海が見える場所で、これからも半分こ。

@BAYSSHONAN

第1話 何気ない一日。

退屈。最近よくそんな言葉を呟くようになった。

この街に生まれ育って早16年が経とうとしている。少しづつ街は変わっていくけれど、僕にとっては最早誤差の範囲内な変化だ。

やれ隣の駅に大型のショッピングセンターができたり、映画館が新しい方に流れて行ったり。

かと思えば反対側にも超大型モールができたりと。近隣の駅や街には変化があるというのに。

今僕が住んでいるこの街は、やれ有名なアーティストやテレビでたまに取り上げられることがあるからか地味に人気の街だ。僕からしたら何がいいんだろうとそんな記事を見るたびに複雑になってしまうけれど。


神奈川県茅ケ崎市。相模湾と丹沢山・箱根に囲まれた自然豊かな神奈川県でもとりわけ有名な湘南地区の中心に位置するこの街は、僕の物心がついた時から夏になるとたくさんの人が海へと足を運ぶ、そんな街だった。

そんな僕も、昔は父に連れられて海水浴へ行ったり、山を切り開いた大きな自然公園で芋ほりをしたりと、それはまぁいろんなことをしてきた。

それでも、いつからかこの街に新しい刺激というか。景色が灰色になってきているのを感じたのはいつからだっただろう。


今もこの街にはゲームセンターはない(商業施設の中の小さな場所はあるけれど。)し、古い店がいつの間にかなくなっていってるし。


「とし・・・俊哉!」


そんなことを自室で考えていると、下の階で料理をしていた母の声で現実へと引き戻された。

時間を考えるに、多分何かが足りなかったんだろう。ただこれでなにもせずに部屋にいたら雷が飛んでくるのも間違いはない。とりあえず財布をもって下に降りることにした。

「なに?買い物?」


「そうなのよ。今日肉じゃがにしようと思ってたのに、大切なしょうゆを切らしてるのに今気が付いたのよ。この時間じゃスーパーも閉まってるし、近くのコンビニで買ってきてくれないかしら?」


「そもそもなんで醤油がないことに今の今まで気づかなかったの?昨日我が家の夕飯刺身だったよね?」


「とにかく。おつりでなにか買ってきていいからお願い!」


しょうがない。そしておつりで何か買ってきていいといわれるのならなおさらだ。自由に使えるお金がない高校生にとって、おつりを自由に使っていいという言葉はまるで魔法の言葉だ。

それにコンビニといっても歩いて5分ぐらいの場所にあるし、この時間に出掛けるというのは正直ドキドキする。そんな気持ちを抑えながら、僕はサンダルを履いて玄関を出るのだった。


3月ももうすぐ終わる…とはいえ、夕方と夜がカーテンを引きあうような空の中、目的のコンビニまで足を急がせる。好きなものを買って帰れるとはいえ、これがないと今日の夕飯にもありつけないのも事実だし。

そんなことを考えていた矢先、視界にコンビニの看板が見えてきた。国道沿いにある大きく明るいコンビニ。さっさと入ろう。そんな時・・・


「あっ」


「おっと」


ちょうどコンビニの出入り口から出てきた人とぶつかってしまった。


「あ、あのっ!ごめんなさい大丈夫でしたか?」


ぶつかってしまった相手からそんな言葉を投げかけられる。


「いえ、こちらこそちゃんと見ていなくてごめんなさい。けがはなかったですか?」


「私は大丈夫です。貴方もお怪我がないみたいでよかった。それじゃあ、私はこれで。」


そういいつつ、頭を下げる彼女の背をじっと見てしまう僕。どことなく懐かしい雰囲気があったのは気のせいだろうか。


「・・・まぁいいか。とりあえず早く帰ろう。」


目当ての醤油と食後のアイスをレジに通し、そのまま家路を急ぐ。


ただ、この時はまだわからなかったんだ。この出会いが、これからの時間を大きく変えていくことになるなんて。

そして、人生の新しい風になるなんて。

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