カエルになった魔王さま4 え? 私のキスで蛙から魔王へ戻れるのに、そのキス係をクビですか? 身勝手なダメリーダー、後から謝罪したってもう遅い!

一矢射的

聖女のキスと魔女のキス



 私の名前はリーラ・レルロ―。

 新生魔王軍のサポート・キッス役をやっていま~す。

 え? なんだ、その妙な肩書きはって? それはね……。


 そもそも新生魔王軍を立ち上げたのは元魔王のデビータって奴なんだけど。

 彼が古巣の魔王城を追い出される際、信じていた部下に騙されて呪いの薬を飲まされた悲惨な(滑稽な?)過去があってね。

 薬の効果で彼の体はガマガエルになっちゃって。

 今でもずっと蛙のままなんだ、うん。

 そんな蛙化の呪いを解くには伝統的な解呪方法である乙女のキスが必要なわけ。

 女性がキスをすれば、はれて魔王の姿に戻れるんだけど。それもずっと戻れるというワケじゃない。制限時間五分の制約つきで、それが過ぎるとまた蛙の姿になってしまうの。つまり魔王として戦えるのは五分だけってことね。


 そんな有様でもデビータは裏切った部下と自分をハメた連中に復讐をしたい。

 裏で企ての糸を引いていたのは異世界の侵略者たち、通称「謎の軍団」

 お城と部下を失ったデビータが憎き「謎の軍団」と戦う為に新しく魔王軍を立ち上げ、私もそこに勧誘されたという流れなの。

 たとえ貧弱な蛙のボディでも! 男として負けっぱなしでいられないから! 

 地の底からも諦めず立ち上がる姿はちょっとだけカッコいいかも……ね。


 謎の軍団は魔王城のみならず世界中のあちこちで侵略行為をくり返しているから、各地を旅しながらそいつらを各個撃破。

 ゆくゆくは戦力を強化し、我々の手で魔王城を取り戻してやろうって寸法なの。

 どう? もうわかったでしょ?

 謎の軍団と戦うには、変身のトリガーである乙女のキスが必要不可欠。

 それもここぞっていうタイミングでキスをしてくれるカエルラブ勢の物好きな女の子が絶対に要るってコトが。

 デビータに付き合って敵地に潜入しなきゃならない時もある。制限時間が切れた蛙をつかんで脱兎のごとく逃げなきゃいけない時だって。

 か弱い女の子にはちょっとばかり厳しい職場かもしれない。

 口の悪い仲間は私の事を「キス係」なんて呼んだりもするけど。もっと気を使って大切にしてもらいたいものよね。まぁ、そう呼ぶのは主にデビータなんだけどさ。

 かくも労災不可避な業務をこなせる乙女がそうそう居るわけもなく。新生魔王軍に女性はいまだ私一人だけなんだわ。よく言えばライバルが居ないとも考えられるかもね。


 だから、私なら多少のワガママも許されると安心しきっていたんだけどなぁ。

 実はそうじゃなかったっていうのが今回のお話。

 あんな奴でも嫁(パートナー)になりたい人がいるものなのね~。

 絶対に浮気するからやめておけ、私なら声を大にしてソウ言いたいけど。


 あれはそう、デビータの奴がモジモジしながら言いだしたのが始まりだった。

 チクショウめ。






「あのさ、実は新生魔王軍に新しい女性を迎え入れようかと思うんだが」

「え? 何? 何ですって? よく聞こえなかった。パードゥン?」

「だからさ、危険な役割をリーラに押し付けたままだと君の負担も大きいだろうし、二代目キス係として別の女性を魔王軍に加えようかなって……」

「な、な、な、なんですって――!?」


 この野郎、よくも いけしゃあしゃあと ぬかしよるわ。

 今まで体を張って新生魔王軍を支えてきた……このアタシに向かって。

 アタシの大声で酒場に居た他の客たちが何事かと振り向いたが、そんなの構ってなんかいられない。こちとら輝かしい未来がかかっているんじゃ。カエルにキスするだけでVIP待遇の職場なんてそうそうない。これが固執せずにいられようか。


