第2話 緊急任務!息子を救出せよ!

街中はすでに大騒ぎ。


逃げ惑う人の流れをかき分け逆走していく。


妻の前では冷静を装っていたが、怒りで筋肉がこわばるのを感じた。


町の人を、俺の息子を傷つけるやつを許しておくものか!


風を押しのけ、もはや風と同化し走っていく。


あれだけにぎわっていた商店街に人はほとんどいなくなっていた。


代わりにあるのは倒れた衛兵、飛び散った無数の血痕。


商店街はすでにあちこちが半壊状態。


中央にはたたずむ一人の人影、そしてその前には座り込んだ人が。


あの後ろ姿は…もしや!


たたずむ人影は剣を高く振り上げ、目の前に座り込んだ人に振り下ろした!


「モーーーーールド!!!」


瞬時に距離を詰め、振り下ろされた剣をはじき、その腕を切り落とした。


「貴様、自分が何をしたかわかってるんだろうな!今すぐ切り捨ててやる!」


魔族は少しよろけながらも何事もなかったかのように剣を拾う。


この人間のようで人間味がない感じ、相変わらず不気味だ。


「やっと来たか。貴様を連れて行けば、俺の株が上がるってもんだ」


「三下風情が俺を連れて行くだと?舐められたものだな」


「そうか?ここまで侵入できたのも、こいつらが弱すぎたからだ。所詮貴様もこいつらと同じ人間だ」


魔族は近くに倒れた兵士の頭に足を置いた。


剣を握る手に力がこもる。


つくづくふざけた野郎だ。


「結果の分かりきった戦いをするのも面倒だ。そうだ、こいつを人質にすれば少しはおとなしくなるか?」


魔族の剣先がモールドの首筋を指した。


その瞬間、頭で何かがはじけた。


怒りに任せ、雷光一閃。


魔族の胴は見事に割かれ、地面に突っ伏した。


「な……なんだ?なにが起こった…?」


魔族の目が訳が分からなそうにきょろきょろと動いている。


断面からは血すらも流れていない。


魔族は上半身だけでも起き上がろうとしていた。


とどめを刺すべく、剣を頭に向ける。


「そんなだからいつまでも三下なんだ。敵の力量を見誤るとはな。息子に手を出そうとしたことを永遠に後悔してろ」


そう吐き捨て、頭に剣を突き刺した。


魔族の体は黒い塵となり、さらさらと消えていった。


その場に残ったのは地面に長く伸びた切込みの跡だけだった。


俺としたことが、少し力を入れすぎた。


まあ、倒せたから良しとするか。


剣を腰に収め、丸くなったモールドの前に座り込む。


「モールド、俺だ、お父さんだ」


「お父さん…うぅ…死ぬかと思った…」


涙で満タンになった瞳から涙が一つこぼれた。


今までずっと我慢してたんだろう。


「大丈夫だ。お前のことはたとえ死んでも守るって決めてるんだ」


優しく頭をなでてやるが、まだ震えたままだ。


「お父さんはけがしてない?大丈夫?」


「これくらい大したことはない。ほら、この通りだ!」


俺は強さの象徴の筋肉を見せつけるため、いくつかのマッスルポーズをとって見せた。


「ほらな!俺はこんなに元気だ!怖いやつらは俺が全部倒してやる!」


俺のふざけ具合を見て安心したのかモールドは笑顔を取り戻した。


「それより、その腕の中にいるのはなんだ?」


「あっ、これは…」


モールドの腕の中から五歳くらいの女の子がひょっこり顔を出した。


女の子の膝からは血が流れていた。


「まさか、この子を助けてたから逃げ遅れてたのか?」


「うん、逃げる途中でこけちゃったみたいで、ほっとけなくて…」


「そうか、よくやった!お前は優しいな」


息子の優しさに感動してつい頭を撫でまわす。


手を置く位置が少し高くなっている。


そんなに日を開けていないと思っていたが、こんなに成長するものなのか。


「やめてよ!もうそんな年じゃないんだから」


モールドは照れくさそうに手を振り払った。


それもそうか。


一緒にいた時間が短かったせいか、もう十二歳にもなるはずのモールドを子ども扱いしてしまう。


さすがに子ども扱いされるのは嫌がる年齢か。


「それよりも、早くこの子を手当てしてあげないと」


「そうだな。親も心配しているだろう。すまないが一人で大丈夫か?」


「うん、そうしてあげたいんだけど……」


モールドは少し恥ずかしそうに口ごもる。


「僕、腰が抜けちゃって、動けないんだ…」


一瞬、場が凍った。


顎が外れたかと思った。


そうだ、モールドは俺に似つかず気弱で臆病な性格だった。


俺はよくモールドに剣技を教えていた。


なかなかいい腕前を見せたが、俺との実践じゃ動けずじまいだった。


それでも頑張って勇敢に守り抜いたんだな。


「そ、そうか。まあ無理もないだろ。しばらく休んだらちゃんと送り届けてやるんだぞ」


「うん、わかった」


女の子のことはモールドに託し、俺は静かにその場を去った。


魔族に街に入られたとなれば一大事だ。


すぐに報告しなければ。

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