第19話
目を開けると……。
「あっ、ルナさん。おはようございます。起こしてしまいましたか?」
リリさんは椅子に座って綺麗な髪を梳いていた。
「リリさん……って!?」
窓から漏れているのは晴天の朝日。
「わ……私もしかしてずっとここで寝てたんですか!?」
慌ててベッドから起き上がる。
「はい、随分お疲れだったんですね。」
「リリさんはどこで。」
「ご心配なく。マスターにお布団を貸していただきましたから。」
「す……すみません!私のせいで熟睡できなかったですよね!」
「いえ、お気になさらず。お布団もフカフカで気持ちよかったですから。ルナさんは?ご気分が優れないなどはありますか?」
「ええ……それは大丈夫ですけど……あの……どちらかにお出かけですか?」
リリさんが座っている傍には大きなスーツケースがあった。
「……本当は昨夜言うつもりだったんですけど、本日、玄冴さんと共にこちらを発つことになりまして……。」
「え……。」
確かにずっと居るものではないのは分かっていたけど
「急なことで申し訳ありません。玄冴さんの腕を見込んで雇いたいという方がマスターの伝で見つかりまして……早い方がいいということで……しばらくは慌ただしいかもしれませんが、落ち着いたらまた顔を出しますから。」
「寂しくなります……でも良かったですね。また会えるのを楽しみにしてます。」
「ありがとうございます。ルナさん。」
「あっ、ルナちゃん。おはよう。朝ごはんすぐ出来るからね。」
リリさんは準備が残っているらしく私は先にマスターのいるキッチンへ向かった。
「おはよう、マスター。手伝うわ。」
「じゃあ平たいお皿とスープ用のお皿を出してもらっていいかな?ルナちゃんの分だけでいいからね。」
私がお皿を出すとマスターはサラダとオムレツとウインナー、コンソメスープをそれぞれお皿に入れてくれた。
「パンはカウンターの方で焼けてるからそれをどうぞ。」
「あ……あの、何から何までありがとうございました。」
「気にしなくていいよ。あぁ、ルウェートさんが心配するかもしれないから昨夜はこっちに泊まるって言っておいたからね。」
「重ね重ね……。」
「詳しい話は食べながらしようか。僕も神様と話せるなんてそうそうなかったから楽しかったよ。」
マスターは弾んだ声でそう言った。
そしてご飯を食べているとマスターがコーヒーを持ってきてくれた。
「それで……ママとはどういう話を……。」
マスターは私の正面の席に座るとコーヒーを一口飲んで口を開く。
「ルナちゃん、お守りを作るのはここでやろうか。」
「お店でですか?」
「うん、そしてお守りの作り方を変えようと思う。」
「作り方を変えるって……。」
「お守りの中に魔力を注入するんじゃなくて魔法石版にルナちゃんの魔力を注入してもらう。それを僕が加工してお守りの中に入れる。そしたらルナちゃんの魔力消費も少なくなってお守りも大量に作りやすくなるからね。魔力のムラもなく無駄もなく効率的だよ。」
「えっと……そのご利益ってママが作ってたのと変わらない……のかな。」
「問題ないよ。足りなかったら僕の増殖魔法で増やすから。お守りの魔力はともかく魔法石は僕の管轄だからね。本当は神社の問題だったから首を突っ込まないようにしようと思ってたけど無理あったよ。さすが神様。やってることが人智を超えてる。だから僕らは僕らの背丈に合うやり方をね。」
ママ、どういうやり方でやったのかしら。
「とりあえず試作品として僕は今から店にあるルナちゃんの魔力でお守りを作ってみるよ。あとは主ちゃんのOKが出るだけ。まあ、神様が問題ないって言ってるなら主ちゃんも頷くしかないだろうけど。ルナちゃんは今日は学校休みだよね?土曜日だけど補講とかない?友達と遊びに行く用事とか。」
「えぇ、大丈夫。少し家事が溜まってるけど。」
「それなら今日はちょっと僕に付き合ってくれるかな?」
「えぇ、大丈夫よ。」
「じゃあ……そうだね。ゆっくりしたら一旦家に帰って用事を済ませてもらってお守りを持ってまた来てくれるかな?」
「分かったわ。」
そして朝ごはんを食べ、家へ。
「ただいま。」
「あぁ、おかえり。ルナ。」
リビングに行くとパパが新聞を読んでいた。
「パパ、連絡できなくてごめんなさい。ご飯食べた?」
「大丈夫だよ。パンがあったからそれを食べた。」
「それなら良かったわ。後でまたマスターの店に行かないといけなくなったんだけど……場合によってはまた遅くなりそうで。」
「それは大丈夫だけど……身体の調子はいいの?疲れてるみたいだって聞いたけど……。」
なるほど……マスターはそう言ったのか。
あながち間違ってはない。
「うん、寝たから随分良くなったわ。パパは今日出かける?」
もしも出かけないようなら洗濯物を取り込んでおいて欲しいところ……。
「そうだね、研究室の合宿準備もあるし。」
パパから出張ってことはよく聞くけど合宿っていうのはあまり馴染みがない。
「合宿?研究室って学生とかとも行くの?」
「あぁ、郊外に天文台付きの合宿所があるって学生が教えてくれてね。せっかくだから来月そこで合宿しようという話で……。せっかくだしルナも行くかい?」
