第21話
「……あれ?」
朝、目が覚めると私はいつも寝室の壁に掛けているカレンダーの前に行き、前日にバツ印をつける。
それが……。
あの日……。
ミオさん達の結婚式から一週間も経ってる。
いや、さすがにこんな事って……。
そして……。
着ているのはいつものパジャマだ。
あの和服を脱いだ覚えもないし
パパのいる病院に行って
治癒魔法をかけて……。
パパが死んだということは分かる
それから……
それからが思い出せなくて……。
その時ドアがノックされた。
「えっ!?」
パパがいない今
ここにいるのは私だけなのに……。
「あっ、もしかしてもう起きられてますか?」
この声……。
私は言葉を発するより早くドアを開ける。
「どうして……リリさんがここに?」
そこにいたのは紛れもないリリさんだった。
「あっ、ということはルナさん、目が覚めたのですね。よかった。」
そしてリリさんはホッとしたような表情。
「どういうことですか?」
「とりあえず朝食の準備が出来ましたので食べながらお話します。」
リリさんに着いてリビングへ行くと
そこにはパン、目玉焼き、サラダといった朝食が二人分並べられていた。
そして食事を開始するとリリさんがぽつりぽつりと話し始めた。
「あちらの生活にも慣れ、五日前にマスターの店にご挨拶に行ったんです。そしたらそこにはマスターと喪服を着たルナさん……いえ、正確には戦羅様がいました。」
「ママが?」
「伝え聞いたことをそのままお話すると、ルナさんは病室で倒れられた後、魔力も精神も疲弊していたらしく、とても表立って行動するのが難しいほどの状況だったらしいのです。なのでルナさんが回復するまでの間、戦羅様がルナ様に代わって約一週間、日々を過ごされていました。私が行ったのはルナさんのお父様の葬儀後のことで……それで私も何かお力添えをしたく、こうしてルナさんのお家の家事を手伝わせてもらうことになり、今に至ります。」
「えっと……。」
どこから話せばいいのか
でもとりあえず……。
「リリさん、色々とありがとうございました。このお礼はいずれ……。」
「そ……そんな!私は一からルナさんに家事を教えて頂いて、結局恩返しもせずに出ていってしまったので……お役に立てて何よりです。」
リリさんはニコニコしてそう言った。
「とりあえず朝食を食べ終わったらマスターのお店に行きましょう。今日は大学は休みですから天羽様達もいるかもしれません。」
「はい。」
そして朝食も食べ終わりマスターの店へ。
「あっ、おはよう。リリちゃん。あれ?もしかして……。」
「はい……皆さんには色々ご迷惑おかけしました。」
「ルナ、戻ったんやね!」
「本当に良かったよ。」
そして私の周りに駆け寄ってくるマスター、テンバ先生、セツナ。
「そげん謝らんどって。あたしが傍におったんに……結局何も出来んで……。」
「いえ、魔力不足の私に魔力を譲渡してくれたのはテンバ先生だと聞きました。あの場にテンバ先生がいなかったら今頃私も……。」
テンバ先生は勢いよく私を抱きしめた。
「テンバ先生……。」
「それ以上はなーんも言わんでよか。まだ本調子やないんやからゆっくりしよう。」
「えっ!?いや、でもこれからパパのお墓を見に行ったり、トモエ家や明陽神社にもご迷惑をかけたでしょうからそちらにも挨拶にと思ってたんですけど……。」
「そげん急がんでもいいよ。ルウェートのとこやったら午後にでも車出してあげるから。刹那、巴と明陽神社にアポ取ってもらっていい?行けそうな日時あったら聞いといて。」
「分かりました。」
セツナはそう言うと携帯電話を取り出しながら店から出て行った。
「とりあえず今はゆっくりしよう。マスター、お茶追加で。」
「うん、分かったよ。」
そして……。
「ほらほら、そげん突っ立っとらんではよ入らんね。」
ホールの中央にあるはずのテーブルや椅子が脇にどけられていて
その代わりに真ん中に鎮座するのは畳。
畳には中央部分が盛り上がった布団が敷かれ、その上には平らな丸い台が……。
テンバ先生はそこに入っている。
「わぁ!コタツ!どうしたんですか?これ。」
「コタツ……?」
「やっぱり冬場はこうやないと。フランスおるとたまに日本文化が恋しくてねぇ。」
「ルナさん、ルナさん、早く入りましょう!」
「え……は……はい。」
リリさんに背中を押されコタツなるものの中に……。
「あ……。」
ほんわりした暖かさが足を優しく包む。
「コタツといえば温州みかんだねぇ。マスター、ある?」
「コタツは急に用意できてもみかんまではねぇ。後で買ってきてあげるよ。」
マスターはそう言いながら私達の前にお茶を置いた。
「とりあえず今はお昼用におでんの準備してるからそれで我慢して。」
オデン……?