「それじゃ、なに? アタシはクビですか?」

「いや、まさか、そんな君の作る料理は美味しいし、洗濯だって人手がいる」

「ふざけんなぁ――! そんな雑用こそ新人にやらせろ」

「それがダメなんだ。彼女、大神殿から派遣されてきた由緒正しい聖女で、その手の雑用には詳しくないからさ」

「ファ――ッ!? いったいぜんたい何様? キレそう」

「まぁ、そう言わないで。そこに居るからさ。紹介するよ、エリザベートさんだ」


 酒場のテーブルにチョコンと乗ったカエルが、前足で隣のテーブルを指し示す。

 そこには純白のフード付きマントを身につけた女性が座っており、彼女がおもむろに立ち上がると頭巾を優雅な仕草で脱ぎ始めたではないか。


「おお、こりゃベッピンさんだべ」


 同席した田舎口調の牛男、ミノ吉が口走った。

 うう、悔しいがそれはアタシも認めざるを得ない。

 巻き毛の金髪で、柳のように細い眉。そして整った鼻筋と薄い唇。

 更には吸い込まれるような青く聡明な瞳。

 高貴な血筋であることが一目でわかるスーパーエリート。

 身につけた物も袖に金糸の入った法衣で、頭には黄金のティアラが輝いていた。この場に居合わせただけで どっちが当て馬か思い知らされる存在、それが彼女だ。

 せめて性格でも悪ければ付け入る隙もあるというものだが。


「初めまして魔女リーラさん、ワタクシ、クインシー大神殿より派遣された聖女のエリザベートと申しますの。お会いできて、光栄ですわ」

「ヘン、単なる森の魔女に会うのが、そんなに光栄なんですかね」

「それはもう、女の身でありながら世界平和の為に奮闘している方と聞いています。修行と称し神殿で安寧の日々を送るワタクシのような女からすれば……すごく憧れの人ですわ」


 これだ。話し方まで憎たらしいぐらい完璧とくる。

 私はもう、この場から煙のように消え去りたい気持ちでいっぱいだった。

 それでも新生魔王軍の先輩として少しでも威厳を示さねばならない。

 私は(新人の存在なんて)何でもない風を装いながら質問してみた。


「立派な聖女さまが、どうしてこんな魔王軍に入ろうと?」

「今は世界中が侵略者の脅威にさらされている時、魔王城も謎の軍団に占領されたままと聞いています。人だ、魔族だとえり好みしている場合ではありません。かの魔王が人類に残された最後の希望ならば、私はそれにお仕えするまで」

「それはそれは……」

「それに、聞き及んでおります。この穀倉地帯ウィートベルトを荒らす侵略者に新生魔王軍が敗北し、撤退を余儀なくされたと」

「ああ、この前の……痛い所をつくわね」



 そうなのだ。これまで各地で連戦連勝を重ねてきた新生魔王軍だが、ここにきて思わぬ強敵と出会い苦戦を強いられているのだ。その名も時魔導士ジーガー。

 デビータが奴に負けたのは私のせいでもあるので……。

 その話を持ち出されると凹んでしまう。

 思い返せばあれは一週間前のこと。




 私達新生魔王軍は中原地方のウィートベルトを訪れていた。

 大陸の食糧庫を自負するこの地では主に小麦の生産が盛んなのだが、季節外れの雪や寒波が原因で不作が続いているというのだ。それも背後で「謎の軍団」が暗躍しているせいだというのだから放ってはおけない。

 寒気の中心部分で見回りを続けること二日。

 ついに私達は飢饉の原因がたった一人の男であることを突き止めた。


 時魔導士とは時の流れを支配する術師の総称。

 この時魔導士が農地の季節を狂わせて寒気を引き起こしていたのだった。


 デビータは怪しげな術師を見かけた途端、いつもの調子で突っかかっていったのだけど。敵は私達の存在を知っていたようで、対決を待ち望んでいた節すらあった。


「待て待て、畑の真ん中にでっかい魔法陣なんぞ作りやがって。ミステリーサークルじゃないんだぞコラ。付近一帯の異常気象による環境破壊、貴様が原因だな」

「話すカエル。そうか貴公が……お初にお目にかかる魔王陛下どの。しかし、語弊がありますな。私はただ時の流れを少し早めているだけ。起きている現象は自然そのものだ、きわめて自然。何の問題がありましょうか?」

「ふざけるな、思いっきり人為的災害だろうが。そのローブは我が国の魔術師ギルドのもの。もしや地元の人間でありながら謎の軍団に与しているのか?」


 畑に立つ男は真紅のローブをひるがえし、不敵に笑った。

 カイゼル髭と片眼鏡がよく似合うオールバックの中年男性。

 しかし、その揺るぎない自信は尋常ならざる感じだ。


「笑止……ですかな。この私が時魔導士を目指したのは、人の寿命を克服し永遠の命を我が物とする為。その英知を授けてくれるのなら、このジーカー、たとえ悪魔とでも喜んで取引をしましょうぞ」