「いいの?」
ちょっと気になる。
「構わないだろう。うちの学生でもあるし……。」
パパはスケジュール帳をペラペラとめくり
私はそれを覗き込む。
「あっ、その日は……。」
「ん?何かあるの?」
「セツナのお兄さんの結婚式に呼ばれてて……。」
「そっか……それは残念だ。けどせっかくの結婚式だから行っておいで。パパの方は心配いらないからね。」
「ありがとう。パパ。」
「……良いのではないか?」
アルジはマスターが加工した魔法石の入ったお守りを持ってそう言った。
「戦羅がどうやって守袋に魔力を入れておるか分からぬが、そもそも場所や空気が裏世とは別物じゃからな。やり方も変わろうて。効率的かつ生産性にすぐれておるならその方が良い。」
「意外とすんなりいくねぇ。歴史もあるしそういう大事なことは段階を踏んでからと思ったけど。」
「踏む必要なかろう。神社のトップがこうしておるのじゃからな。」
「まあ……そうなんだけどね。」
「ママってどうやって魔力を入れてたのかな。」
「さあのぅ。何せ売る前日まで魔力がカラカラだった守袋の束が次の日満タンになったことも一度や二度ではない。大方、夏休みの宿題は最終日にやるタイプじゃろ。」
『てへぺろ☆』
ママ……。
『そうは言われても……参拝客が多すぎるのも嬉しいやら大変やら……。ついつい……とはいえ昔の話ですよ。今はもうストックも作ってますから問題ありません。』
確かにやることやってるし問題ない。
「して……これは目安でどのくらいできる。」
マスターは電卓を取り出して計算し始めた。
「魔法石版一枚につき使うルナちゃんの魔力を最小限抑えて僕がそれを増殖させる。今ある魔法石版は百枚……はさすがにないけどそれも創るのを並行して……一枚の魔法石版で作れるお守り板が約五十……。うん、五千は年末までに軽くいけるよ。」
「そ……そんなにいけるの!?いや、マスター、そんなに色々やってたら絶対マスターの身体が持たないわ!」
「大丈夫大丈夫、そのための不死身だから。ここにいれば僕の魔力も無尽蔵だし。それに一番大変なのはルナちゃんだからね。短時間の間で魔力を注入しなきゃいけないんだから。まあ、戦羅さんのサポートがあれば問題ないとは思うけど。とりあえず……。」
マスターは魔法石版をどこからか五枚取り出してきた。
「この中に魔力を入れてくれる?少しで構わない。入れていく間、僕も魔法石版を作っておくから。主ちゃんは僕が加工した魔法石をお守りに入れる作業をお願い。」
「分かったわ。」
「うむ、心得た。」
そうして夕方まで作業をした結果……。
「よし、ルナちゃんのノルマ達成。お疲れ様。」
「え……これで百枚?」
途中で考える余裕もなくただ闇雲に魔力を注入していた気がする。
「まさか僕も一日でできるなんて思ってなかったよ。しばらく休んでおいて。」
「え……でもまだそっちは終わってないんじゃ……。」
「こちらは良い。そなたは休んで魔力回復に努めよ。」
「璃々ちゃんが使ってたベッドはまだそのままにしてるからそこを使って。」
「う……分かったわ。少ししたら起こしてね。」
断れる雰囲気でもなく私はそのまま部屋に行きベッドに横になる。
途端睡魔が襲ってきた。
思った以上に疲れが溜まってたみたいだ。
「お疲れ様でした。ルナ様。」
私がリビングに行くとアヤメがそう言って紅茶を出してくれた。
「ありがとう、アヤメ。ママは?」
「少ししたら戻ってきますよ。マスターさん達にお礼を言いたいそうでしたし、紅麗さんともまだまともにご挨拶していなかったようですから。」
外がどうなってるのかすごく気になる。
その時……。
「ルナ。もう起きていたのですね。」
「ママ!」
どこからともなくママが現れた。
「戦羅様、お疲れ様でした。どうぞ。」
「あら、ありがとうございます。」
ママは私の向かいの席に座ってアヤメが注いでくれた紅茶を一口飲んだ。
「ひとまずこれで今年のお守りのお仕事はおしまいです。お疲れ様でした。」
「えっと……アルジとは話せた?」
「紅麗は私の謝礼を拒みました。あくまで巫女としての仕事を全うしただけと……そして私やルナのこともこれ以上全力でサポートすると……それが当然のことだと言い……本当に優しい子です。」
アルジ……。
「ルナ、あなたにも色々と苦労をかけますね。それに夜中に無断に身体を使ってしまってごめんなさい。」
「それはいいけどどうしていきなり……。」
「元々はお守りに入れていた魔力が中途半端なままルナが寝落ちしてしまったのでそれの補完のつもりだったんですけど……まさかあの時にルウェートさんに見つかってしまうとは……。」
「私が原因か……。」
「でもそのおかげでルウェートさんとまた会えましたから。そうは言ってもそうしている間にあなたに疲労が溜まってしまっては意味がないのですが。」
「それはまあ……毎日は困るけど週末……学校が次の日休みとかなら大丈夫よ。」
「よろしいのですか?」
「もちろんよ。パパだってママに会いたいだろうしね。」
「ありがとうございます、ルナ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます