『俺達のグレートなキャンプ3 わんこそば』
海山純平
第3話 『わんこそば』
夕暮れ時のキャンプ場。松の香りが漂う中、テントが点在している。その一角に、他より少し賑やかなキャンプサイトがあった。
「いよっ!今日もグレートなキャンプの時間だぁ!」
石川の声が場内に響き渡る。彼の隣では千葉が椅子に座り、興味津々な表情でキャンプファイアーを眺めていた。そして少し離れた場所で、富山が心配そうに荷物を整理している。
「石川、今回はいったい何をやるつもりなの?」富山が眉間にしわを寄せて尋ねた。
「へへっ、今回は特別なんだぜ!」石川はニヤリと笑い、大きなクーラーボックスを引っ張り出してきた。「俺たちは『わんこそば』をやるんだ!」
「は?キャンプ場でわんこそば?」富山の目が丸くなる。
「そうそう!いつものキャンプじゃつまらないだろ?だから今回は『キャンプわんこそば大会』を開催するんだ!」
石川がクーラーボックスを開けると、中には大量の蕎麦と小さなお椀が詰まっていた。
「すげぇ!本格的だな!」千葉が興奮した様子で覗き込む。
「待って、わんこそばって専用の器具とかいるんじゃないの?それにお店みたいに人がついて出し続けるのも難しいし...」富山が懸念を示す。
「心配するな!俺が考えた『キャンプわんこそばルール』があるんだ!」石川が自信満々に宣言した。「まず、キャンプテーブルを囲んで座る。一人が『親』になって蕎麦を出す役をやる。他のみんなは競争で食べる。親は30秒ごとに交代。最終的に一番食べた人が勝ち!」
「なるほど!それなら回せるね!」千葉が目を輝かせる。
「ちょっと待って...」富山が顔を引きつらせる。「周りのキャンパーの迷惑にならない?」
「大丈夫だって!みんな自分のサイトで楽しんでるし、うるさくなりすぎなければ問題ないよ!」
準備が整い、石川、千葉、富山の三人がテーブルを囲んだ。
「じゃあ、まずは俺が親をやるぞ!」石川が宣言し、小さなお椀に蕎麦をよそい始めた。「いくぞ...せーの!」
「いただきます!」千葉と富山が声を合わせる。
千葉は勢いよく蕎麦をすすり、「はい、おかわり!」と元気よく椀を差し出す。富山も意外な速さで食べ進め、「おかわり」と小声で言う。
「おっ、富山も本気モードじゃん!」石川が笑いながら次々と蕎麦を出していく。
「意外と楽しいかも...」富山が少し笑顔になる。
30秒が経ち、親が千葉に交代。
「よーし、俺の番だ!石川先輩に負けないくらい早く出すぞ!」
千葉の蕎麦の出し方は少々雑だが、スピードがある。石川は食べるペースが速すぎて、「うぐっ」と喉を詰まらせそうになる場面もあった。
「おい千葉、もう少しゆっくり出せよ!殺す気か!」石川が笑いながら言う。
「これがわんこそばの醍醐味じゃないですか!」千葉が楽しそうに返す。
周囲のキャンプサイトから、彼らの賑やかな様子を不思議そうに見つめる人々がいた。
親が富山に交代した頃、隣のサイトからひとりの中年男性が近づいてきた。
「すみません、何をやっているんですか?」
三人は一瞬固まった。迷惑をかけていたか、と富山の表情が曇る。
「あ、すみません!うるさかったですか?」富山が慌てて謝る。
「いや、うるさいというわけじゃなくて...」中年男性は少し照れくさそうに笑った。「楽しそうだなと思って。わんこそばをやっているんですか?」
「そうなんです!僕たちの『キャンプわんこそば大会』です!」千葉が嬉しそうに答える。
「面白そうですね。実は私、岩手の出身でして...本場のわんこそばは子供の頃からよく食べていたんですよ」
「マジですか!?」石川が飛び上がるように驚く。「よかったら一緒にどうですか?」
中年男性は少し躊躇したが、「では、お言葉に甘えて...」と仲間に加わった。
それをきっかけに、隣のサイトの家族連れも興味を示し、「子供たちも参加させてもらえますか?」と声をかけてきた。
「もちろん!大歓迎です!」石川が満面の笑みで答える。
気がつけば、彼らのキャンプサイトは『キャンプわんこそば大会』の会場と化していた。様々な年齢、様々なキャンプスタイルの人々が集まり、わいわいと蕎麦を食べる姿はまさに「グレートなキャンプ」そのものだった。
「石川さん、これってもしかして...キャンプ場フレンドリー作戦でした?」千葉が小声で尋ねる。
「いやいや、単純に暇つぶしのつもりだったんだけどな」石川は照れくさそうに頭をかく。「でも、こうやって他のキャンパーと交流できるのも、キャンプの醍醐味だよな!」
富山は最初の心配が嘘のように、子供たちにわんこそばの食べ方を教えながら笑っていた。
夜も更け、大会は幕を閉じた。優勝したのは意外にも岩手出身の中年男性で、「やっぱり地元の人は強いな!」と一同が感心した。
キャンプファイアーを囲み、新たな友人たちと語り合う三人。星空の下、富山がつぶやいた。
「石川、今回も変なことを始めると思ったけど...結果オーライだったわね」
「でしょ?俺の計画は最終的にグレートになるんだよ!」石川が胸を張る。
「次はどんなキャンプをするんですか?」千葉が期待に満ちた表情で尋ねる。
「それはだな...」石川が意味深に笑う。「次回の『俺達のグレートなキャンプ』をお楽しみに!」
キャンプ場に笑い声が響き、彼らの「グレートなキャンプ」は今夜も続いていくのだった。
【終】
『俺達のグレートなキャンプ3 わんこそば』 海山純平 @umiyama117
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