とりあえずお昼ということは何らかの料理に違いなく……。
「私も手伝うわ。」
「いいよいいよ、ルナちゃんはゆっくりしてて。」
マスターはそう言って厨房の方へ入っていった。
手伝いたいのもあったけど
このコタツの温もりから出たくないのも正直あったので甘えることにした。
午後、オデンを食べ終わって
私はテンバ先生とパパのお墓に向かうことになった。
私が助手席に座るとテンバ先生はゆっくりと車を出した。
「こっから車で三十分ってとこやね。休みやし混んでなきゃよかけど。」
「色々ありがとうございます。」
「気にせんと。あたしがやりたくてやっとるんやから。アンタこそ大丈夫なん?いや、こういうと大概のもんは大丈夫って言うよね……。」
「大丈夫ですよ。ママが出てきたお陰か……多分普通の人に比べてダメージは少ないと思います。ただ……。」
「ただ……?」
「これからどうしようかと……思って。」
「大学の先生としても相談に乗ろうか?」
「お願いします。」
「んで?」
「私、パパの研究を手伝いたくてずっと勉強してきました。私の描いてた未来図には隣にはパパがいて、私はパパと一緒に色んな星の謎を解明していくんだって……でも、考えれば当たり前なんですけどパパの方が先に死んじゃうんですよね。そうなった時のことを何も考えていませんでした。」
「じゃあ本当に明陽神社の神様にでもなる?」
「そ……それはまた……軽く決められるものでは……。」
「冗談だって。そうやねぇ。未来図と違ってたらどうするか……アンタは昔からそれに向かって頑張ってきたもんね。……ルナはルウェートが好き?」
「好きです。」
「勉強は好き?」
「好きです。」
「星は好き?」
「好きです。」
「ならアンタはそのまま学者になる道を進むべきよ。」
「そう……ですか?」
「いいかいルナ。学者ってのは生きているうちに成果を挙げるのなんて一握りなんよ。けどそれは一人の成果やない。それまで積み上げてきた知識や技術、それが成した結果。それを受け継ぐ人は多い方がいいんよ。」
「私が……パパの研究を受け継ぐってことですか?」
「仮にルウェートが未来も生きていて、アンタがルウェートの助手をしてて、ルウェートが寿命で死んだとして……そうした場合、アンタはそうするやろ?」
「そう……ですね。」
今も未来も……。
私のやることは変わらない。
そうなると……。
「パパがやりたかったこと……うーん。」
「どうかした?」
「実を言うとパパの詳しい研究内容を私、把握してなくて……書類の整理とか論文の書き写しとかはやっていたんですけど詳しくはあまり……。」
「そこは大丈夫、ルウェートの知識はあたしが受け継いどるけん。」
そう言ってテンバ先生は自分の頭を指さした。
「ルウェートの知識量は膨大やからね。暇さえあればあの人の研究室に行って知識を魔法石の応用で吸収しとったんよ。学びは誰にも奪われないって言うけどあたしに関してはそれは無意味やねぇ。」
「そ……そんなことができるんですか?」
「うん、やけんとりあえずアンタは引き続きあたしの研究を手伝って欲しい。そのうちアンタも基礎知識がついてくるやろうけん。そしたらルウェートの研究も手伝ってもらう。それでどうかいな?」
「はい、テンバ先生に教えて貰えるなら心強いです。」
「ありがとう。さあ、着いたよ。」
そして車を降りてテンバ先生について歩くこと数分。
パパのお墓に到着
私は花を添えて十字架を切る。
パパ、私パパの分まで頑張るから
だから見ていてね。
次の日の朝、セツナと共に界路を通って明陽神社に到着。
と同時に……。
「このたわけがぁ!」
「あいたっ!」
アルジに巨大ハリセンで叩かれた。
「魔力を極限まで使うものがあるか馬鹿者!戦羅が治癒魔力の供給を止めてなかったらそなたも今頃土の中じゃぞ!そなたまで居らぬようになったら……妾は……妾は〜……。」
そして私に抱きついてわんわん泣き出した……。
「ごめんなさい、アルジ。」
そう言うしかなかった。
「たわけが〜しばらくは治癒魔法は使うの禁止じゃ〜。」
「え……禁止?」
「そうじゃっ!何か文句あるか!お守りも目標数溜まって問題ないし、そなたには魔法石もあろう!魔法の訓練はしばらく置いておけ!」
「わ……分かった、分かったから。」
「刹那、魔法を使わぬようにしっかり見張っておけよ!」
