君を救えた世界で、俺は君の兄でいられるか
龍馬〜・りょうま・〜
プロローグ
「ゆうひが、死にました」
父から届いたそのメールを、
俺は何度も見返していた。
文末に句点もない、無機質な五文字。
それなのに、心臓を殴られるような衝撃。
いや、殴られるなんてもんじゃない。
突き刺さって、えぐられて、
脳の奥で
「まさか」
という言葉だけが空転していた。
冗談であってくれ。
いたずらメールであってくれ。
でも父がそんなことするはずがないと、
わかっている自分がいた。
手の震えが止まらなかった。
気づけば新幹線に乗っていた。
隣には父。腕を組んだまま、
固く黙り込んでいる。
窓の外には、冬の景色。
車内アナウンスが遠くで鳴っている。
「まもなく、京都——」
景色がぼやけて見えた。
涙のせいだと気づいたのは、
少し経ってからだった。
俺は静かに泣いていた。
あいつが、死んだ?
なんでだよ。
俺、まだ何もしてあげられてないよ。
お前の“兄貴”でいる時間、
ほとんど何もできてなかったじゃんか。
ずっと後悔してた。
もっと連絡すればよかった。
もっと話せばよかった。
もっと近くにいればよかった。
でも、それって…「今さら」なんだろ?
なんで。なんで死ぬんだよ、ゆうひ。
そのまま、俺は眠った。
泣き疲れたのか、
心が耐えきれなかったのか。
夢も見ない、ただの暗闇に落ちるような眠りだった。
……だけど、目を覚ましたのは、なぜか——
ベッドの上だった。
静まり返った部屋。
喉が痛い。いや、違う。声が出ない。
何か言おうとしても、音にならない。
スマホを見ても、
あのメールはどこにもなかった。
カレンダーを見る。日付は現代。
あの出来事の少し先の世界。
あれは夢だったのか?
でも、頬には涙の跡があった。
胸の奥では、
あの言葉が焼き付いて離れない。
「ゆうひが、死にました」
夢? 現実? それとも…
どっちにしても、このままじゃいけない。
俺の声が出なくなったのは、
“何か”のサインなんだ。
何かを、取り戻さなきゃいけない気がする。
俺の名前は、龍馬。
36歳、声の出ない無職のクソおっさんだ。
でも、もう一度、あの時に戻れるなら。
今度こそ、お前を救いたい。
あの時、
俺が見て見ぬふりした全部を…変えたい。
これは、俺の「人生」と「弟」と「未来」を賭けた、
——タイムリープの物語だ。
プロローグ 了
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