14話 初めての実戦は熊殺しで

「さて……わたくしの弁当を食べようとした罪は重いですわよ!」


 目の前に立ちはだかるのは、熊を思わせる巨大な体躯。鋭い爪をもった脚に、口にはこれまた巨大な牙。何でもかんでもデカけりゃいいってもんじゃないのですわ。


 というか条件反射でやってしまった裏拳のせいで顔が若干凹んでいますわね。完全に敵意がわたくしに向いていますわ。


 グオォォォォ! なんて吠えられていますし。


「完全にお前さんに敵意が向いておるぞ! 一撃でも貰ったら死ぬと思えぃ!」


「そんなの分かり切ってますわ!」


 完全に意識を目の前の魔獣に切り替える。まずは動きの観察ですわね……。


 四足でドカドカ突き進んでくる魔獣。動きはそこまで早くないですわね。


 続いて鋭い爪の振りかぶり。予備動作が長いから回避は楽ですが……パワーが尋常ではないですわね。空気の動きによって落ち葉が舞っていますわ。


 まだ猛攻は終わっていない。巨大な牙による噛みつき。まだ回避できる速度ですが、これを唐突にやられたら危ないでしょう。一番警戒するべきはこれでしょうね。


 ですが、顔を使っているのでその後の動き出しは遅い。攻撃に転じるならこれを避けた後でしょう。


 これで大体の攻撃パターンは分かりましたわね。ドカドカ突進に爪の振りかぶり、それに噛みつきの三パターン。


 基本はこれでいいでしょう。爪攻撃の後は連撃を警戒しつつ、他の攻撃の隙を殴る。この戦法でいきましょう。


 こちらが思考を整理している間にも、襲い掛かってくる魔獣。まあ魔獣にとってはこっちの事情なんて知ったこっちゃないですわよね!


 今度は突進。これが一番避けやすいのですけれど、地面が揺れるのだけは勘弁ですわ。うっかりバランス崩して被弾したら死にますもの。なので……。


「見てから飛んでおけば大丈夫ですわね!」


 突進の構えが見えたら飛ぶ。魔獣はこちらに向けて突進してくるので、垂直飛びをしておけば真下で隙を晒してくれますわ。


 さあ。今度はこちらのターンですわ。目の前で隙を晒したことを後悔するんですわね。


「ぬうん!!」


 まずは着地と同時に拳の叩きつけ。巨大な背中に強烈な一撃が入りましたわね。デカブツには攻撃が当てやすくて助かりますわ。


 グオォォォ!? と悲鳴にも聞こえる咆哮を上げる魔獣。


 まだまだ! こんなものじゃ終わりませんわよ!


 背後を取っているので攻撃を続けられる、そう踏んでいたのですが……。


「!?」


 後ろ足を引っ込めているのが目に入ったのです。


 これは……バックキックの構え? そうなるとマズイですわね。一度距離を取りましょう。


 その後、魔獣から放たれる強烈なバックキック。案の定でしたわね。警戒はしておくものですわ。しかしキックの威力も半端ないですわね。突風が吹いたかと思いましたわ。


 こちらに向き直り、再び怒りの雄叫びを上げる魔獣。まあここまでボコされたら魔獣でも腹立ちますわよね!


「ここからが本番、ですわね!」


 再びこちらに向けて突っ込んでくる魔獣。今回は爪攻撃ですわね。大きな振りかぶりが見えたので、慎重に回避する。そして、爪攻撃が来たということは……。


「噛みつき! ですわよね!」


 予想通り、爪攻撃からの噛みつき。そして噛みつきの後は……。


「隙だらけ! ですわ!」


 目の前に顔面を晒しておられるので、そのデカい牙を貰っておきますわ!


 渾身の一撃が魔獣の口元に撃ち込まれる。巨大な牙は折れ、歯も何本か折った感覚。これで一つ、武器を削ぎ落しましたわね。


 さすがに魔獣も怯んでいるようですので、畳み掛けるなら今ですわね!


「フンっ!」


 まずは再び顔面に壱撃いちげき。完全に歯を割りましたわね。


「セェイ!」


 弐撃にげき目。次はその脚を頂きますわ! 脚の骨を砕き、体制を崩す魔獣。完全に動きが止まりましたわね。


「ハぁッ!」


 参撃さんげき! がら空きとなった背中を破壊してやりましょう! 飛び込みからのかかと落としでフィニッシュですわ! 


 背骨を完全に砕ける音。それと同時に魔獣の断末魔が響き渡る。


 ふう。まあこんなところでしょう。


「なかなかに骨のある相手でしたわね。まあ、初めての実戦には丁度いいレベルでした」


「うむ! 見事な戦いぶりじゃった! 危険だと判断したら手を貸そうとも思っておったが、要らぬ心配だったわい」


「この程度でクチナシ様のお手を煩わせるようでは、あなたの顔に泥を塗ってしまいますわ。ところで……」


「こいつの死体、どうします? 一応ライムライト領で問題になっていた魔獣なので、討伐の証明はしておかねばならないのですけれど」


「こいつを持って帰るのというのなら、儂は手伝わんぞ。重そうじゃし」


わたくしだって嫌ですわよ、死体を持って帰るのなんて。重そうですし」


 しばらくこの魔獣の死体をどうするかを考えていると、日が暮れてきていた。


「ひとまず帰りましょうか。このまま話していても結論は出なさそうですし」


「そうじゃのう。まあ、帰ってから考えても遅くはないじゃろ」


 そうして、わたくしの初めての実戦は無傷の勝利で終わったのです。まあ一撃喰らったら死ぬ相手でしたので、無傷が絶対条件なのですけど。ピクニック帰りのようなテンション感で家に帰るわたくしたちなのでした。

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