騎士養成学校

第9話 新生活!騎士養成学校『ルート』

とうとう入学式の日がやってきた。


朝から学校の寮行きの馬車に荷物を積み込んでいる。


「もう行っちゃうのね。寂しくなっちゃうわ」


ネヴィは言葉ではこう言ってるが、誇らしげな顔をしていた。


「ごめんね。しばらく一人にさせちゃうけど、必ず騎士になって帰ってくるから」


「もちろん!そうでなくちゃ困るわ~」


ネヴィは手を口に当ててオホホと笑った。


期待と激励、そして私のことは心配するなという意味が込められているみたいな、温かな笑い声だった。


「それじゃあ、行ってくるね」


モールドは最後に笑顔を見せたが、馬車に乗り込む後姿には不安がにじみ出ていた。


その姿を見ているこっちが不安になる。


よし、ここは俺がついて行ってやるしかない!


普通ならいい迷惑だろうが、今の俺には関係ない。


出発しかけている馬車に向かって勢いよくジャンプ、華麗に着地。


しようと思ったら、馬車を体がすり抜けてずっこけてしまった。


……仕方ない、歩いていくか。


しばらくついていくと、この町で二番目に大きな建物が見えてきた。


あれが騎士養成学校『ルート』。


騎士養成学校と謳っているが、魔法使いや弓使いなどの戦闘技術も教えている。


いろんな戦える人材を強化し、増やす。


それがこの学校の意義だ。


魔族の活発化に伴って指導が厳しくなっていると聞いていたが、うまくやっていけるだろうか。


馬車が次々と入り口で止まり、真新しい制服を着た生徒が降りてくる。


その人だかりにモールドは混じっていた。


モールドを見失わないように急いで後を追う。


皆についていくと広い会場についた。


入学式でもやるのだろう。


これからの新生活に思いを馳せる若者であふれかえり、初々しい空気が流れている。


それにしても、みんな若いのに強そうなやつらばかりだな。


お?あれは…


「マーリン?マーリンじゃないか!」


大声で叫ぶと、マーリンはこちらに気づき、目が合った。


「アル?なぜこんなところにいるの?」


「俺は息子の成長を見届けに来たんだ。そういうお前はこんなところでなにしてるんだ?」


「ここにいる理由なんて一つしかないでしょ。私もここに入学するの」


「そうか。いや待てよ?マーリンは幽霊の魔法を知られたくないんだよな?ここは人も多いし、軍や国に関わるやつらもいる。こんなところにいて大丈夫か?」


「私の目的を果たすためにはここが一番都合がいいの。私が正式な魔法使いとして騎士団に入れば、魔族の情報を手に入れられるでしょ?そこからパパの情報を得られるかもしれない。それに、別に幽霊の魔法しか使えないわけじゃないわ。それでやり過ごすつもりだから大丈夫よ」


「ならいいんだが…。そうだ!ここで会ったのもなにかの縁だ。モールドと友達になってくれないか?」


「嫌よ。私は一人が好きなんだから。ほかの人に頼んで」


「俺がほかのやつらにどうやって頼むんだよ!」


「だったらおとなしく成り行きを見ていることね。それじゃ、そろそろ独り言をやめないと、周りから変な目で見られちゃうから」


そう言うと、マーリンは俺から離れていった。


そうか、みんなから見るとマーリンは独り言してるみたいになるのか。


せっかく話し相手がいると思ったんたが、あまり話しかけないようにするか。


モールドはいまだ不安そうにそわそわしている。


そんなモールドのもとに、一人の男の子が近づいてきた。


早速友達になってくれるやつが来たか?


「お前、モールドだな?最強の騎士と呼ばれていたアルの息子の」


「え?そ、そうだけど…」


話しかけてきた男の子は舐めまわすように鋭い目つきでモールドを観察している。


「こんなのがあいつの息子なのか?俺がこの手で最強の称号を奪ってやろうと思ったが、とんだ期待外れだ。戦う気も失せた。まあ、お前みたいなやつがあいつの息子にちょうどいいかもな」


一方的に語った後、どこかへ行ってしまった。


「な、なんだったんだ?」


いきなりのことで場の空気が一瞬凍った。


「あの人が有名なアルの息子?」


「ほんとうか?」


次第にその様子を見ていた人がひそひそと話し出した。


さすがに名前くらいは知れ渡っているな。


初日から有名人確定だな。


それにしてもこの学校に入学するだけあって血気盛んだな。


こういうやつに負けないように強くなってほしいもんだ。


そうしているうちに、会場の前に先生らしき人が立った。


「ゴホンッ!皆さん、まずは騎士養成学校『ルート』への入学おめでとう。私は君たちの担任を務めるパスヴァルだ。よろしく」


パスヴァルだって?


あいつのことはよく知っている。


俺と一緒に騎士をやっていた先輩だ。


パスヴァルも俺と肩を並べるくらい強かった。


かなり昔に年だと言って引退したが、俺と同じ年であれば最強と言われていたのは彼だろう。


そんな彼がモールドの担任をしてくれるのは心強い。


「わかっていると思うが近年魔族の活動が活発になっている。それに伴い、この学校での指導も厳しくやっている。きみたちが生半可な気持ちでこの場にいないことを願っている。立派な騎士を目指して頑張りたまえ」


相変わらず昔と変わらない頑固な挨拶だな。


彼の誠実さゆえのものだろうが。


それから学校内の説明などが終わるとその場で解散することになった。


その場で友達をつくる者、校内を見て回る者などがいたが、モールドは寮の自分の部屋に戻っていった。


いろいろあって疲れたんだろう。


ゆっくり休んで明日から頑張ってくれ。

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