第8話 将来の夢、モールドの思い

「ついに帰ってきたぞーっ!」


旅を初めて数日、懐かしの王都の前まで来た。


「ここまで連れてきてくれてほんとにありがとな」


「もうその言葉は聞き飽きた。それじゃ、ここでお別れね」


「王都にいる限り、またすぐに会うかもな」


「そうね。でももうしばらくは会わなくていいかも」


マーリンの顔は少し引きつっていた。


まだそんな気まずい関係だったか。


俺は少しでも楽しめるように武勇伝をずっと語ってただけだが。


「もう自分を見失わないでね」


「ああ。マーリンも元気でな!」


老若男女いろんな人が行きかう町の中にマーリンは溶け込んでいった。


さあ、俺も早く家族のもとに帰ろう。


しかし、三年とはいえ町もだいぶ変わってるな。


歩けば歩くほど知らない店が目に入ってくる。


うまそうな飯、見たことのない装備、気になる物ばかりだ。


いや、こんなものに気を取られちゃだめだ。


暇になったらまた来よう。


こんなに町が変わってたらモールドもかなり成長してるだろう。


子供の成長は早いからな。


背はもう俺ぐらいになってるだろうか。


ネヴィにも早く会いたい。


あいつの作った飯は格別だからな。


今となってはもう味わえないが。


いよいようちの前まで来た。


家族と会うのはうれしいことなのに何かが入るのを拒んでいる。


町に入ったときから違和感には気づいていた。


いつもなら帰ってきたら町のみんな出迎えてくれていた。


だが今回は違う。


町のみんなはすれ違っても見向きもしてくれない。


いままでマーリンが俺と普通に接してくれてたから見て見ぬふりをしていた。


これが現実だ。


俺が家に入っても俺が存在しない日常が流れる。


周りに誰がいようと、俺は一人だ。


なにを戸惑ってるんだ!


俺は必ず帰ると言ったんだ。


どんなことになろうとな!


手に力を入れ、ドアノブを握る。


あっ、そうだ。


触れられないんだった。


幽霊としての常識がよくわからんが、こういうのは通り抜けるのか?


そっとドアに腕を伸ばす。


すると俺の腕はドアに飲み込まれていった。


やっぱり、幽霊はすべてのものを通り抜けられるんだ。


そのまま体も中に入れ込んだ。


すうっと中に入ると、モールドとネヴィはなにやら荷物をまとめているようだ。


「みんな、ただいま!」


いつも通り挨拶してみる。


だが、やっぱりこちらに気づく様子はない。


覚悟してはいたが、心が締め付けられる。


手伝ってやることもできず、俺はこのまま黙って見守ることしかできない。


無力感と虚無感が俺を襲う。


しかし、二人とも何をやってるんだろうか?


引っ越しでもするのか?


「これでよし。お母さん、手伝ってくれてありがとう」


「いいのよ。それにしても、騎士養成学校『ルート』に入学するなんてね」


「お父さんみたいな騎士になるのが夢だったからね。そのためにはもっと学んで、強くならないと」


そうか、もうモールドは学校に入れる年なのか。


この荷物は寮に持っていくものなのだろう。


「でも、お父さんに教えてもらいたい気持ちもあるんだ。だけどお父さんはいつ帰ってくるかわからないし、何もしないまま待ってるのも嫌なんだ。だから学校に行って強くなって、お父さんを驚かせたいんだ」


「大変だと思うけど頑張ってね。応援してるわ」


まさか二人とも、俺が死んだと思っていないのか?


三年も帰ってないのに、みんな死んだと思っているのに…


自分が情けない。


この場にいて己の訃報さえも伝えることができない。


信じてくれてる家族を馬鹿にしてるみたいじゃないか。


「もし、騎士になることができたら、お父さんと一緒にお母さんも守るからね!」


「楽しみにしてるわね」


二人が笑いあう姿を見ることは待ち遠しいことだったのに切なく感じる。


この現実と共に俺は過ごしていかなければいけない。


だめだ、悲しみに暮れてる暇はないぞ、アル。


モールドはこんなに頑張っているんだ。


俺にもできることを早く見つけなければ。

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