「なんちゅう俗物だ」

「なんとでも……彼らのくれた機械の体。この素晴らしさは俗人に判ろうはずもないのですから。せいぜい貴方たちは老いて死んでいくといい。いや、まずは飢えて苦しむのが先かな? ククク」

「侵略者の犬め、貴様の思い通りになんぞいくものか」


 チラリと私に飛んでくる意志のこもった視線。もう以心伝心は慣れっこだ。

 私がカエルの背中に口づけをするとボワンと白煙が上がりデビータは元の姿を取り戻した。風になびく黒髪、ニヒルで豪快な笑み。鷹のように鋭い目つきは、高貴と言うには粗野すぎる気もするが、ワイルドと呼べばきっと長所になる。

 最近はデビータの横顔を目にすると胸が高鳴るのはどうしてだろう? 彼こそが侵略者に立ち向かう世界最後の希望。自分がそこに貢献していることの自覚。そんな感情が芽生えてきたから、それだけだろうか?

 ただ今は、彼の活躍を特等席からこの目に焼き付けたい。

 それだけが私の密かな願いなのだ。


 しかし、私の思惑とは裏腹に……。

 この時 笑ったのは時魔導士ジーガーの方だった。


「聞いていますぞ、その変身は僅かに五分しか持たないそうですな。時魔導士の力にかかればそんなものは一瞬だ」


 呪いが解除されたと思った次の瞬間。

 再び白煙があがり、デビータはまたも蛙に戻ってしまったではないか。


「な、なんだまだ三秒しか経っていないぞ?」

「この魔法陣の効果で時の流れを加速させました。その結果、五分の変身時間は体感時間で三秒に短縮された。そういうことです」

「なんだと!? 五十分の一じゃないか」

「百分の一です。どうです? まだ不毛な挑戦を続けるおつもりかな? 貴方の部下たちをこの腕に仕込まれたバルカン砲でハチの巣にしてあげようか? 人の寿命は有限だ。時間を無駄にするのは止めた方が良いですぞ」

「く、くそ、一時撤退だ」


 わずか三秒では呪文の詠唱すらままならない。

 得意の魔術を行使できなくては、さしもの魔王といえども手も足も出ない。

 こちらを見逃す敵の余裕は気がかりであったけれど、私達に出来たのは無念の涙を噛みしめながら撤退することだけだった。


「クッソ―、アイツと戦うには変身時間五分では短すぎる。もっと変身時間を延ばさなくてはダメだ! なぁ、リーラ何とかならんか?」

「そ、そう言われてもアタシでは……」


 そう、何にも出来るわけがないじゃないか。

 キスをするだけなんて、楽で助かる~とか軽く考えていた私なんかに。


 そして、場面は街の酒場へと戻ってきまして。

 敗戦の苦い記憶を経て深く考えれば、デビータが聖女を紹介した事情もどうやら見えてくる。私はゴクリと唾を飲み込んでから、ちょっとした推測を口にしてみた。


「もしかして、彼女がキスをすれば変身時間が延びるとか? まさかね?」

「その通りですわ。このエリザベート、聖女として長年修行を積んだ身ですから。解呪の魔法ならば得意中の得意。それを応用してデビータ様に聖なるキスをすれば、必ずや三十分以上も解呪状態を維持できると約束しましょう」

「さ、さんじゅう……」


 私のキスはたった五分間の価値しかないのに。

 彼女のキスは三十分とくる。

 それではもう私を選ぶ理由なんて何もないではないか。

 デビータの個人的感情を抜きにすれば。


 私は彼にとって「お気に入り」ではないのだろうか?


 横目でチラリと一瞥すれば、この場面を迎えてカエルは蛙なりに神妙な表情をしていた。そして、カエル野郎は言った。


「リーラ、これからは補欠、予備のキス役で活躍して欲しい」


 少しでも期待した私が大バカだった。

 救世主だなんだと、ちょっとでもカッコいいと思っていた気分が台無し。

 カエル野郎はしょせん蛙なのだ。マヌケ面め!


「そう落胆しないで下さい。貴方の抜けた穴は私が埋めてみせますから」

「もういい! 邪魔者は失せるから、あとは勝手にやってよ」


 新人に慰められると余計惨めなんだけど?