「私に言われても……今回はイレギュラーだったしね。主もそんなにいきり立たなくても……。」
「いきり立つわ!神がいなくなりかけたのじゃぞ!」
「う……ごめんなさい。」
「アルジ、本当にごめんなさい。今回のことで明陽神社にも多大なるご迷惑を……。」
「いや……戦羅が代行したからか神社自体は特に問題ないし、妾の心労が増えたくらいじゃから謝ってくれれば何も言うまい。」
アルジはため息をついて
「ルナよ、何かあれば遠慮せずに言うが良い。神の精神の安定はこの地と共鳴しておる。そなた一人の命でないことを忘れるなよ。」
「えぇ、肝に銘じておくわ。」
私がそう言うとやっとアルジは笑顔を見せた。
「父上の研究を受け継ぐか……良いのではないか?」
場所は裏本殿から居間へと通された。
そしてアルジに今後のことを相談するとあっさり認めてくれた。
「てっきりそのまま神様になれと言われるものかと。」
「妾はやることさえやってもらえれば何も文句は言わぬよ。裏本殿の魔法石版への魔力注入。お守りへの魔法石の封入。これからは他にも増えるかもしれんがな。」
「両立が今後の課題ね。」
「しかし無理ない程度にな。」
「分かってるわ。倒れたら元も子もないもの。」
「ルウェートさんの研究に関しては私や天羽さんも協力するから。なるだけルナの負担にならないようにする。」
「しかしそなたはそなたで貴族としての仕事も多かろうて。」
「私は昔からやってきたことだから苦ではないよ。ルナに比べればね……。」
なぜだかそう言っているセツナの顔は曇っていた。
「セツナ?」
「いや、ちょっと兄様達に連絡取ってくるよ。そろそろ仕事も余裕がでてくる時間だろうし。」
「うむ、頼む。妾もそろそろ会議の時間でのぅ。まあ時間までここでのんびりしておくと良い。」
そしてセツナとアルジは部屋から出ていった。
特に何もすることがないので出されていたお茶を飲んでいると……。
「紅麗様〜、いらっしゃいますか……あら?」
そう言って襖を開けていたのは……。
「な……何故あなたがここに……。」
「あっ、ヤエさん。先日はどうも。」
ヤエさんが襖を開いたまま固まってた。
「アルジでしたら会議とかで先程出ていきましたけど。」
「え?会議?な……何故あなたがそのようなことを存じているか知りませんがそれでは仕方ありません。出直すとします。」
「何かあれば伝えておきますけど。」
「い……いえ、結構ですわ。それとあまり気安く話しかけないでくださいな。どちら様かは存じませんけど。」
「あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。ルナ・サレーリアです。」
「ふ……ふん、まあ名乗られては名乗り返すのが礼儀ですわね。」
そう言うとヤエさんはその場に座り
「静寂(しじま) 八重と申します。どうぞよしなに……。」
そう言って頭を下げた。
「ご丁寧に……ありがとうございます。」
「べ……別にただ、挨拶はきちんとしなくてはならないという教育を受けているだけです。勘違いなさらないでくださいな。」
ヤエさんは顔を赤らめてそう言った。
「それで?ルナ・サレーリア?あなた、何者ですの?」
「あっ、ルナでいいですよ。ウノハさんのお母さんのテンバ先生がいる大学で学生をしています。」
「そうではありませんわ!あなた!人ならざるものではなくて?」
「やっぱりそういうの分かるんですか?」
「他の方がどうなのか存じませんけど、それは私が静寂家の者と分かっての言葉ですの?」
「えっと……シジマだと何か?」
「なっ!本当に知らずに聞いていたとは……。」
そう言ってヤエさんは額に手を当てる。
「すみません、裏世のことはまだあまり詳しくは分からないので。」
「その無知な状態で秋斗様に話しかけていたというのですか!?はぁ、仕方ありません。どうせ紅麗様が戻ってくるまで時間もありますし色々説明してあげましょう。」
「ありがとうございます。助かります。」
確かにアカツキにある神社なら周りのことも知っていたほうがいいし。
「ただの暇つぶしでしてよ。勘違いなさらないでください。」
そう言うとヤエさんはどこからかホワイトボードを取り出してきて
【静寂家その他貴族の特性について】
マーカーでそのように書いて
ピッと指し棒で示した。
「静寂家は代々呪術を生業とする家系ですわ。呪術は文字通り呪いの総称。故に命を奪うものでもありますの。呪術を扱う者は術が効いているか魂を視ることで判断しますわ。」
