百合シチュエーション、いろいろ

緩音

令嬢姉妹百合シチュエーション

「お前は本当にそれでいいのか。」


「はい。お父様。」


 私、白瀬しらせいのりは高校進学の境に家を出ることにした。理由は家業を継ぐ争いに巻き込まれたくなかったからだ。私は白瀬家の次女として生まれたがお父様のお父様、つまりおじい様は男女関係なく優秀な者を次の当主にしたいらしく、お姉さまとあと二人のお兄様と私は平等な学習機会を与えられてきた。


 私が中等部に進学するころには私にもすり寄ってくる大人たちがいて正直うんざりしていた。なので私はそれを最大限活用し、ある程度の資産を確保した後で逃げようと画策していた。実際目標にしていた金額の数倍は手元に確保することができたので約束通りお姉さまに後のことは丸投げすることに成功したのだ。


「私はお前を買っていたのだがな。」


 お父様は少し残念そうに呟いた。私は多分兄妹の中で一番お父様と一緒にいたから私としてもお父様の期待を裏切りたくはない。


「ごめんなさい。お父様。」


 正座のまま頭を下げるとお父様は首を横に振った。


「いいんだ。苦労をかけたね。いのりに資産があるのは知っているけどせめて大学の卒業までは面倒を見させてくれ。」


 お父様は今までの仕事の時の表情から温和な顔つきになり、私の頭をそっと撫でた。私はそっと立ち上がり、お父様の部屋を後にした。


 そのあとはお兄様方に報告をして、おじい様にも報告に行くことになった。お兄様たちは私を労うような言葉を言いつつ少しほっとしていて、おじい様にはごねりにごねられたけど最終的には納得して送り出してくれた。




***


 そして家を出る日になった。と言っても私の住むこの屋敷にお兄様が帰ってくることは滅多になく、お父様も仕事で朝早くに家を出てしまっていたので私は一人でインターフォンが鳴るのを待っていた。


「いのり~。」


「お姉さま!」


 約束通りの時間にお姉さまが家を訪ねてきた。お姉さまがちょうど大学の春休みの間に私を私の移住先へ届けてくれる。事前に荷物は送ってあるので私は小さなバッグだけ持ってお姉さまの運転する車へと乗り込んだ。


「今日は本当にありがとうお姉さま。」


「どうせ暇だから大丈夫。それよりお手洗いとか大丈夫?なにかあったら言ってね。」


「うん。大丈夫。」


 もうすでに高速にのり、車は100km/hギリギリの速度をキープしている。お姉さまが車の免許を取ったときにいろんな場所に連れて行ってもらったことを思い出した。あの時は運転が荒くてシートベルトを握りしめながら乗っていたっけ。


「ちょっと休憩。」


 二時間ほどでお姉さまは一度サービスエリアに車を停めた。外に出ると空気が新鮮でおいしかった。


「わ、富士山が大きいですよ。お姉さま。」


「本当ね。」


 ここは静岡なので当たり前だが富士山が近くてより大きく見える。私たちはお手洗いを済ませて飲み物を購入してから再び車を走らせた。


「そういえばいのりから引き継いだ人たち、みんな優秀でびっくりしたわ。」


 運転中にお姉さまと話しているとその話題になった。私が中学生の時に力を貸してもらっていた大人たちは可能な限りお姉さまの陣営についてもらえるようにお願いしていた。結局みんなお姉さまの陣営に入ることになったので私としても安心だ。


「しっかり選んだからね~。」


「いのりがその気なら当主はいのりだったわね。」


「私には無理だよ~。」


「何かあったら私が力になるから連絡してよね。」


「うん。助かる。」


 私とお兄様たちはずいぶん歳が離れていて、一番歳の近いお姉さまでさえ15歳と19歳で4年の差がある。お姉さまはずいぶん私のことを気にかけてくれていたので恩返しの意味を込めて、私は私の選ぶ優秀な人材をお姉さまに渡せたはずだ。


