうか。俺は遠くの町からここに来たからな。世間知らずですまんな」


「大丈夫だよ。むしろ知らなくていいというか…」


モールドははぐらかすように口ごもった。


青年はその様子を気にすることなく、ずっと口にものを運んでいた。


「食わないのか?ここの飯うまいのに」


「え?ああ、ちょっと考え事してて…」


がっつり食べている青年に比べ、モールドはまだ一口も食べていなかった。


「なんだ?俺で良かったら話は聞くぞ」


その言葉にモールドは戸惑っていたが、うつむいたまま口を開いた。


「僕、弱くて避けてるみたいなんだ」


「ここは学校なんだから多少弱くたっていいだろ。何か問題があるのか?」


「みんなの期待を裏切っているみたいで、申し訳ないなと思って」


「そんなの気にしなきゃいいだろ」


「そうなんだけど…」


言葉に詰まり、食器の音だけが鳴り響く。


「君は…」


「ガヴだ」


「あっ、僕はモールドだよ。えっと、ガヴはどうしてこの学校に入学したの?」


「俺は鍛冶師の家に生まれてそこの手伝いをしていたが、親父が『もっといろんな武器と人を見てこい。そいつらに見合う武器を見定められるようになるんだ』だとよ。それではるばる遠く離れた王都の学校に来たってわけだ。モールドは?」


「僕はお父さんみたいな騎士になるためだよ。ガヴは知らないみたいだけど、お父さんは強くて有名な騎士だったんだ。そんなお父さんにあこがれてこの学校に入学したんだけど、場違いだったみたい」


「それで、学校辞めるのか?」


「うーん…」


「すぐ答えられないならやりたいんだろ?少しでもその気があるうちにやっておかないと後悔するぞ」


それでもモールドは悩んでいるようで寡黙を貫いている。


「そんなに不安だったら俺がいてやるよ」


「ほんと⁉」


あんなに魂が抜けたみたいな顔だったのに急にプレゼントをもらった子どもみたいに目を輝かせている。


「ああ、こうして隣に座ったのも何かの縁だろ。これからよろしくな」


「うん!よろしく!」


「ほら、早く食わないと授業に遅れるぞ」


安心してお腹が減ったのか、さっきまで食べなかったのが嘘みたいに勢いよく食べ始めた。


一時はどうなるかと思ったが、いい友達ができてよかった。


まだまだ苦しいことはあるだろうが、共に成長して欲しいものだ。

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