もう好きだなんて言わないで
花 千世子
もう好きだなんて言わないで
「唯ちゃん、好きだよ」
高校一年生になって、初めての告白だった。
桜並木は満開で、花弁がヒラヒラと舞うのを眺めつつ私は口を開く。
「ねぇ、肉まんの時期ってもう終わったの?」
「唯ちゃん、俺の告白スルーした?」
「駅前のコンビニにはもうなかったんだよね。特上肉まん好きだったのに」
「俺は唯ちゃんが好きだよ」
「あー、はいはい」
私がそう言うと、誠は満足そうに笑った。
その整った笑顔にドキッとする自分に腹が立つ。
うそつき!
誠の「唯ちゃん好きだよ」は、告白なんかじゃない。
ずっと昔から、それこそ幼稚園の頃からの挨拶のようなものだ。
飼ってる猫に「いい子だね」っていうけど、あれと同じ。
愛情だけど恋愛感情じゃない。
だって、中学生の頃にめっちゃかわいい彼女がいたから。
三か月で別れてたけど。
あの元カノを知っているから、誠が私みたいな女子に本気で「好きだよ」っていってるわけないって分かる。
本気にしちゃダメって、何度も自分にいい聞かせてるのに。
すると、目の前をカップルが歩いてくるのが見えた。
カップルは他校の制服を着ているけど、私はピンときた。
女子のほう……誠の元カノだ。
私のほうがドキドキしてしまって、思わず下を向く。
元カノは誠には気づかなかったようだ。
私はホッとして、そーっと誠を見る。
すると、誠は心配そうにこちらを見ていた。
「えっ、なに?!」
「それはこっちの台詞。なんで唯ちゃんが気まずそうにするんだよ」
誠はそういって笑った。
「だってほら、さっきの元カノじゃん」
「元だから」
「未練ないの?」
「ないよ」
「本当に? あんなにかわいいのに……」
「そう? 俺は唯ちゃんのほうがかわいいと思う」
「ハハ……冗談キツイなあ」
私が笑うと、誠はまじめな顔で言う。
「俺さ、元カノに告白されてOKしたのって、唯ちゃんに似てるなあって思って、それで……」
だまされちゃダメ。
誠は私をからかってるだけ。
どうせ高校ですぐに彼女ができて、私は本気しなきゃ良かったって傷つくだけなんだ。
「私は、嫌い」
それだけいうと、私は走り出した。
私も好き。
そう言えたら、楽になれるのかなあ。
☆
「唯ちゃん、好きだよ」
誠はそう言って笑う。
だけど、誠は少しだけ考えてからこう言い直す。
「いや、ちがうな」
「そこ訂正するんだ」
「唯ちゃん、愛してるよ」
それと同時に教会のドアが開く。
まるで雪のようなフラワーシャワー
私と誠は腕をしっかりと組んで微笑む。
「誠、愛してるよ」
もう好きだなんて言わないで 花 千世子 @hanachoco
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