「命を奪う……。」
「そう深刻にならずとも他者の命を奪うということは自分の命も差し出すこと。使えるものではありませんし、使いたくもありません。極端な話という意味ですわ。実際は対象者の動きや魔法の発動を無効化させたりなどその程度のものです。呪術を使える家系は暁内では静寂家、陽炎家、朧(おぼろ)家の三つですわ。」
「それぞれやる内容としては変わらないのですか?」
「大元は変わりませんわ。それぞれ特色がありはしますが。静寂家は対魔力が強く、先程も言った魔力の無効化が得意で朧家は呪術解除を得意としていますの。」
「カゲロウは?」
「陽炎家は……正直分かりかねますわ。嫁ぐ身ではありますがあまり詳しいことを教えて貰っていませんの。秋斗様も何故だかお義父様からは呪術の類を教えて貰っていないと仰ってて一体お義父様がどのようにしたいのか……秋斗様もここ数年は特に仲がよろしくないようですし……。」
「それは……色々と複雑な。」
アキトさんもお父さんのことになると表情が暗かったし。
「でもお義父様はすごいお方なんですよ!裏世で指折りの穿界士ですし、魔法石の研究もなさっていますし、治世もしっかりしていらっしゃる!本当に非の打ち所のない方で尊敬していますの!秋斗様はその血を受け継ぐ方。八重はそのようなところに嫁ぐことができて幸せです。」
セツナやリリさんっていうお互い望んでいない結婚もあれば
こんなふうに幸せな結婚もあるんだなぁ……。
「……と話が逸れましたが後の詳しいことはそこの盗っ人にでも聞きなさいな。」
「えっ?盗っ人?」
その時襖が開いて
「酷い言い方だなぁ。八重先生の授業を拝聴していただけだよ。」
そこにはセツナがいた。
なかなか戻ってこないと思ったらずっと聞いてたのね……。
「拝聴ではなく盗み聞きでしょうに。全く貴方様までここにいるとは思っていませんでしたわ。留学先に戻られたのではなくて?」
「あぁ、今日はルナの付き添いでね。」
それを聞くとヤエさんは視線を勢いよくセツナから私に移す。
「あなた、まさかこの方を足として使っているのではありませんの?巴家は裏世の中でもトップクラスの実力がある貴族ですわよ?」
「え……えっと……やっぱりすごい……ですよね。」
忘れてたわけじゃないけど
改めて貴族と一般人の格差が……。
やっぱり普通は雲の上の存在なんだろうな。
「その貴族を盗っ人扱いする君もどうかと思うけどね。それに私が好きでやっているんだ。ルナが気にする必要はないよ。」
雲の上から降りてきて目線を合わせてくれる。
「それで八重?君が貴族の集まり以外で外にいるなんて珍しいね。」
「私とていつも屋敷に籠っているわけではありませんわ。紅麗様に用があったのです。」
「それは失礼したよ。それじゃ私達はこれで、ルナ行こうか。」
「あっ、うん。ヤエさん色々とありがとうございました。」
「れ……礼など不要ですわ。あくまで暇つぶしでしたの。勘違いなさらないでください。一言申し上げておきますけどその場に行くのなら色々と予習すべきですわ。あなた、何も知らずに旅に出るタイプですの?」
「いえ、そうですね。自分なりにまた勉強しておきます。」
「まあせいぜい励みなさいな。」
そう言うとヤエさんはそっぽを向いてしまった。
セツナは苦笑いして出ていき
私はヤエさんに一礼してその場を後にした。
そしてそのまま社をくぐろうとした時……。
「あいた!?」
壁のようなものにぶつかった。
「ルナ?大丈夫?」
先行していたセツナが戻ってくる。
「あれ……?」
前に手を伸ばしてみる。
何もない透明な場所には
確かに壁があった。
セツナはそれをすり抜けてくる。
「どうかした?」
「セツナ……ここ……なにかある?」
「何かって……何もないよ?」
私が手を置いていた所をセツナも触る。
確かにセツナの手は壁の部分をすり抜けピンと伸びていた。
もう一度手を伸ばす。
やっぱり壁に押し戻される。
「ルナ?」
壁に伝って歩き出す
切れ目が見えないまま
元の位置に戻ってきた。
「どうしようセツナ……。」
ふにゃふにゃと力なく崩れてしまう。
「私……ここから出られなくなっちゃった。」
「出られない……か。明陽神社が神様を出したくないってことかな。」
「そういうのあるのかなぁ。」
『ええ……あります。』
ママ……?
