第5章 俺だけは——“あいつ”の未来を守ると決めたんだ。

夜——。


部屋の天井を見つめながら、俺はひとり、目を覚ましていた。

その静けさを破るように、ゆっくりと扉が開く。


「龍馬、起きてるか?」


低く押し殺したような声。

振り向くと、父がいた。


「……なんか、お前、変わったな」


——その言葉に、一瞬だけ息が止まる。


父の目は、真っ直ぐに俺を見ていた。


『未来から来たって話……

全部が全部信じてるわけじゃない。

でもな、あれから……

母さんの様子、少し変わった気がするんだ』


その一言が、心を揺らした。


あの日、母との対峙で俺は確かに覚悟を決めた。

父にも真実を全て話してみようと

今ここでまた新たな決意が生まれた。


「父さん。

俺はゆうひを守るために過去に戻ってきたと言ったよね?」


『ああ。たしかにそう言ってたな』


「ゆうひは…


ゆうひは…


俺のいる未来にはいないんだ…」


『…?

どういうことだ?』


「ゆうひはね…

心の病気を抱えて…

自らいのちを…」


『やめろ!

それ以上…言うな。

冗談でもきつすぎる。』


「ごめん。

急にこんな話しても受け入れられないよね。


でも———


父さんには


ゆうひを守るために


味方でいて欲しいんだ。」


父は黙っていた。


その表情には迷いと、わずかな困惑が滲んでいた。


だけど——それでもいい。

味方かどうか、今はまだわからない。


それでも俺は、言葉にして伝える必要があったんだ。


次の日。

教室の窓から差し込む朝日が、やけに眩しかった。


『龍馬はまた正解だな。なんか急に頭よくなったか?』


「いや先生、またまた。そんなこと言っても何も出ませんよ?」


クラスが笑いに包まれる。


「おい、龍馬。なんか最近先生に敬語使いすぎじゃね?」

「てか、おまえちょっと変わったよなー」


ざわざわとした空気。


子どもの俺は、低次元な話についていけず

少し浮き始めていた。


未来を知る者として

“一匹狼”と化しているのは誰の目にも一目瞭然だった。


それでも、守りたいものがある。


———ゆうひに全てを注ぐんだ。



放課後——。

教室の廊下を歩いていると

やけに見覚えのある顔が。




















ドクン。






















廊下中に響き渡るほどの

心音が襲う。




















あいつは———





高校でゆうひをイジメていた





アツト———だ。




まだ小学校低学年なのにやたらデカい図体を揺らして

我が物顔でのっそりのっそり歩いている。




その刹那

小さな女の子が教室を飛び出してきて


豪快にアツトにぶつかった。


あれだけの巨体に勢いよくぶつかったんだ。


ダンプカーに衝突されるレベルの衝撃があったのだろう。


耳につんざく周波数で

学校中を泣き声が包み込んだ。


「おい!大丈夫か?

すぐ保健室にいこう!」


俺は女の子を抱えて足早に保健室へと

手を引いた。


アツトは年下のクセに

睨みつけるように立ちすくんだまま

こちらを向いていた。




あいつも———


ゆうひがおかしくなる要因の1人だ。


部活であいつは執拗にゆうひをイジメた。


絶対に許さない。


ゆうひには指一本


触れさせないぞ。


ゆうひに近づけさせないためには

どうするべきか———


グルグルと

思考の渦に巻き込まれて

ただ時間だけが

無常に過ぎていった。



夜——。


俺は布団の中、“未来ノート”を開いた。


【ゆうひを守る5ヶ年プラン】

・母からの理不尽な暴力を止める方法

・父からの介入を引き出す作戦

・部活や人間関係の分岐点の確認


ノートを見つめながら、俺は呟いた。


「……これ、1人で全部できるのかな、、」


そのとき、またプリンの声が響いた。


『全部、自分でやろうとするんじゃないよ』


『未来を変えるのは、ひとりじゃ無理。頼ることも、勇気だよ』


「わかってる。でも……誰が助けてくれるんだよ」


『今できることを一歩ずつやればいい。

ゆうひの今の笑顔——アンタが与えてるんだろ?

その変化、アンタは軽く見すぎだよ』


……変えられる。 少しずつでも、変えられる——


ベランダに出ると、星が滲んでいた。


夜風が、頬をなでていく。


「……俺は、正しいことをしてるんだよな」


小さくつぶやいたその瞬間。

背後から、再びあの声が届いた。


『正しさより、大切なのは——  後悔しないことだよ』


——ああ、そうか。

俺はたとえ世界中を敵に回しても、

“あいつ”の未来だけは——


この手で

守るんだ。


第5章 了


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

第5章をご覧いただき

誠にありがとうございます!

拙い文章で読みづらい点も

多々あるかと思いますが

応援ボタンや感想、

ここはこうした方がもっと良くなるよ!

といったアドバイスも

どしどしお待ちしております!

また次章も読んでいただけると

涙が枯れるほど嬉しいです!

よろしくお願いします!

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

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