予期せぬ発見

実用化研究が本格的に始まってから1ヶ月。研究所の雰囲気は、これまでにない活気に満ちていた。


「真理さん!」若手研究者の叫び声が、実験室に響く。「異常な波動パターンを検出しました!」

モニターには、通常とは明らかに異なる波形が表示されていた。


```

異常波動データ分析


1. 波形特性

- 基本周波数の多重化

- 非線形干渉パターン

- 量子的重ね合わせ状態


2. エネルギー分布

- 多重ピーク構造

- 準安定状態の形成

- 次元間共鳴現象


3. 時間発展

- 周期的な状態遷移

- コヒーレンス維持

- 自己安定化傾向


異常値:

- 波動強度:通常の3.14倍

- 位相整合性:多重構造

- 次元干渉度:想定外の高値

```


規則正しかったはずの次元波動が、突如として複雑な干渉パターンを示している。データは、これまでの理論では説明できない現象を示唆していた。

モニターには、通常とは明らかに異なる波形が表示されていた。規則正しかったはずの次元波動が、突如として複雑な干渉パターンを示している。


「これは…」真理は眉をひそめる。


アイリスが駆けつけてきた。「まるで、複数の波動が重なり合っているようですね」


「でも、発生源は一つのはず」ティムが計測データを確認する。「どういうことなんでしょう」


真理は、静かに目を閉じた。


「もしかしたら」


「何か思い当たることが?」アイリスが問いかける。


「次元の重ね合わせ」真理がゆっくりと言葉を紡ぐ。「私たちが観測している空間には、複数の次元が同時に存在している可能性があります」


研究室が静まり返る。


「それって」若手研究者の一人が声を震わせる。「理論的には…」


「はい」真理が頷く。「量子力学でいう重ね合わせ状態の、次元レベルでの現象かもしれません」


アイリスが興奮した様子で続ける。「だとすれば、古代の魔法使いたちが言及していた『次元の狭間』という概念も、科学的に説明できるかもしれません」


ティムが資料を広げる。「確かに、古代の文献には『狭間』での不思議な現象が記録されています」


「実用化どころか」真理が苦笑する。「もっと基礎的な部分に、私たちの理解が及んでいなかったということですね」


レオナルドが会議室に現れた。状況報告を受け、老魔導師は深い考えに沈む。


「これは」レオナルドがゆっくりと口を開く。「予想以上に深い問題かもしれません」


「評議会には?」アイリスが心配そうに尋ねる。


「報告は必要でしょう」レオナルドは静かに答える。「しかし、この発見自体が重要な前進です。慎重に、しかし着実に研究を進めましょう」


その日の夕方、真理は自室で地球への報告書を書いていた。


画面に、新たな研究計画の概要が並ぶ。


```

新研究計画:次元重ね合わせ現象の解明


1. 理論研究フェーズ

A. 量子次元力学の構築

- 多重次元の数学的記述

- 波動関数の拡張理論

- 統計力学的アプローチ


B. 古代魔法との統合

- 「狭間」理論の再解釈

- 伝統的技法の科学的解析

- 新理論体系の確立


2. 実験研究フェーズ

A. 観測システムの革新

- 超高精度波動センサー

- 多次元データロガー

- リアルタイム解析装置


B. 制御技術の開発

- 次元安定化システム

- 干渉制御メカニズム

- 安全遮断プロトコル


3. 応用研究の展望

A. 技術革新

- 新型魔法システム

- 次元間通信技術

- エネルギー制御法


B. 安全管理体制

- 多重監視システム

- リスク評価基準

- 緊急対応計画


期間:最低2年の継続研究を要請

予算:現行の3倍規模を想定

人員:研究チームの大幅拡充必要

```


画面の下に、真理は個人的なメモも追記した:

「この発見は、両世界の物理法則の根本的な理解につながる可能性がある。安易な帰還は科学者として適切でない」


ノックの音がして、アイリスが部屋に入ってきた。


「地球への帰還は?」心配そうな声で尋ねる。


「延期を申請するつもりです」真理は微笑む。「この発見を放っておくわけにはいきませんから」


アイリスの表情が明るくなる。「本当ですか?」


「はい。それに」真理は窓の外を見る。「まだ私たちの知らない、素晴らしい発見が待っているような気がするんです」


夜空には、見慣れた星座が輝いていた。しかし今、その光は以前とは少し違って見える。まるで、複数の次元の狭間から届く光のように。


その瞬間、モニターに小さな異常波形が表示された。


```

検出データ:

- 時刻:23:17:42

- 波長:未知の周波数帯

- パターン:多重次元共鳴?

- 強度:微弱だが確実

```


真理とアイリスは、顔を見合わせて頷いた。この小さな異常波形の中に、次元の本質を解き明かす鍵が隠されているのかもしれない。


新たな謎が、そして新たな発見への期待が、彼らを待っていた。科学と魔法が交わる地平で、さらなる真実が明かされようとしていた。

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