自堕落天使は恋にも落ちる
JACK
第1話 地堕としの刑
「天使ルルティア。貴様は天使としての責務を全うせず、さらには怠惰、傲慢、そして色欲。七つの大罪のうち、この三つを貴様は犯していたようだな」
「⋯え?」
――――神界。
そこは、天空の最果てに存在する、純潔な者たちの楽園だ。
神界では今日も忙しなく天使たちが働き、神々が世界の様子を常時監視している。
そんな神界に、ただ一柱の異端者が居た。
その名を天使、ルルティア。
︎︎「次の堕天使候補」と言われるほどの自堕落で、神が必要以上の仕事を強制しないことをいいことに、仕事は必要最低限だけ、同僚の天使が声をかけてもめんどうくさいの一点張り。
つまり、ルルティアは神界の嫌われ者だったのだ。
何を言う、このクソ上司。
︎︎思わずそう言いかけた言葉をグッと堪え、飲み込んだ。
いやいやだって、仕事は課せられた分はやったし、膨満だってした覚えもない。それに加えて色欲??
︎︎何を言ってるのこの人!?
「他の善良な天使たちから報告があったのだ。仕事をせず、ほかの天使たちには常に膨満な態度を取り、そして我が娘からは光の神に色目を使っていた、と。異論はあるか?」
「あ、はいはい! ︎︎ありまくりです! ︎︎それを言うならあなたの娘が⋯」
︎︎そう言いかけたルルティアの言葉を、後ろの衛兵が遮った。
「黙れ、堕天使ルルティア」
「なっ、でもあるかって聞いて⋯⋯はぁい」
上から飛んできた衛兵の声に遮られ、ルルティアは力無く返事をした。
まあ、今から何をやっても無駄なのだとは分かっていた。
︎裁判官から「異論はあるか」と聞かれることは、「異論は認めない」とほぼ同意義だ。
︎︎裁判をかけられた天使は、弁明をすることも許されず堕天使にされ、ただ地に落とされるのみ。
やったやってないは関係ないのだろう。
︎︎疑わしきは罰する。神界の風紀を乱す異物は、なにがなんでも排除する。
それが、最高神リリーの思想なのだ。
「⋯⋯⋯⋯よって、天使ルルティアは右翼に堕天使の刻印を施し…」
(あ、やばい、聞いてなかった)
「地堕としの刑にする。異論はあるか?ルルティア」
「⋯⋯⋯いえ、ありません」
「そうか」
あっさりしてるなーと乾いた声で呟いたルルティアは、背後にいた衛兵たちに手を縄で縛られて、右翼に堕天使の刻印を押されると、そのまま連行されていった。
連れていかれた先は、まさかの神界の1番端っこ。下をのぞけば雲でできた地面は無く、不安定な雲がふよふよと動いている。
嘘でしょ、もう落とすの?
「え、もう? 最後の晩餐とか無いの?」
「黙れ、堕天使。堕天使なんかと話す暇は無いんだよ」
「そんな殺生な」
でも、とルルティアの口が動いた。そう、ルルティアの翼はまだ黒ずんでおらず、光輪も溶けたり割れたり焦げたりしていない。
「まだ堕天ってないじゃん。よく見なよ」
普通、天使の翼や光輪が変化して初めて堕天使と分かるというのに、もう堕天使呼ばわりとかちょっと頭足りてないんじゃないの? という悪口を込めて言ってみた。
︎︎が、
「そんなに黒くしたいなら燃やしてやるよ」
と言われて、すぐ側にあった灯火の火を持ってきて翼と光輪を燃やされてしまった。
︎︎光輪は物体じゃないので無傷だったが、翼はところどころ穴が空いてしまった。これでは再生するまで飛ぶことはできないだろう。
「では、地堕としの刑を執行する」
「はーい、なるべく痛くはしないでね⋯⋯えっ」
ドン、という音が背中でなったかと思えば、気がつけば絶賛地上に真っ逆さまである。
あんにゃろう、堕天使なんかに触りたくないとでも言うように足で蹴って落としたな。
︎許すまじあの天使。
⋯さて、困った状況になってしまった。
翼はさきほど焼かれて飛べないし、天使とはいえ肉体が壊れれば死んでしまう。
︎︎つまり、このままだと地上に叩きつけられてお陀仏なのだ。
「まぁ、それでもいっかなぁ⋯」
そう思うほどに、神界での私の当たりはキツかった。まあ自業自得と言えばそうだが。
︎︎でも、私が私らしく生きて、楽しいと思えたことなど無かった。
否、楽しいことがあっても、それより苦しいことが私の思い出を覆いつくし、いつのまにかその苦しいことしか覚えていないだけ。
考えてみれば、あんな冷たいな神界で死ぬより地上で死んだ方が大分マシじゃないか。
そうぐだぐだと死んでもいい言い訳を並べていると、雲が晴れてだんだんと地上が見えてきた⋯⋯
あ、死ぬ
――――バチン!!
弾くような強い音を立てて、天使ルルティアは地上に叩きつけられた。彼女の肉体は無惨に飛び散り、もう原型を留めてすらいない。
︎︎彼女の死は確定していた。
しかし、かの天使は―――
―――⋯⋯その場にいた1人の人間の少女によって、生き返らせることに成功した。
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自堕落天使は恋にも落ちる JACK @ranranruuuun
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