 車は高速を降り、ナビには目的地まではあと15分で着くと表示されていた。そこからは特に会話もなく、お父様が手配してくれたマンションへと到着した。


「じゃあねいのり。体調くずさないようにね。」


「うん。も。」


 ずっとお姉さま呼びをしてきたけど、そういえば昔は嫌がっていたことを思い出してそう呼んでみればお姉ちゃんは私を抱きしめておでこに唇を一つ落とした。


「愛してる。いのり。」


「私も。」


 お姉ちゃんの手の甲に私もキスをしてからにやりと笑う。お姉ちゃんは複雑そうな顔を浮かべてから車に乗り込んだ。


「また暇になったら遊びにくるから。」


「うん。私は.....行けたら行くね。」


 お姉ちゃんは苦い顔を車の窓からのぞかせるとそのまま走り去っていった。



――――――――


 私には妹が一人いる。名前はいのり。おとなしくてそれでいてどこかミステリアスなそんな子だった。


 私の家が少し複雑なこともあり、私は二人いるお兄様とほとんど関わることはなかったのでそれを埋めるように可愛い妹に愛情を注いだ。


 そんな妹が中等部に進学するときに話があると言って私の家にやって来た。いくら私が妹ラブでも白瀬家の長女としてやることは山ほどあり、私に期待してくれている人もいるのでいのりが初等部の間はたまにしか会うことができなかった。私はおじい様との折り合いが悪くて屋敷とは別の場所に住んでいたことも理由だった。


「お姉さまに迷惑をかけてもいい?」


 家の玄関口でそう言うので家に入れて詳しく話を聞いてみればそれは中学生らしくない達観した意見だった。将来を見据えていて目標のための計画も練られていた。だから私は「目標が達成できたら」という条件付きでいくつかいのりの初めてのおねだりを聞いた。


 結局いのりは一年のうちに優秀な人材を抱え、お父様の仕事を手伝う傍らで自らの稼ぎも生み出していた。いのりの動向にはお兄様たちも注目していると私の従者からも報告を受けるほど、いのりは優秀だった。


 私もいのりに恥じない姉であるために私の派閥の基盤を強化し、お兄様たちに並べるくらいまでには成長を遂げた。すこし余裕も出てきて車の免許を取り、いのりを乗せて夜景を見に行ったり、花畑に連れて行ったりもした。

 

 いのりも私に懐いてくれていて週の半分は私の家に泊まりに来るほど私たちは仲の良い姉妹だった。この家である以上、私はいのりとはお兄様たちと同じように親密な関係を築けると思っていなかったので年相応に甘えてくれるいのりは癒しであり、支えでもあった。


 実際いのりからのおねだりで家から離れたところで暮らしたいと言われていなければ私の家で一緒に暮らしたかった。でも私の家にいる限りは相続争いに巻き込まれてしまう可能性が捨てきれない。だから私はある日の夜、私の腕の中で眠るいのりを見つめながら誓った。私が当主となっていのりに幸せにくらしてもらうと。


 

 そしていのりが旅立つ日、私は用事をいくつか蹴っていのりの送迎をすることにした。道中いのりと話すだけで私の胸は幸せで満たされていたが、去り際にいのりに初めて「お姉ちゃん」と呼んでもらえた。今までに数回お願いしたがやんわり断られていたのに呼んでもらえたことが嬉しくて、そして少し照れ臭そうにしているのが愛おしくて抱きしめてしまった。


 15歳の華奢な体は私の腕にすっぽりと収まり、私の目の前にはいのりの顔があった。つぶらな美しい二つの目は私の目を見つめていて、お互いの呼吸どころか鼓動すら交わってしまいそうになる。


 いのりも私の背に手をまわして力を込めているのがどうにも愛くるしくて、目の前にある唇を奪ってしまおうかとも思ったが、すんでのところで理性が邪魔をしておでこにキスをした。手を離すといのりは目をぱちくりとした後何かをひらめいたかのように私の手を取ると手の甲にキスをした。


 こんなかわいい生命体を一人知らぬ地に残していくなんて、そんな考えが脳裏をよぎったがこれはいのりが決めたことだからと自分を納得させた。ずっとエンジンをつけっぱなしで停めておくわけにもいかないので一度お別れとすることにした。私はサイドミラー越しに手を振ってくれているいのりを横目に車を走らせる。


 次に会うのはいつか分からないけど、その時にはいのりはどう成長を遂げているのだろう。そう思いながら右手の甲をそっと私の唇に触れさせた。

 


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