 涙の雫をポタポタ垂らしながら私はその場を退散した。

 ううう、なんで私がこんな目に。


 街はずれにある丘まで逃げ走り、そこから雄大な景色を眺めていると高ぶった気が少しずつ落ち着いてきた。夕焼けに照らされた街並みはドールハウスのように小さい。こうして高所から見るとちっぽけだが、あの屋根の下ひとつひとつに幸福を望む家族の暮らしが営まれているのだ。私はなんとなく子どもの頃に祖母と交わした会話を思い出した。


『私もいつか大きくなったら男の人と結婚するのかな?』

『ええ、そうですとも。素敵な男性と巡り会えますとも』

『うーん、素敵な男性ってどんな人だと思う? お父さんみたいな人?』

『まぁ、この子ったら。そうね、一番大切なのは心から相手を信頼できるかどうか』

『しんらい?』

『お互いの心を繋ぐ大切なものよ。たとえ喧嘩をしてそっぽを向き合っていたとしても、信頼のおける相手とは心の奥底で繋がっているものなの』


 いつかは祖母の教え通り、信頼できる男の人と巡り会えると信じていた。

 昨日まではその相手がデビータなのではないかと思っていた。

 ちょっとだけ、ほんのちょつぴり妄想にふけるぐらい別に良いではないか。

 それなのに……愛しの君はしょせん泥臭いカエルでしかなかった。


「大切なのは信頼かぁ……」


 私は小声でつぶやくと、充分に眺めを満喫してから踵をかえした。



 翌日、デビータが再び時魔導士に挑むつもりだと風の噂で耳にした。

 噂の発信源はミノ吉だけど。


 新人に私の代わりが務まるのか、興味本位で覗き見るつもりだった。

 近くの畑に変色した小麦が生えた個所があったので、その中に隠れて様子を見ることにした。別にもう関係ないと割り切る事も出来たのだけど。心の中の何かが「それはいけないよ」と安易な切り捨てにストップをかけるのだった。

 エリザベートが皆と上手くやるのなら、それはそれで諦めがつくだろうし。


 ところが、ジーガーの前に立ったのは二人だけ。

 より正確に述べれば一人と一匹だけだった。

 肝心のエリザベートが来ていない。

 これには蛙野郎も驚きを隠せない様子だった。


「おいおい、彼女はどうしたんだ?」

「それが……ついさっきお腹が痛いと言ってそれっきりだっぺ……」


「なんと無様な。一度は見逃してやったのに、こんな有様しか準備できないとはね。どうやらあの方も君を買い被っていたらしい」

「あ、あの方?」

「知る必要はない。今度は忘れ得ぬ痛みを刻み込んでやる。仲間の死という痛みを! 無様な蛙よ、貴様は生き延びて謎の軍団の恐ろしさを語り継ぐのだ」


 ジーガーの義肢が二つに割れ、中から黒光りの銃口が飛び出した。

 その先はミノ吉の顔面へと向けられていた。


 もう、プライドがどうの言ってる場合じゃない!


「待ちなさい。揃いもそろって、クズばかりなんだから!」

「なに?」


 私の出現にジーガーの視線が一瞬それた。

 その隙をついて、ミノ吉が手にした斧を投げつける。回転した手斧は見事に魔導士の肩へと命中し、後方へと吹き飛ばすのだった。

 機械の体に刃物は弾かれた様子だが、一瞬の猶予が生まれればそれで事足りる。


 目と目が合えば通じ合う、それが以心伝心。

 もう慣れっこだ。デビータと目が合った瞬間「頼む」とそう言われた気がした。


「でも私じゃまた同じ結果に……ええい、信じているわよ」


 両の掌にデビータ蛙を乗せた時、気が付いた。

 彼が両目を閉じ、既に詠唱中であることに。

 なるほどそうきたか、私はそのまま彼に口づけを済ませた。


「伏兵とは、やるな! だが所詮、変身時間はたったの三秒 ――!」

「たったじゃねぇ! 仲間が紡いで作った三秒だ。必ずや、活かしてみせる!」


 魔王の姿へと戻ったデビータは、蛙の時から詠唱中だった魔術を完成させた。

 タイミングバッチリ! 長年組んできたコンビは伊達じゃないから。


「魔法の矢よ、敵を穿て! 螺旋魔弾五連撃」


 空中に生まれた魔法の弾丸がタイミングをずらしてまったく同じ場所に着弾していく。短い詠唱のカンタンな術だ。一撃だけなら機械の体を破壊するには至らなかっただろう。だが、一ミリのズレもなく五回の攻撃を同じ急所へ叩き込めば?


