ワガママ

つきもと

わたしのあい

「ねえ、薬指ちょうだい?」


彼女は私にそうワガママを言った。

彼女と出会ってもう何年だろうか。正直ここまで交際が続くと思わなかった。

だっていくら彼女が可愛くて大好きでも、毎日ワガママ言われたら正直うんざりしてしまうでしょう?


でも、ある時私は気づいてしまった。

彼女が私にワガママを言うのは私が自分から離れていかないか、彼女なりに試すと同時に甘えているのだ。甘え方の知らない彼女なりの必死の愛情表現。

そう気づいた瞬間、もうダメだった。彼女の全てが愛おしくて、抱きしめたい衝動に駆られる。

それ以降彼女のワガママは全て叶えてきたのだが。


「何で薬指が欲しいの?」

「今日はね、ワガママじゃなくてお願いなの。」


いつにも無い真面目な声色で彼女はそう呟いた。


「私は女であなたとは結婚できない。でも、あなたが私の側から居なくなるのも絶対に嫌。もしもあなたが誰かと結婚なんてしてしまったら私その場で死ぬわ。結婚式の純白を赤で染め上げてやる。」


少々物騒な物言いに笑ってしまうと、不服そうにとんがった口が「嘘じゃ無いのよ」と怒ったように動く。


「でもね私そんなことはしたく無いから、あなたが結婚出来ないように薬指が欲しいの。だめかしら?」


ああそんな顔で見ないで欲しい。私にしかしない子供のような喋り方も、薬指なんて法的拘束力の無いものを欲しがる夢見がちな所も何もかもが愚かで愛おしくてしょうがない。


「いいよ、あげる。」

そう答えた後の彼女の顔といったらもう、言葉なんかじゃ言い表せ無い。


「今欲しい?」

「出来るなら今がいいわ!」

「分かった準備するね」

「やったあ!」


準備が終わってから「ねえ」と声を掛ける。「ん?」とこちらを向く彼女にキスしながら私は言う。


「愛してるよ」


ダンッという音を合図に血の匂いが立ち込め始めた。

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ワガママ つきもと @dg_mot

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