『ルナ、その結界はあと少し力を入れれば壊れます。しかしそれを壊せば最後……私のように界路に巻き込まれ時空の狭間を行き来し未知の場所へ行くことになります。』
「じゃあママはこれを壊したから……。」
『はい……今まではあなたもルウェートさんの血が濃かったから行き来出来たのでしょうがここ一週間、私が成り代わったことで神の血が濃くなったのでしょう。この結界もそれを認知してここから出そうとはしないのだと思います。』
「それってつまり……。」
『裏世でのあなたの行動範囲は明陽神社の敷地内ということになります。』
そんな……。
「ルナ……何か分かった?」
「うん、実は……。」
そしてセツナにさっきのことを話す。
「……とりあえず主に相談してみるか。彼女はここの巫女だ。何か知ってるかもしれない。」
というわけでセツナとさっきの部屋に戻る。
「あら、忘れ物ですの?」
襖を開けるとヤエさんがお茶を飲んでいた。
「八重、君の主への用事っていうのはすぐ終わるかい?」
「何ですの?その長くなるのならば順番を変われというような雰囲気は……。」
「まあ場合によっては……こっちもどうなるか分からないけど明陽神社に関係があることだからね。」
「それならば仕方ありません。後日改めるとしますわ。」
ヤエさんはそう言って立ち上がった。
「いいのかい?」
「元々時間がかかればそのつもりでしたし紅麗様の本職に関わるのであればそちらを優先すべきです。」
「ありがとうございます、ヤエさん。」
「なっ……なぜあなたからお礼を言われなければならないんです?全く、調子狂いますわ。それではごめんあそばせ。」
そう言ってヤエさんは部屋から出ていった。
「芯はしっかりしてるのに素直じゃないなぁ……。多分、ルナのこと相当気に入ってるね、これは。」
「え?そういうものなのかしら。」
前にアルジのときもこんなことがあったような……。
そして少し待っていると……。
パタパタと足音が聞こえてきて
「何じゃ!何かあったのか!? 」
アルジがそう言って飛び込んできた。
「えっ!?アルジどうして……。」
「どうしても何も八重がお主らが呼んでおると知らせてくれてな。」
ヤエさん……。
「してどうした。そなたら巴へ向かったのではないのか。」
そしてまた説明をし……。
「まあ……そうじゃのう。神域から神が出る訳にはいくまい。しかしルナならば半神じゃからせめてこの地域一帯なら問題なかろうと思っておったが……。あの結界はこの神社が出来てからずっとあるもの。いくら結界魔法が使える猛者とて解除は難しいし、解除したところで界路に呑まれるぞ。」
「じゃあ本当に……。」
「方法がなくはないが……聞くか?」
アルジの顔は曇っている。
「……一応聞かせて。」
「そなたと戦羅を切り離す。依代である水晶はそなたと同化しておるからそれを離せば戦羅もそれに引き寄せられてこちらに留まる。しかしそれはつまりルナが普通の人間として過ごすとこになる。そうなると魔力に当てられる可能性がある。裏世の地は踏むことができんくなるかもしれんな。」
「普通の人間として表世で暮らすか神様として明陽神社と行き来するかってことね。」
そんなの……。
「今のままでいいに決まってるわ。人間として戻るっていうことはママとも別れなきゃいけないってことでしょう?私はそんなのもう嫌。」
「ルナ……。」
「神社の外にはいけなくなるとはいえ遠見の能力が使えるようになれば周囲を見渡せるし、巴家に行けなくなったとしても刃も澪もこちらに来ることは出来よう。そう悲観することはない。」
「……そうね。」
今はまだ難しくても
ちゃんとこのまま魔力共有できれば
「うう……やることが山積み。」
「やはり無理しおって……。」
「大丈夫だよ、私達も協力するから。」
「ありがとう……。」
本当にこれまでみんなにどれだけ支えられたか。
だからこそ報いたい。
「よしっ!」
とりあえず魔力共有がんばろう!
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