 時魔導士ジーガーはご自慢の機械の体を完膚なきまでに破壊され地に伏した。


「グッハァ!」

「ザマァみやがれ、コンコンチキ……とは言っても蛙の姿じゃイマイチしまらねぇ」


 本当にギリギリだった。

 攻撃魔法が発動したその瞬間、変身が解け蛙に戻っていたのだから。

 奇跡の連携を成し遂げたデビータは自嘲気味に笑いながら私に問いかけた。


「どうして戻ってきたんだ? こんな浮気野郎の為に」

「クビじゃなくて、補欠の予備なんでしょ? ちゃんと出番があったじゃない」


「ちゃんと謝れば良いのに。どうしてこう素直じゃないんだべ? まぁ、いいか」


 そうミノ吉の言う通り。まぁいい……なのだ。

 本当に大切なのはお互いの信頼であって、それは言葉を解せずとも通じ合うものだから。そういう事にしておこう、今だけは。


 兎も角、時魔導士ジーガーは捕縛の身となり一件落着。

 季節外れの寒気を生み出していた魔法陣は封印され、国の食糧庫であるウィートベルト地帯は平穏を取り戻すのだった。


 しかし、気になるのは突然現れて突然居なくなった新人の素性。

 エリザベートはあれ以降とうとう姿を見せず、後に大神殿へ問い合わせてみた所、そのような聖女は在籍していないという返答をもらった。


 すると……彼女はいったい?

 まるで私達を試す為に現れたかのような新人。

 その正体は最後まで謎に包まれていた。










 ところ変わって主なき魔王城ダークキャッスル。

 玉座に腰掛ける人物はデビータを罠にはめて城を追放した軍師。

 ダークエルフのミザリーその人でした。

 そんな彼女に玉座の後ろから忍び寄る影が一つ。

 片膝をついて首をたれ、忠誠を示すその影は一言述べました。


「申し訳ありません。時魔導士ジーガーが敗れました」

「彼らの信頼関係は揺るがなかったという事か……。貴方もご苦労だったわね、エリザベート。飢饉を引き起こしたうえで食料を配れば、人心の掌握も簡単だと思ったが。こちらで別の手を考えるとしよう」


「恐れながら、ただ彼らを始末するだけなら幾らでもやりようがあるはず……なぜ、このように回りくどい真似をするのです?」

「私は見たかったのだ」

「と申しますと?」

「この城を追放されたデビータが心を入れ替え、魔王としての心を取り戻したのか。それを確認しておきたかった。エリザベートよ、王にもっとも許されない甘えはなんだと思う?」

「はて、私では何とも」

「それはな……無いものねだりだよ。お前という甘えを投入して、仲間に不甲斐ない姿をみせるかどうかテストしてやったのさ。男という生き物は甘ったれだ。まったくな! カエルになるか、王子となるかは本人の心がけ次第」

「貴方は少しも疑ってはいないようですね?」

「うん?」

「デビータが貴方の試験に合格すると心の底から信じ切っているように見えます。これもまた信頼のカタチなのでしょうか?」

「ふっ、そう見えるか? なかなかの慧眼よ」


 微かに失笑してからミザリーは続けました。


「奴は必ずやこの城に戻ってくる。どうせ戦うのなら盤石の状態に築き上げた新生魔王軍とやらと戦ってみたではないか?」


 これもまた信頼の証し。

 ヤンデレ軍師は彼女なりの愛を惜しみなく注いでいるのでした。

 たとえ歪んではいようとも、愛の鞭で魔王城を追放された蛙は、深き信頼と期待を一身に浴びているのです。それに応えられるかどうかは、全て彼の心がけ次第。


 男はいつだって魔王にも蛙にも成り得るのですから。






※ 最後までお読み頂き、心より御礼申し上げます。

 もし、こちらのシリーズに少しでも興味をもってもらえたのならば

 これまでのエピソードへのリンクを張っておきますので

 宜しければ是非!


記念すべき旅立ち(追放)の記録

https://kakuyomu.jp/works/16818093090196213683


ヒヨコ勇者との共闘

https://kakuyomu.jp/works/16818093092034254131


大道芸人を夢見る少年と魔王の交流

https://kakuyomu.jp/works/16818093093777795547



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